旧友
『あのね。りぃちゃん、あたしたちはずっとおともだちだからね?』
『うん。ぼくたちはずっとトモダチだ、ちゃん。
たとえ、しょうがっこうが別だったとしてもずっと・・・』
『ヤクソクだよ』
『ああ。やくそくだ』
ゆびきりげんまん。小さな小指を絡めた約束。
丁度幼稚園を真ん中に逆の位置にあったお互いの家。だから進路が違うけど、それでも約束した。
あの時からちょっとアタシがごたごたしてたのもあるけど、住所聞かなかったから手紙も出せなかった。
まぁ、それを彼女が覚えていてくれてるかは知らないけども──。
「んー・・・」
・・・・・眠い。何か懐かしい夢見たもんなぁ。
携帯ゲーム片手にラウンジに行けば、外が何だか騒がしい。
あぁ、そういえば今日だっけ?新しい人が来るの。
「ちよちゃん・・やっぱり妖館に来るんだなぁ」
小声でひとりごちる。聞かれて良い言葉じゃない。
どれだけの人が記憶あるなんて知らないし。
「グッモーニン、たん」
「おはよ!ちゃんっ!」
「おはよー。ちのちゃん、夏目君」
今日も2人は元気だねぇ。
「なになに、たん昨日もゲームで夜遅かったんじゃないのー」
「何故それを!?まさか視・・・」
「いやいや。ゲーム片手に来れば視なくても分かるよ~」
成る程。何だ、ちょっとビックリした。
食欲無いからコーヒーだけ貰って、折角だからと2人と同じテーブル着けば、ちのちゃんが目を丸くする。
「え、ちゃんこれだけ?」
「んー。もうちょっと目が覚めてから食べる」
「朝食はしっかりとった方が良いよ~。
そうじゃなくてもたんは食が細いんだからさ」
「そう?」
「そうそう。もっと食べなくちゃー」
そうかなぁ?ぼんやり考えながら、コーヒーに口をつけた。
新しく入居してきた白鬼院凛々蝶・・・りぃちゃんは軽く荷物を纏めた後、昼過ぎにラウンジに来た。
傍には双熾君の姿。早速りぃちゃんにべったりなのもやっぱり前回と一緒。
でも記憶は無さそうな感じだけどね。アタシ的には断定できるレベル。だからミケ君じゃなくて双熾君。
「ふん。今日から入居する白鬼院凛々蝶だ。
だが別に仲良くしてもらう必要など無い。
近所付き合いなど面倒なだけだし、僕に構わないで頂こうか」
捲くし立てる様な言葉。ふんぞり返る姿は前回と変わらなくて、それが逆に何だかおかしな感じ。
だって幼稚園で見た時は全然そんな事無かったのになぁ。
「あれ?りぃちゃん??」
今更ながら気付いたーみたいに言葉を出せば、漸くりぃちゃんもアタシを見る。
暫く間が開いてから思い出したと驚いたような表情。
「ん・・・・?君は・・・・ちゃ・・・・鎌太刀さん?」
「鎌太刀さんは白鬼院さまのお知り合いですか?」
言い直されてしまった呼び名がちょっと寂しいと思う。少しだけ、距離を取られてしまった。
不思議そうに問う双熾君に乗っかる形で、ちょっとだけ大袈裟に溜息をついて残念がってみせる。
「さん付けなんて酷いなぁ。幼稚園ではあんなにずっと一緒にいたのに~」
「そ、それは・・・そうだけど、その・・」
もごもごと口篭って俯いて。何か可愛らしい。
まぁ会わなかった間に、彼女は彼女なりに色々あったんだろうけどさ。
と、それから何かに気付いたようにりぃちゃんは顔を上げる。
「そういえば君にSSは?」
「アタシ?いないよ」
勿論、今回だって必要ない。そう思ったからSSなんてお願いしてないし。
ケロリと返せばまるで時が止まったようにりぃちゃんは固まった・・・かと思えばすぐに復活して双熾君に向き直る。
「君は何故僕に・・・!
そもそも鎌太刀さんが先に入居したのだからSSとして彼女に仕えるべきだろう!」
「あ。ごめん、アタシそれ断ったの」
表向き“一応”訊かれたけどさ。
まぁ双熾君は今回もりぃちゃん目当てだったみたいだし。後、目が怖かった・・・。
物凄く何事にも興味ない目。多分、前のアタシも基本あんなだったんだろうなぁ、みたいな目。
あれはSS断るでしょ、普通。流石にあんなSSに守って欲しくない。
わなわなと震えるりぃちゃんに、双熾君はにこにこと笑みを向けている。
「ダメだよ。りぃちゃん喘息あるんだからさー」
アタシと違って体弱いんだから、SSは必須だって。
「まぁでもこれからよろしくね、りぃちゃん」
「・・・ふん。別によろしくする必要などな──」
「あ。こら、幼稚園時代のお友達を蔑ろにするつもりだね!!
折角会えた旧友に対してもっと優しくても良いんだからっ!」
とりゃ!思い切り抱きつけばりぃちゃんは真っ赤になって全身硬直。
あははは、面白いなぁ。
「か、かかかか鎌太刀さんっ!?」
「嫌だって言っても仲良くしにいくから、よろしくね!」
「・・・・・好きにしろっ」
好きにするよ。だってりぃちゃんは人に関わるべきなんだろうから。
ほら、多少は見知ってる人間ならまだ接しやすいじゃない?なんて、そう思うのはアタシだけかな。