“今”と“前”と
野ばらちゃんの歓迎会。
あの時と姿形は違えど、久しぶりに皆が妖館に集まってるのは不思議な気分。
コスプレなんて滅多にする事じゃないからちょっと楽しかったし。
残夏君と蜻蛉のコスプレもちょっと面白かったしね。
今は卍里が寝ちゃったから少しだけ静かにお菓子タイム。
アタシはまだ15歳だけど気にせず飲酒中。
だって飲みたいんだもん。前も今も変わらずお酒大好きだし。
「そんなに飲んで大丈夫なのか?鎌太刀さん」
「うん。アタシお酒強い方だから。
まぁ、それでもあんまり飲みすぎると眠くなっちゃうけど」
「は前の時からそうだったわね」
「って、あれれ?たんって前も未青年じゃなかったっけ~?」
いじわるい声。酷いなぁ、残夏君。君はうちの実家を忘れてるね?
「うちが酒類製造業の老舗と知ってそれを言うかな?
基本的にお酒の入手には困らないんだなぁ、これが。
それに“前”も“今”も家で利き酒してたし。飲む機会って結構あるんだよね」
「そういえばこれもたん提供だったっけー」
「そういう事」
というか残夏君ってアタシが味利き出来るの知ってなかったっけ?むしろワザと?
まぁとにかく、今や作るだけじゃ飽き足らず卸売りも始めるもんだから始末に終えないよね、あいつら。
ぐいっと一気に飲み干す。ちびちび飲むのも好きだけど何だかイラッとして、つい。
「ちゃん・・おつまみも食べないと悪酔いするよ・・・」
差し出される棒菓子に、口を開ければそのまま入れてくれた。
ぽきぽきと噛んでいく食感が美味しいと思う。
そんな風に昔と今の話に花咲かせながらお菓子をかじりつつお酒を飲みつつ。
カルタちゃんが前も今も“理屈”じゃないって。それはちょっと分かるかも。
皆、記憶があっても無くても、同じ“何か”を感じる。
アタシ達の根底にある何か。そこだけは絶対に変わらないだろうから。
「かげろー・・・」
そういえばどれだけ飲んだっけ?さっきから眠い。とにかく眠い。
思考があらぬ方へと消えようとしてるのが分かって思わず蜻蛉を呼ぶ。
あぁ、でもその時点で眠いんだって分かるよね。うん。
「ん?何だ。眠たいのか、?」
「うん。も・・・ねむ・・」
どうしようもなく、眠い。
「どうなるか分かっていて飲むとは、なかなかのM!
だが今回は特別に私が部屋まで運んでやろう!!」
「・・・ん・・・・・」
「もうほとんど寝ちゃってるわね、ったら」
「鎌太刀さん。此処で寝たら風邪を引くぞ」
心配そうなりぃちゃんの声。
くすくす。笑う野ばらちゃんの声。何だか気持ちよく響く。
「あんた、あたしのに手を出したら殺すからね」
打って変わって冷たい声音。
それに蜻蛉の笑う声が響いた。何だか心地良い空間。
「おやすみ・・ちゃん」
カルタちゃんの声。
「たん、オヤスミ☆
蜻たん。寝込みは襲っちゃダメだよ~」
残夏君の声だけ少しからかうみたいな調子。
だけど、皆とても優しい声。懐かしくて、大好きな声。
ふわり。カラダが宙に浮く感覚。
だけどしっかりと支えられているのが分かって安心できる。
「ではな!我が肉便器達よ!!」
ゆらゆら揺れる。抱きかかえられている体温が伝わって気持ち良い。
だけど。それがぼんやりと思い出させる。あの時の事を。
貴方の目の前で、貴方に抱きしめられながら息絶えてしまった事。
「かげ、ろ・・・・・蜻蛉、ごめんね」
「ん?」
「つぎ・・は、ぜったいに、死なないから」
絶対に。せめて、貴方の目の前では死んだりしない。
決して前の過ちは繰り返さない。
「だから──」
傍にいて。今度こそずっとずっと傍にいて。
百鬼夜行を解明する為にこれから動く。死ぬかもしれない。だけど・・。
死なないで。ずっとずっと貴方と生きていたい。
出来るなら平穏な最期の時まで傍にいて。傍にいさせて。
「かげ・・」
唇に触れるあたたかな感触。
「」
名前を呼ばれるの、好き。
「今は寝ておけ。私は何処にもいかん」
安心する言葉。
「ぅん・・・」
だから今は、おやすみなさい。