鳥篭の夢

変わらず欲する想い



「あ、そうそう。たんの写メあるよ~」
「ほう。見せろ」

見せびらかしていた携帯電話を引っ手繰ると、カゲたんはにんまりと口の端を吊り上げる。
前の時よりも少し幼い顔立ちで、ちのたんと一緒に笑顔で写る彼女をじぃと凝視した。
目は見えないけど僅かに高潮した頬。本当に彼女に心酔してるんだって視なくても分かる。

「あっはは。カゲたんったら~。
たんが記憶あるかも分からないのに今からメロメロでどうするのさ」
「貴様には分かるまい、残夏。
それにの記憶があろうと無かろうとそんな事は些末に過ぎん」

ぽい。満足したみたいに投げられた携帯を難なくキャッチしてみせる。
カゲたんは乱暴だなぁ、もう。

「どう足掻いてでもたんを手に入れるつもりって?
でも、じゃあちよたんは如何するのさ。許婚なのにー?」
「私が許婚殿を情愛を抱く対象に見る?一体何の冗談だ、それは。
確かにあの性格は放っておくには些か不安を感じるがな」

それはそうだ。ちよたんは身体も弱いし、今回も例外なくツンシュンだしね。
それに今までの過去でだってちよたんじゃなくて・・・惹かれあう魂?生まれ変わっても辿る同じような運命?
いや、それは今思う事じゃないか。“これから”なんて誰にも分からない筈だからさ。

「カゲたんって案外形振り構わないよねー。
今は新しい人生を謳歌してるんじゃなかったっけ?」
「愚問だな。だからこそまたと出逢ったのなら調教するのではないか」
「わーお」

たん、逃げてー。なんて内心の言葉。
ふと思い出す。前よりも少し幼い顔。
何処か明るくなったようにも見える彼女に、両手首の痣は無くなっていた。

“夏目君!あのね──”

弾むようにボクを呼んだ声。あの頃と違う呼び名。一見すると記憶は無い。
だけど時折ボクを見る目線は何かを探るようにも見えて・・・。

たん、昔っから視えにくいからなぁー」

ぽつり。呟いた言葉はカゲたんには聞こえなかったのか。
それともスルーしてくれたのか、答えは無かった。



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