鳥篭の夢

大好きな友達



『りぃちゃん、アタシたちずーっとぜったいにおともだちだからね!』

幼い頃の約束。それを決して忘れた訳じゃなかった。
彼女を忘れた訳でもなかった。
だけど周りがただ優しい世界だったのだと気付いた時から信用するのが怖かった。

鎌太刀の家は老舗だし栄えてはいるが、権力がある訳じゃない。
だから彼女も親の言う事を聞いて仲良くしていたんじゃないかと。
或いは同じ先祖返りだから、同情心から付き合っていたのではと。


「一緒に帰る?そんな必要性など感じない訳だが?」

折角誘ってくれたクラスメイトに一蹴の言葉。反射的に出る虚勢を張る悪癖。
その後、小人村さんは他のクラスメイトと共に帰ってしまってぽつんと僕だけが残る。
ギリギリと手を抓ってみれば蜻蛉が“何だ、どうした”と五月蝿く付き纏った。

違うんだ。そう言いたかったんじゃないんだ。
今更、それも内心で叫んだ所で無意味だ。あぁ、今日もまた人を不快にさせてしまった。

──カタン

「ふぁー。やっと一区切りついたぁー」

椅子が動く音にのんびりとした声。顔を上げればそこにはゲーム機を片手に伸びをする鎌太刀さんの姿。
まだ帰ってなかったのか。てっきり僕の事など気にせずに帰ったものだと思っていた。
いや。ゲームに夢中だったというだけで、別段僕の事など最初から眼中にないのだろうけど。

「りぃちゃん、ごめん遅くなっちゃった。帰ろ?」

は?

「鎌太刀さんと?そもそも僕は君を待っていた訳じゃ・・・」
「え?あ、そうなの!?うゎ、やだ恥ずかしい!」
「ふははは!勘違いとは決まりが悪いな。流石、はドMなだけある」
「五月蝿い、変態。てゆか青鬼い──蜻蛉はなんで残ってるの?」
「共に帰路につくつもりで待っていたに決まっているだろう!!」

ふんぞり返る蜻蛉に鎌太刀さんと共に深い溜息。

「わざわざ待っていたとはご苦労だな。
・・・というか、鎌太刀さんは蜻蛉を名前で呼んでいたのか?」
「え?あー。まぁ色々あってね」

ふと疑問を口にすれば、濁す言葉に苦笑。
蜻蛉は毎度“ふはは”とどんな意味合いが含まれているのか分からない笑い声を響かせていた。
何だろう?やはり僕だけが取り残されているような気になってくる。僕は──。

「で、りぃちゃん。もし別に用事が無いなら一緒に帰らない?
何か変態もセットでついて来そうだけど、それで良かったら」

にっこり。可愛らしい笑顔を僕に向けて、鎌太刀さんは手を差し伸べる。
優しい優しい鎌太刀さん。クラス内でも誰にだって気さくに話しかけて、場を明るくする彼女。
なのに、こんな僕にも話しかけてくれる。僕はこんなにも誰かを不快にさせてしまうのに。

「し・・・・仕方ないな。
鎌太刀さんがどうしてもというなら、一緒に帰ってやらない事もないが?」

・・・・・・って、何でそんな言葉しか出ないんだ!
素直な言葉が出てこない。違うんだ、こんな事を言いたいんじゃ──。
膝を地面について考えてたら、不意にくすくすと笑う声。

「りぃちゃんは面白いなぁ。
じゃあどうしてもアタシが一緒に帰って欲しいから一緒に帰ろ?」
「凛々蝶に構わずとも私がいるではないか!」
「というか蜻蛉がいるから嫌なんだけど」
「何、恥ずかしがる事はないぞ!」
「違うから」

呆れたようにバッサリと斬り捨てる言葉。
それが面白くて思わず笑えば、鎌太刀さんも声を上げて笑った。

どうしたら彼女のようになれるのだろう?
あの時、友達だって言ってくれた鎌太刀さん。あれは今も思ってくれているのだろうか?
いや。そんな過去に思いを馳せても仕方ないというのに・・・。

「たまには友達と2人で帰りたいんだけど」
「む。私を除け者にするつもりか?
だが私はドSだからな、そうはさせんぞ!」
「そうさせてよ・・・」

げんなりとする鎌太刀さんだけど・・・・いや、ダメだ。心臓が強く鳴って仕方がない。
“友達”だと言ってくれた。僕の事を、今、そう呼んでくれた。
胸がぬくぬくと温かくなる。どうして君はそうやって僕の欲しい言葉をくれるの??

「鎌太刀さんはどうして僕と一緒にいてくれるんだ?
僕はこんなにも君を・・・周りを不快にさせてばかりなのに」

思わずついてでた言葉に、だけど鎌太刀さんは目を丸くさせた。

「え?不快って何が?それにりぃちゃん優しいし」
「僕が・・・?」
「うん。だって幼稚園の時にアタシがうっかり鼬に変化した時、すぐ隠してくれたし。
怪我した鳥を見つけた時に保護してたし。喧嘩した後はすぐに丁寧なお手紙もくれたし。
お泊り会の肝試しの時に泣いちゃったアタシと一緒にいてくれたし・・・後は・・」
「わー!待った待った!!何でそんな事を覚えてるんだ、君は!!!」

というか指折り数えながら過去を暴露していくのは勘弁してくれ。

「だってりぃちゃんは一番大好きな友達だから」

満面の笑顔。恥ずかしくて彼女をまともに見れない。
そして心から思ってしまう。
こんな彼女の為にも、本当に少しでも良いからこの悪癖を何とか出来ないかと。
それは彼女から貰った、本人はきっと気付いていない、ほんの少しの勇気。
だって僕にとっても鎌太刀さんは大好きな友達なんだから。



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