鳥篭の夢

強制お土産争奪ゲーム



「私は帰ったぞ肉便器共ー!」
「おかえりィ、蜻たーん☆」

双熾君の運転で妖館に帰宅後早々、なんだか見覚えのあるやり取りを呆然と眺めてみる。
蜻蛉・・・ううん、青鬼院が短髪なのはちょっと変な感じかも。今まで長いイメージしかなかったし。
後、前よりかなりちっちゃい。凄い目線近くて変な感じ。あ、仮面は相変わらずだけどさ。
いやでもまさか同学年とは想像もつかなかった。というか出逢えるとも思ってなかった。

「青鬼院さんは此処の住人なんだよー。夏目さんのパートナーなの。
2人共会った事無かった?」

ちのちゃんの説明に純粋に頷いてみせる。

「うん。アタシが入居した時には既にいなかったから」
「僕は此処で会うのは初めてだが・・・顔は見知っている」

見知っている?

「顔は見知っているなどと随分と冷たいではないか。
私と貴様は許婚同士だというのに!」
「10年も前に家同士が交わした口約束で、何の拘束力も無いがな」

げっそりとしたりぃちゃんの表情。あはは、これも何だか見覚えがあるかも。
そっか。今回も青鬼院とりぃちゃんは婚約者同士なんだぁ、なんてしみじみ。

「・・・あれ?
でも青鬼院さんってちゃんの事も知ってるみたいに言ってなかった?」
「さぁ?気のせいじゃない?」

それは確かに。遅刻して来た時に“見知ったメス豚が3匹も”って彼は言った。
だけど今のアタシは一度も彼に会った訳じゃない。だから実際は如何なのか分からない。
夏目君が前にアタシとちのちゃんの写メ撮ってたから、話題の1つに見せた可能性もあるし。
記憶があるとは限らない。期待は・・・したら、ダメ。

そんなこんなで夏目君情報で青鬼院が4年ダブりな事にりぃちゃんと共に慄きつつ。
とにかく青鬼院が何時からのか分からない夏休みを利用した、世界一周旅行のお土産があるらしい。

「そんな訳で今から貴様等に私自ら土産を配る!!さあ私の眼前に整列するが良い!!」

って、お土産って多分アレだよね。
前回でもよくお土産だって持って帰ってきてたイカガワシイ道具だよね?
アタシはカルタちゃんと一緒に良くご当地お菓子とかもらったけど。
でも周りの反応を見ると、今回もきっとそんな気がする。

たんは~?」
「鎌太刀さんに変な土産を勧めるな!」
「あー・・じゃあアタシも別に良いや」

りぃちゃんの言葉に嫌な予感。
だけど結局はお土産拒否は可哀想だからって、夏目君の提案でゲームをする事になった。
ルーレットを回して出た目の数だけ進み、止まったマスの指示に従う。所謂、すごろくゲーム。
お土産GETマスとかもあるみたいで・・・・うん、出来るならそれは避けたいかも。
席順はりぃちゃんから時計回りに双熾君、青鬼院、ちのちゃん、アタシ、夏目君。

「1位にならず、そしてお土産GETのマスにも止まらなければ良いだけの話か。フン、楽勝だな」
「じゃあ、りりたんからどうぞ~☆」

りぃちゃんある意味がっつりフラグ立てたよね、今。なんて思いつつ。
夏目君の言葉にりぃちゃんがルーレットを回す。てんてんと駒を進めていけば・・・・・空気椅子?

「何だこの体育会系な罰ゲームは・・・」
「他にもあるよ~」

合コン風、修学旅行風、単純に痛覚に訴える系罰ゲームとか・・・って。

「君が作ったのか、コレ」
「夏目君、変なトコで器用なんだね」
「フフフー」

あくまでも夏目君はニマニマと口の端を吊り上げて笑う。
双熾君が“自分の膝に”とか言ってるのを却下しつつ、りぃちゃんは律儀に空気椅子を始めた。

「怖いマスばっかりじゃないから安心してよ~。
ほら~ボクが止まったみたいに空白のマスもあるんだよー」
「わぁ、良かったぁ~」

にっこり。ちのちゃんは嬉しそうに微笑むけど・・如何みても割合少ないし期待薄かな。
カラカラとルーレットを回して出た目の数だけ進んで──えぇっと“左隣の人に抱きついて名前を呼ぶ”?
左は・・・・夏目君。そういえば、りぃちゃんの左隣は双熾君で・・・。

「これアレだよね。双熾君がりぃちゃんにして貰ったら喜ぶ系だよね。
アタシがしても楽しくないと思うけどなぁ」
「そう~?ボクはこれはこれで楽しいよー☆」

さぁ、おいで。なんて両腕を広げてくるから、そのままのノリで突撃。とりゃあ!
ぎゅうっと抱きしめてから顔を上げて・・・・あ、あれだ。座ってるから目線が何時もより近い。

「・・残夏?」
「なぁにー?たん」

いや、何って訳じゃなくて名前呼べって指令だったから。
前回の呼び方を回避しようと思って呼び捨てはしたけど。
というか何で頭を撫でるのかな?子供扱い。いや、夏目君に比べたら子供だけどさぁ。

「何だか夏目さんとちゃんってラブラブって感じだねー」
「えー。なになに、妬けちゃったりする~?」
「いやいや、これマスに書いてある指令だからね?ちのちゃん」
「それより早く進めないか・・・?」

あ、ゴメン。うっかりしてた。りぃちゃん空気椅子だった。
夏目君から離れて今度はちのちゃんの進んでいくマスを見る。
今度は“右隣の人の膝に座る”かぁ。えぇと、右隣にいるのは青鬼院で・・・・・うわぁ、凄い絵面に。
更に次の青鬼院が止まったマスが“腹話術”で膝の上のちのちゃんを──うあああああ。
何ていうか、寧ろ何て言って良いか分からない状況になってしまってる。
その後で双熾君が青鬼院の秘密とか暴露してたけど、それはまぁ良いや、別に。

「や、やっと終わった・・・」

何とかりぃちゃんが空気椅子から解放されて崩れ落ちた。お疲れ様ー。
次を回せば初のお土産GETマス。ありゃ。
出来るだけマシな物は無いかと袋の中を漁って・・・あるのかな?なんて心配になるけど。

「ん?電気按摩器・・・これは良いな」
「これ、マッサージ器かな?」
「近しい物だと思って良いだろうな」

だよね。それなら今のりぃちゃんにピッタリだね。

「凛々蝶さまはそれを良しとするのですね?」
「?さっそく今夜使うつもりだが」
「承知致しました」

間髪入れずに双熾君の返事。

「あーぁ。言質とられたー」

・・・って事はマッサージ器じゃないんだ。これ。何か背筋がぞわってした。
恐怖の余りに何も聞かなかった事にしてそのままゲーム続行。

ちのちゃんは持ち前の順応力のおかげで青鬼院にもすっかり慣れて。
もう色んなマスに止まるから皆装備とか持ち物とか状態異常とか半端ない。
ちなみにアタシはナース服装備に語尾に「なの」をつける位だけど。

「何だこれは・・呪いのすごろくか・・・?」
「うーん、MP消費半端なくて疲れちゃうなのー」

というか語尾が言いにくい。

「そうですね。早急に片をつけましょう。
思ったよりも長引いてしまいましたし・・・」

なんて双熾君がさくさくと進んでいく。
とはいえ、結論から言えばりぃちゃんが一番にゴールしちゃったんだけどね。
ある意味立てたフラグにまっしぐらというか何と言うか・・・。

うん。でもちょっと楽しかったかも、なんて。



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