鳥篭の夢

誕生日



「そういえば明日はの誕生日ね。
何か欲しい物とかある?お姉さんがプレゼントするわよ~」
「へ?」

欲しい物?

「んー・・・別に無いかなぁ。
そもそもアタシ、自分の誕生日とかも忘れてたし」

野ばらちゃん以外に今まで祝われた事もないし。
あ、野ばらちゃんの誕生日はバッチリ覚えてるけどさ。

「もぉ。は本当に物欲が無いんだから。昔からそう。
こういう時はあたしにオネダリしてくれて良いんだからね?」

ふふふ。なんてちょっと怪しい笑い。でも本当に何も欲しいものなんて無い。
アタシは野ばらちゃんが祝ってくれるって、それだけで嬉しいんだけどな。

「ありがと。じゃあ何か思いついたら言うよー」

にっこり。返したら“あら、残念”だって。もしかして言わないのバレバレ?
でもほら・・今年は久しぶりに野ばらちゃんとお誕生日過ごせるのは嬉しいから。
本当にそれだけで嬉しいのになぁ。

・・・なんて会話をしたのが昨日の事。
それから本日、つまり誕生日当日な訳だけど。まぁ、でも普通に学校あるし。
レン君から“おめでとー”って軽いお祝いの言葉があった位かな?
後は特に何かある訳じゃないごくごく普通の日常を過ごして、帰宅し──


──...パァンッ

「ひゃっ」

ビックリした。唐突の破裂音と、それから・・・


「「「「誕生日おめでとう!!」」」」


玄関を開けた先。ラウンジには、野ばらちゃんの・・・皆の笑顔。
手にはクラッカーが握られてて、それでさっきの音の正体なんだって分かる。
確かに今日は誕生日だけど。まさか帰宅早々に祝われるとは思わなかった。
だけどそれは決して嫌な感情じゃなくて、胸が温かくなるのが分かって、それはどんどん広がっていって・・。

「皆、ありがとう」

嬉しい。そうだ・・・これは“嬉しい”感情だ。
ただ純粋にその感情がアタシを占める。
普段あまり周りと関わろうとしないちよちゃんとミケ君も一緒にいるし。
自称・不良の卍里君も参加してくれてるし。あ、これは残夏君とかカルタちゃんがいるからかもしれないけど。
それでもやっぱり嬉しい。所謂お誕生日会みたいな事。こんなの初めて。

ただ、ほんの少し。蜻蛉がいないのは寂しいけど・・・。
んー・・でもいたらいたで野ばらちゃんと険悪ムードになるし。それは嫌だからまぁ良いか。

「ほらほら~☆たん、こっちこっち~♪」
「そうよ、。今日は貴女が主役なんだから、ね?」

残夏君に手招きされて、野ばらちゃんに背を押されて中へとぐいぐい進んでいく。
何だか気恥ずかしい。えぇと、こういう時はどうしたら良いんだろう?

「ケーキ・・折角だから蝋燭も・・・」

ぷすぷすと年の数だけ蝋燭も立てていって、皆が歌ってくれるのも、蝋燭を吹き消すのも初めて。
野ばらちゃんは一緒にケーキを食べてくれるけど歌までは無かったもんね。勿論、あれも嬉しいけど。
早速とカルタちゃんがケーキを切り分けてくれて、あぁ・・やっぱり丸ごとの鳥は今回もあるんだね。
なんて考えたらそれはそれで楽しくて。満ちたりた想い。
沢山のプレゼントと、沢山のお祝いの言葉と・・・。

皆が一緒にいてくれる事がこんなに嬉しいと思わなかった。


「はぁー・・・ビックリした」

結構な時間騒いでから解散した訳だけど・・・まだ余韻が残ってる。
お風呂入った程度じゃ落ち着かないなぁ。んむむ。仕方ない。
これは部屋に戻ってプレゼントに貰ったゲームを早速プレイしてみなくてわ!
なんていそいそとエレベーターのボタンを押す。扉が開いて乗り込もうとして・・・ぇ?

「蜻蛉・・?」
「ただいま帰ったぞ、我が愛すべき家畜よ!」

エレベーターの扉の先に、まさかの姿。
考えてたらそのまま腕を引っ張られてエレベーターの中に引きずり込まれた。
扉があっという間に閉まって動き出す。えぇと、嫌、そうじゃない。
そうじゃなくて、何で此処に?というか・・。

「蜻蛉、帰ってきてたの?」
「今しがたな。遅くなってすまなかったな、これでも急いだのだ」
「急いだってなん・・でっ!?」

軽々と横抱きにされて閉口する。丁度開いた扉を出た先は・・・えぇと、二号室?
そのまま蜻蛉の部屋まで行くとベッドの上に降ろされた。
否、正確に言うのならば、ベッドに座った蜻蛉の膝の上。だけど。

「貴様は今日が誕生日なのだろう?」
「ぇ?うん。そうだけど・・よく知ってたね」
「・・・まぁな」

短い返事。ふいとそっぽを向くような、ほんの少し拗ねた顔。
あー・・・えっと、あれだ。こういう時って大抵が残夏君からの情報だったりするんだよね。
別に情報源が誰でも気にする事ないと思うけど、それ以上はつつかない。これポイント。

「それで急いで帰ってきてくれたの?」
「勿論!愛するを祝わずに如何しろと言うのだ!
さぁ、今日は存分に甘えさせてやろう!ほら遠慮する事はないぞ!!」
「いや、意味分かんないし」

そんな両手広げて待機されてもちょっと困る。後、その満面の笑顔も反応に困る。
既に膝の上にいるんだけどこれ以上どうしろと?
あ、あれか?アタシから抱きつけと仰ってるのかな??一体どんなつもりなのか・・・うーん。

「それに・・・ほら。一緒にいる時はなんだかんだ甘えてる・・つもり、だから」

今更、これ以上甘える方法なんてアタシには分からない。
というか言ってて凄い恥ずかしくなってきた。
耐えられなくて顔を背ければ、イキナリ両手で固定された上に思いっきり戻された。
今、首がヤバイ音しかけたんだけど?後、恥ずかしい。凄く恥ずかしい。

「全く、貴様は本当に欲が無さ過ぎるな。主人を困らせるとはまさにドS・・。
否!そう見せかけて、自らの発言の羞恥に耐え切れない辺りまだまだ甘い。流石はドMだな!」

“耳まで赤くなってるぞ”なんて言葉を加えるのもご遠慮願いたいけど。
更に耳を甘噛みするの止めれ。身を捩っても抜け出せなくて結局はされるがままになる。
いや、本当は鼬に変化すれば抜け出せるんだけどさ。嫌じゃないからそのままなだけ。
耳から口を離して、今度は髪を弄られる。優しく、丁寧に。
凄く愛されてるのは分かるんだ、本当に。
だけど未だそういった急な要求には応えられてない。というか、応え方が分からない事が多い訳で。

「別に困らせたいつもりは無いけど。
だってこれ以上どうすべきかなんて分かんないし」
「ふむ。ならば逆に、私自らが貴様を甘やかしてやろう!」
「・・・・は?」

いや、えぇっと・・ちょっと待って。何が何で如何してそうなるの?

。貴様はもう少し甘え方を知るべきだ。
ただし他の誰でもない──私だけに」
「か、かげ・・・」
あわわわ、何だか蜻蛉が別の種類でおかしい。普段と発言が違いすぎて困る。
名前を呼ぶ前に手首をとって口付けられた。恥ずかしすぎて頭の中が真っ白になりそう。
仮面の奥から覗く青い瞳がアタシを見つめているのが分かる。
それだけが視界一杯に広がって、思考回路も全部持っていかれて、もう何も考えられない。

「安心しろ、蕩ける程に可愛がってやる。存分に甘やかされるが良い。
・・と、あぁ。遅くなったが・・・・・誕生日おめでとう、

耳元で囁くような祝いの言葉。
耐え切れなくて、アタシはそれに小さく頷くしか出来なかった。



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