チキチキ☆肝試し大会
「おはよう!!」
「・・・・ん、ぅ?」
唐突な大声。それに意識が浮上する感覚。
薄く目を開ければ陽光が部屋に溢れていた。
「おお。起きたか、」
ちゅ、小さなリップ音と共にキスが落ちてくる。
そりゃあ、あれだけ大きな声がすれば起きるよ。ちゃんと目は覚めてないけど。
意識が霞んで朦朧としてるというかなんというか、そのまま眠気に引き摺られる。
自分がどんな状況下にあるのか理解できない。まだ瞼は重い。
「何だ、また寝るつもりか?本当には寝起きが弱いな。
全く。主人に対して放置プレイとはなかなかのドS!!」
んー・・蜻蛉が何か言ってるけど頭がぼんやりしてて理解がちょっと・・。
幾度も落ちてくるキスに応えながら考える。
えぇと。そうだ、とりあえず昨日は蜻蛉の部屋に泊まったんだっけ。
お酒いっぱい飲ませて貰ったんだよね。普段飲めないようなのとかも。どれも美味しかったです。
それは思い出した。あー、それにしても蜻蛉の目って青くて綺麗──。
「ん、かげろ・・?」
「如何した?」
「なんで服脱が・・・ってぇ、ストップ!!」
何故に朝から服を脱がしに掛かるのさ!?流石に目が覚めたよ!!
・・・あぁ、だからその理解できてないキョトンとした顔は止めて欲しい。
アタシの方が普通だよね?普通のリアクションだよね?ねぇ。
「何か問題でもあるのか?」
「問題大有りだってば!いや、厳密に言えば無いかもしれないけど・・・。
とにかく、流石に朝っぱらからは嫌です」
「・・・・・何だ、ツマラン」
む。そんな拗ねなくても良いと思うんだけどな。
慌てて肌蹴させられた前を合わせて睨みつけるけど、そうすれば彼は逆に楽しそうに笑った。
手首を掴んで痣に口付けた後、抱き寄せられて首を甘噛みされる。ちり、と僅かな痛み。
「仕方が無い。今はこれで許してやろう!
さっさと準備をしてラウンジへ行くぞ。今日も肉便器共を蹂躙してやるのだ!!」
楽しそうだなぁ、朝から。
思わず苦笑。それから準備をしようと洗面所へと向かった。
「第一回妖館☆チキチキ肝試し大会~☆」
準備を終えてラウンジまで行くと・・・いや正確にはラウンジ手前だけど、唐突な残夏君の言葉。
どうも締め切られたそこが肝試し会場になるみたいで“使用不可”って張り紙があった。
とりあえず半強制的に全員参加らしいから、まずはくじ引きしてチームに分かれた訳だけど──
「トップバッターかぁ」
レン君とミケ君と一緒。あー、向こうが良かったなぁ。
ちよちゃんとカルタちゃんチームか、出来れば野ばらちゃんと一緒が良かった。
「お気持ちお察しいたします、鎌太刀さん。
僕も凛々蝶様の居ない時間を過ごすなんて胸が張り裂けそうです」
「うんうん、でもアタシはミケ君とはちょっと違うと思うな」
君はあれでしょ。ちよちゃんがいないとツライとかいう意味でしょ。
アタシは折角だから女の子がいた方が良かったなぁって程度の話だし。
「ちょっとアンタ、今すぐと棒を交換しなさいよ!」
「俺だって狐ヤローと一緒とか絶対に嫌だっての!」
「あはははー。折角のペアなんだし、2人共仲良しでお願いしたいなぁ」
そういえば野ばらちゃんと卍里君って珍しい組み合わせかも。
あんまり接点ないもんね、2人は。でもだからこそ面白いような気もする。
「、あいつ等が何かしたらすぐあたしに言うのよ」
「野ばらちゃん。2人は何かするキャラじゃないと思う」
レン君なんてクラス同じだから大抵一緒に行動してるし。
ミケ君はちよちゃん至上主義だし。心配してくれるのは嬉しいけどね。
「おーい、。行くぞー」
「あ、うん!」
呼ばれていけば、常と変わらない笑顔のミケ君と、常よりちょっと真剣なレン君の姿。
珍しくやる気?なんて考えていれば不意に名前を呼ばれた。えぇと?
「始まる前にひとつ言っておく」
「ん?」
「はい」
何々?
「怖い。」
・・・・・・・あぁ、うん。えっと?
「然様ですか。大丈夫ですよ、お兄様」
「いやーん、頼もしい」
なんとも反応しにくい発言にとりあえず苦笑しつつ、いざ突撃。
「ラウンジ内をパーテーションで区切って順路を作っているようです」
「思ったより本格的だね」
でも真っ暗っていうには割と見えてるから正直に安心した。
本当に暗闇だったら怖かったかも。室内の暗さは苦手だから・・・。
ふわ・・と、不意に柔らかい冷気。あれ?これって、野ばらちゃんの?
「うわっ、何か寒くない?悪寒?」
「あははは」
あれだけ一緒にいて気付いてないのか、それともワザとか。
でもレン君鈍いから素に見えるんだよね。
「そーいや、もミケも怖いものとかないの?」
「有りますよ。凛々蝶様と離れる事が怖いです」
「あー・・なるほど」
「何かごめんね、俺達で」
そこまでドきっぱりと言われると本当に申し訳ない気持ちになってくる。
「はそんな事ねぇの?ミケみたいに離れるのが怖いとかさ」
「それはない。ていうか普段いないし」
何を恐れる事があるのかって感じだし。
「それもそっか」
「でも、まぁ怖いのはあるんじゃ───きゃぁぁっ!?」
何?!何か今ぺちゃって当たった!?
「大丈夫ですか?鎌太刀さん。
・・・今のはどうやらコンニャクのようですね」
「だな」
「こ、こんにゃく・・・?」
びっくりしたぁ。背後から急には心臓に良くないって。
「ふむふむ。は不意をつけば驚く、と」
「それって普通の反応じゃない?」
「ふふふ。それでは先に進みましょうか」
にこにことミケ君が先を促してくれる。
さっきよりも2人の距離が近いのは、少し配慮してくれてるって事なのかな?
あれは突然の出来事だったってだけで怖がりな訳じゃないんだけどね。
それにしても・・残夏君が本物の妖怪が出るって言ってたけど、やっぱりスタッフは妖館の皆かぁ。
大蛇や河童なんてモロ変化した姿だし。あ、猫月さんの変化姿は予想外だったけど。
それから何か出そうで何も出ない障子を通り抜けた先には“貞●の部屋”──って、あの貞●?
「おー、テレビあんじゃん。出てくんの?」
和室にアナログなテレビが1台。それにレン君が近付いた瞬間───
べコッ
・・・・・・て。え、何その物理的。
更にそのままテレビから出てきた貞●らしき人物をミケ君が思い切り抱きしめる。
「凛々蝶様・・・・っ」
「「デスヨネー」」
もうアタシですら想像出来ちゃう行動を迷わず取れるミケ君が素敵に見えてきた。
そのまま世界観を理解せずに怒られたり暴走する2人を眺めつつ。
結局はちよちゃん・・・もとい貞●と共に生きていく事を選んだミケ君を置いて、とりあえず出口へ。
「流石ミケって感じだったな」
「うん。でもまぁあれはあれで良いんじゃないかな?」
ミケ君の恐怖が一つ取り除かれた訳だし。
「だな・・・・お、出口みたいだぜ」
「あ、ホント?」
扉の先に光が差す。あー、暗いのに目が慣れてたからちょっと眩しい。
「ほんっと、怖かったな」
「確かに。ある意味本気で怖かったかも」
言って、レン君と一緒に思わず笑った。
でも、あそこまで想ってもらえてるのは素敵だよね。
アタシと蜻蛉はそこまでベッタリって訳じゃないから不思議な感じ。
あんな風に一緒にいられたら・・・・んー。いや、でも想像つかないや。
良いよね。アタシと蜻蛉は、今のままで。