鳥篭の夢

終わりの時



「危な・・野ばらちゃんっ!」

百鬼夜行とかって馬鹿げた理由で自我を奪われたカルタちゃんからの攻撃。
だけどソレを止めるなんて名目で彼女を傷つけるのは嫌で、だから野ばらちゃんが受けそうになった攻撃を前に出て弾いた。
というか半分吹き飛ばされた状態。ざりざりと砂が擦れる音と共に減速しながら体勢を立て直して──。

っ!!」

──ぇ?

野ばらちゃんの声に顔を上げる前に、後ろから貫かれる衝撃。

どんな痛みだった?なんて、考える暇も無く。
寧ろこれは痛みなの?なんて、疑問に思う間も無く。

身体から急速に力が抜けて、アタシはその場に倒れこんだ。

周りで何か声が聞こえるけど余りの激痛に頭が理解しない。激痛という感覚すらも危うい。
蜻蛉?仰向けにされて、まず目に飛び込んできた姿。
近くには野ばらちゃん。あはは、ダメだよ。アタシに構ってたら皆もやられちゃう。
2人が何か言ってる。何だろう?ごめん、聞きたいけど・・・聞きたいんだけどね、何か、無理だ。
だってほら、胴体に思いっきり穴開いてるし。内臓ごとやられちゃったみたいだし。ごめん。
アタシ役に立てないまま死んじゃうみたいだ。

だってほら、痛みはもう痛みとかいうレベルじゃなくて、今はもうただ身体が重くて・・・。

あぁ、でもね。今、温かいのは分かるよ。
蜻蛉が抱きしめてくれてるのは、すごく温かくて気持ち良い。

不謹慎なんだけど、幸せだなぁ。って思う。
好きな人に抱きしめられて逝けるなら、それは一種の幸福だ。
実家にいたらこんな事絶対に感じなかった。

傷付いた仮面の下から血が滴ってるのが見えて、壷に僅かに残った薬をその箇所へ塗る。
これが最後。アタシが作れる最期の薬。止血出来たのが見えて一安心。

じわりと目の前が霞んで見えない。見るとか、見ないとか、それすら分からない。
音はもうとっくに聞こえなくて。解るのは温かな感触だけで・・。
瞼の裏に焼きついた思い出がぐるぐると巡る。走馬灯ってヤツだよね、これって。
幸せの記憶。皆と出会って、蜻蛉と一緒にいた、沢山の思い出が駆け巡る。


日常が楽しかったのは、皆と出会えたから。
毎日が色鮮やかだったのは、皆がいてくれたから。
幸福だと感じる事が出来たのは、皆のおかげ。

ごめん、皆。
ごめんね、野ばらちゃん。
・・・・・・蜻蛉。

アタシ、もぅ──。



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