二段変化の理由
「そういやお前って、耳と尻尾がついてる時と、完全に鼬なのとどっちがマジの変化なんだ？」
「ん？」
珍しく卍里君が自分から絡んでくると思ったら、更に珍しい問い。
「んー････一応、妖怪になるって意味での変化は鼬の方。
何故ならばそっちの方が姿形として安定してるし、人型変化の時より楽だから。
ただ人型の方が動きやすいし何だかんだ応用利くから便利だけどね」
“でも急に何で？”と続ければ卍里君は僅かに俯いてしまった。
「俺、豆狸だからさ･･化ける以外に何にも出来ねぇし。安定感もねぇし。
だからみたいな変化が出来りゃ少しはマシかって──」
「いやいや、卍里君は化けられる時点で人型変化いらないでしょ。
仮に人型にうっかり変化したとしても耳と尻尾がある時点で充分ヤバイから。格好だって変わるし。
それにだよ卍里君！君が人型変化するとなると･･･狸の耳と尻尾が････」
あ、でもそれはそれで可愛いかも。
「てめぇ！今、可愛いとか考えただろ！！」
「あ、バレた？」
「バレた？じゃねぇぇぇぇっ！！！！」
そんな豆狸に変化する勢いで怒らなくても良いじゃんか。
「アタシの人型の変化はねぇ･･･。
始祖である妖怪が、わざわざ人と交わるのに無理やり形作ったらしいから。
だからちょっと普通の変化から考えれば異質というか歪ではあるよね」
どっちにも成り切れてない姿だからさ。
「へー。そうまでして好きな奴がいたって事か？」
「いや？そうまでしてお酒が飲みたかったんだってさ」
鎌太刀の成り立ちやら祖先のなんやらに書いてあったらしいよ？一応ご法度だし詳しく知らないけど。
偶然、酒の味を知ってしまった鎌鼬が、その味をよく知りたくて酒造の若者の元に嫁いだ。
だけどその無理な変化の為に余分な力を使った為か、或いは酒の飲みすぎか。短命な事が多いって。
アタシも例外なくそうなるんだろうなぁとは思う。
一定の年齢に達すると病気になる確率が上がるとか何とか。知りたくないのに前の事を言われるから困る。
それに医者からも仕事以外で飲むなって言われた事があるし。いや、でも飲むんだけどさ。
「そりゃ･･何ていうか････」
「でしょ？まぁ、アタシもお酒好きだから分からなくもないんだけどね」
「って、お前未成年だろ！？」
「それは言ったらダメだってばー」
あははは。なんて笑って見せたら絶句された。
「不良が未成年の飲酒でとやかく言ったらダメでしょ。
あ、でも卍里君が成人する時は取って置きのお酒をプレゼントするね」
アタシのお気に入り。製造数が少ないから入手困難だけど、ちゃんと置いとくからさ。
「安心してよ。鎌太刀の利き酒師が推奨するお酒だからハズレは無いって」
多分。好みの問題はあるかもしれないけど。
「お前って･･･何だか凄いんだな」
「褒め言葉って思っとくよ、ありがとう」
にっこりと笑って見せたら、苦笑された。
良いよ。今は、利き酒だって好きで出来るんだから。