再会
“鎌太刀のところにまた先祖返りが生まれた”らしい。
そんな情報を受けた俺は、逸る気持ちを抑えきれずに家へと向かった。
今までもの家には幾度か足を運んだ事がある。
そのおかげか向こうの人達には特に驚かれる様子もなく、部屋へ通してもらう事が出来た。
途中、子供が無事に生まれた事に祝辞を述べれば僅かに苦笑したような表情で返される。
“先祖返りだから正しい跡取りにはなれないが”と付け加えられた。
そういえば鎌太刀の家は先祖返りを正式に跡取りとして扱わないんだったっけか。
酒利きに関しては確実だが、どの代でも短命で当主とするには向かない、とか聞いた気がする。
遠い記憶だ。当の本人は肩を竦めていたか。あの時は特に気にも留めなかったっけな。
ガラリ。少々立て付けの悪い襖を開ければ“しぃ”と人差し指を口元にやる女性の姿。
の姉さんだ。名前は・・・あー・・覚えてないけど。まぁ、昔に1度会っただけだったし。
「漸く眠ったばかりなの」
何も言わない俺に気遣ってか、そう告げて視線を落とす。腕の中で眠る小さな小さな赤ん坊。
僅かに生えた髪は見覚えのある黄褐色。その頭には同じ毛色の獣の耳。
だ。
一気に、何か感情が込み上げてくる。
漸く会えた。また、俺が生きている内に生まれてくれた。
「不思議な感覚よね。少し前まで妹だった子が、今度は自分のお腹から出てくるんだから」
僅かに苦笑。だけど慈しむような瞳を赤ん坊に向けている。
「私の母はこの子を産んだ時に心を病んで、そのまま死んでしまった。
でも母の時とは違う。私はこの子が産まれて満ち足りた思いでいるから。
あの子のお葬式で、本当に喪失感に苛まれて・・・だから・・・・・」
“生まれて来てくれて、私は嬉しいの”
笑顔でそういった彼女はとても美しい母親の顔に見えた。
「反ノ塚君、だったよね。また、遊びに来てくれると嬉しいわ。
この子も・・・も先祖返りの仲間が身近にいればきっと喜ぶと思うから」
それから俺は、その言葉通りに鎌太刀の家に足繁く通った。
ミルクからオムツ、果ては寝かし付けまで。自分自身の子供じゃないかと思う位に育児までした。
今までボンヤリしていたのが嘘のように。ただ確実に成長していくの姿を見に通う。
「れんくんっ!」
「おー。、誕生日おめでとな」
「ありがとー!」
にっこりと笑う顔。まだまだ幼い。
今日で3歳になった彼女は、今までと何処か違う懐かしい雰囲気を纏っていた。
何時ものように足元に纏わり着くようにぎゅうっと抱きつくと、顔を上げて俺を見る。
「あのね、れんくん。アタシ、ぜんぶ覚えてるからね。
ひゃっきやこーのことも、“まえ”のアタシがどうしてしんだのかも」
にっこり。さっきからずっと変わらない筈の笑顔。
だけど追憶の向こう、あの頃のが見えた気がした。
「れんくん。やっと、あえたね」
「──あぁ、そうだな。」
短くて長い時間。漸く本当の意味で“会えた”という実感。
涙腺が緩む。あぁ、こんなにも感傷的になるのは・・そうだ、そんだけ時間が経ったからだ。
そう俺は自分に言い聞かせた。