真実と想い
鼬に変化して残夏君に忍び込んでいたアタシは僅かに様子を窺った。
皆と一緒にタイムカプセルを埋めた場所。既に回収されているそこには人影がある。
スコップで土を掘り返す音。ざくざくと、無心で進められていくのが分かった。
話は数時間前に遡る。
「そーたんが今夜、タイムカプセルを掘り出しに来るみたいなんだ」
「タイムカプセル?って、前世のあれ?」
挙動不審な2人をとっ捕まえて問い質して出てきた言葉にアタシは首を捻る。
あのとき皆で埋めたやつだよね。なんて続ければ、残夏君はひとつ頷いた。
「でも双熾君って前世の記憶ないでしょ?」
「いや、タイムカプセルの事を知ってるなら分からないよー。
それにそーたんは行動がいちいち怪しすぎるからね。詳しい事はやっぱり本人にちゃんと訊かなくちゃ~」
そうかな?アタシは記憶無いと思うけど。
「まぁ、何で前の事を知ってるのかはちょっと気になるよね。
それはアタシも訊きたいかも」
「む。まさかも来るつもりか?自ら首を突っ込もうとは流石ドMの極みだな」
「違うよ、変態」
勝手に人をドM認定しないでよ。しかも極めてないし。
「そうだよたん。もしかしたら戦闘になるかもしれないしさ~」
「だからだよ。そもそも残夏君は戦えないし。
双熾君って元々能力的に見ても強いから、少しでも戦力あった方が良いと思うけど」
それにりぃちゃん以外の言葉は聞かないでしょ?彼は。
「う~~~ん、でもまぁたんは女の子なんだし、無理したらダメだよ。
それに目的の手紙は此処にあるんだしさ☆」
「あ、それって・・・」
タイムカプセルの手紙。もう掘り起こしてたんだ。
「残念だったな、!!
そもそも貴様の見せ場など与える前に終わらせてくれる!流石私、ドS!」
「そうそう。蜻たんが危なくなったら出てくる位で良いんじゃないかな~?」
「あのねぇ」
別に見せ場が欲しい訳じゃないってば。いや2人共心配してくれてるのは良く分かるけど。
“とにかくたんは隠れてなよ”なんて言われて、何故か現在に至る。
というか残夏君に隠れる必要はないと思うけど。これで油断させられてるのかな?むむむ。
とか最初は割と軽く考えてたけど、結局戦うハメになるとか不思議。平和的には終わらない訳だ。
蜻蛉がラウンジまで吹き飛ばされて思い切り踏みつけられるのを見て、漸く残夏君に目配せ。流石にもう良いよね?
そのまま人型に戻って奇襲をかければソレは成功したらしく、珍しく瞠目した表情になった。
「やっほー、双熾君っ。悪いけど、足、退けてくれない?」
「・・・・っ!?」
鎌で腱を掠る程度に斬りつけ、すぐに薬を塗る。軽くよろける程度で充分だしこれなら治りも早いしね。
蜻蛉から足も退いたし一先ずOKでしょ。何度か咳き込む声が聞こえる・・大丈夫かな?
と、確認する前にすかさず風を切る音。素早い一陣を鎌で受け止めるけど、よろけたままの体勢なのに腕が痺れるように痛い。
「まさか鎌太刀さんまでいらっしゃるとは・・・。
凛々蝶さまのご友人を傷付けるのは少々心苦しいのですが」
「えー、そんな目で言われるとゾッとするなぁ」
そんな笑顔で感情の篭らない声は流石に怖いんだけど。
ギチギチと刃が鳴る音。力では敵わないのは分かってるから振り切られる前に後ろに跳ぶ。
そのまま勢い良く体当たりを入れた。一応、瞬発力ならアタシの方が上だしね。
流石に助走をつけた上での衝撃だからか、何とかそのまま床に転がして馬乗り状態になる。
「ダメだよ、双熾君。皆揃ってないのに勝手に思い出を掘り起こそうとしちゃ。
そんな勝手するんだったらちゃんと理由を教えてくれないと」
「先程も申し上げた通り、私事ですよ」
「それは、りぃちゃんの為?」
「さぁ、それはどうでしょうか?」
はぐらかそうとする声。本当にそうなのかな?
でもアタシ的に双熾君が動くのは大抵りぃちゃんの為だと思ってるんだけど。
ざわり。考えてたら、嫌な感じがして双熾君から飛び退こうとして・・・っ。
「残念ですが逃がしませんよ」
しま──っ!!
「・・・・っ!?」
僅かに早く伸びた手が首を掴んでそのまま床に叩きつけられる。
しまった、腕が計算してたより長かった。
これだから高身長のお兄さんは困る・・・とか考えてる場合じゃない。
そのまま絞められて、脳の酸素が足りなくて頭がくらくらする。やば・・・。
「そーたん、その位にしてあげてよ~。この手紙に免じてさ☆」
「・・・っ」
手紙に僅かに気を取られただろう瞬間に衝撃が身体を伝う。
僅かに緩んだ手から今だと鼬に変化して距離を取った。見れば、半分身体を起こした蜻蛉。
そっか、蜻蛉が助けてくれたんだ。
「ふん、気を取られるとは貴様もまだまだだな!
残夏!そのまま手紙を守れ──いや、手紙を開け!読み上げろ!双熾の秘密を暴け!
貴様が何を隠しているのか。本当は記憶があるのか否か、全てを明らかに!」
──カシャン
落ちたのは・・・記録媒体?
「、残夏!!ラウンジだ、プロジェクタがある!それに差し込め!!」
蜻蛉の声に我に返る。それから記録媒体を拾い上げてプロジェクタにセット。
残夏君を見れば既に準備は整っているみたいだった。
「そんなに僕に興味がおありで?」
「そーたん、君を直接疑ってる訳じゃないけど、ちょっと行動怪しすぎなんだもん☆
ボクらは少し疑心暗鬼になってるんだ。
今は少しの手掛かりも欲しいし、ちょ~っと見せて貰うだけだから。君の秘密を」
残夏君がつけた先に映し出されたのは──えぇと、ちよちゃん?
「・・・・・何コレ」
「凛々蝶さまです」
いや、それは分かるよ。なんて誰もが思った突込みを代表で残夏君がしてくれつつ。
「まさかコレだけ?コレがそーたんの隠してた事?」
「隠す?隠していたつもりはありませんが・・・」
カチカチと別のフォルダを開けば、そこには一杯のちよちゃんからの手紙。
そういえば“許婚と文通してた”って言ってたっけ。確かそれの本当の相手はミケ君だって・・・。
「そーたん・・?君は、君は、ただそれだけの為に?」
何かが視えたんだろう残夏君が呟く。
「そーたん。君はただ本当にちよたんが好きなだけなんだ。
記憶が無くても・・・ただただ、それだけなんだ・・・」
「そうですよ・・・?
ただそれだけの為に、こんなにみっともなく足掻いて滑稽ですか?」
乾いた声で呟く声。
「彼の事を調べ上げて、その面影を処分しようとした事は・・」
自嘲するその姿が、痛い。
「でも違った。ここにあるのは凛々蝶さまの面影でした。
羨ましいですね・・・凛々蝶さまに、こんなに沢山の言葉がもらえて」
複雑な顔。悲しさと、多分恨みと、そして羨望。
きっとそんな感情が綯交ぜになった顔。
「何が、滑稽なんだろうね?」
違う。滑稽な筈が無い。そんな筈はないんだよ。
「大切な人を想う事は・・・そうして足掻く行動の何がおかしいんだろうね?」
呟くそれに何の言葉も返ってくる筈は無い。
ああ、本当に彼は前回のアタシにそっくりだ。
何事にも興味が無くて、自分から周囲に接しようとはしなくて、それが当然になってて。
でもだからこそ大切な人に・・・沢山の想いを教えてくれた人には縋ってしまう。
大切な人だからこそ、守りたくて。大切な人だからこそ、何かしたくて。
それが正解か分からないけど・・・押し付けの愛情かもしれないけど・・・それでも・・・・・・。
そう。その全ては、大切な人の為に。