鳥篭の夢

未来からのタイムカプセル



タイムカプセルを埋めようって唐突なお誘い。
そんな事をする意味はサッパリ分からなかったけど、とりあえず暇だったし参加してみた訳だけど・・。

「あれ?どしたの、その箱」
「・・・出てきた」

何とか書き終えた手紙を持って、埋める予定地にくれば怪しい箱を持ってみんな集まってる姿。
困惑したような皆の顔に、はて?どうしたのかと首を捻ればカルタちゃんが答えてくれる。
けど・・・出てきた?
泥まみれの箱が?何処から?考えて、近くの穴へと視線を向ける。

「手紙を埋める穴を掘ってたら出てきたんだけどさ。しっかし・・何だコレ?」
「まさか動物の死骸じゃないでしょうね・・・」
「あはは、まさかぁ」

嫌そうな顔をする野ばらちゃんに笑ってみせる。
そもそもなんでそんな物が妖館の庭に埋まってるのかとかも謎だし。

──カパッ

缶特有の音がして、見てみればカルタちゃんが躊躇無く開ける姿が目に入る。
え、まさか本当に動物の死骸?なんて箱を覗けば、そこに入っていたのは──

「手紙?」

だよね。何枚もの封筒。だけどアタシ達みたいにタイムカプセルで埋めたにしては綺麗だし・・・ん?

「ねぇ、この宛名にある名前って・・」
「ええ。あたし達の名前よね?」
「何だ?ラブレター?」
「え。普通ラブレターって埋めちゃうの?」

それは初耳。

「いや。、今の冗談な?」
「成る程」
「って、そうじゃないでしょ?それよりどういう事・・・?」

手紙を囲みながら話していればふと後ろから伸びてくる腕。

「残夏君?」
「?夏目・・・?」

手紙に触れたまま固まっちゃった残夏君の名前をカルタちゃんと同時に呼べば、ぐらりと身体が傾いて・・・ぇ?

「残夏君!?」
「・・・っ!」
「残夏・・・!!」



カチコチと時計の秒針が進む音。
残夏君をレン君が部屋まで運んでくれて、少しでも身体を楽にする為にスーツや手袋なんかを剥ぎ取ってから寝かせる。
暫くすれば、カルタちゃんが呼びに行ってくれたミケ君とちよちゃんを連れて戻ってきてくれた。
それに野ばらちゃんがさっきまでの状況を軽く説明してくれる。手紙の事も。

「大丈夫かな?残夏君」
「暫く寝てりゃ、何時もどおりに起き上がってはくるけど・・」

そう言ってくれるけど、やっぱり卍里君の声にも不安や心配みたいな色がある。
アタシの薬・・・は、外傷が無いから塗れないし、飲むにしても起きてもらえないといけないし。
卍里君が“百目の力は肉体的にも精神的にも負担が大きい”って言ってたから、残夏君は能力を使ったって事だよね。
この手紙にきっと何かがあるんだと思う。それだけ大きな負担をかけるような何かが・・・。
見てみれば、出てきた手紙の宛名にはそれぞれの名前と同じ人物の筆跡。アタシであれば、アタシの筆跡、みたいな。

「僕のは違う・・・・これは、御狐神くんの字だ・・・」
「本当?また分からなくなったわね」
「ま。とりあえず開けてみりゃ良いんじゃねーの?それが早いだろ」
「ちょっ!馬鹿、明らかに怪しいでしょ。怪異の類だったらどうするのよ?」
「あー、それは考えてなかったわ~」

ダルそうに頭を掻きながらそれでもレン君は自分の手紙へ目を通す。
それにひとつ大きな溜息を吐いて、結局は野ばらちゃんも自分の手紙を開けた。
アタシも、同じようにするけど・・・・・・・でも、えぇと・・これって?

「・・・皆、読んだ?」

衝撃的な内容に頭を混乱させながら、野ばらちゃんの声にただ頷く。

「はは・・なんつーか、これ何てSF?みたいな」
「でも物語じゃないよね。変な話だけど、コレ・・絶対に自分が書いたって分かる」
「ええ。そして自分だから分かる。これが本気だって」

手紙の内容は簡潔だった。
まず年末にカルタちゃんが襲われる事。奇跡的に生きてはいるけど、自我の無い妖怪に変えられてしまう事。
似たような先祖返り達を引き連れて百鬼夜行が行われるという事。
アタシとミケ君はそこで死んだみたい。というかタイミングは違えどレン君以外は一度死んで生まれ変わったんだって。
でも百鬼夜行は“千年桜”という妖怪を使って、自分達でも気付けないほど幾度も繰り返されてきたらしい。
自分達も今が幾度めの未来かは分からない。だけどこれ以上、百鬼夜行を起こさせない為にも“犬神命”という人物を止めて欲しい。
それ以外にも少々書かれていたけど、まぁつまりはそんな内容が書かれていた。
自分の筆跡、自分の言葉じゃなければ“何の悪戯だろう”なんて一蹴してたと思う。

「じゃあ・・・やっぱり、本当に・・?」


「百鬼夜行は起こる。このタイムカプセルは未来からのSOSらしいよ~」


「残夏君!?」

急に起きちゃって大丈夫?駆け寄って額で熱を測れば、少しだけ驚いた顔。
それから少しだけ困ったように笑う。・・・・アタシ、何か変な事したかな?
考えていれば、残夏君は困惑する皆へと視線を向けた。

「混乱している時間は無いよ。此処で相談だ。
より詳しい状況が知りたいなら教えてあげる。それで百鬼夜行を回避できる保障は無いけどね~。
ただし、覚悟しておいで。そこには自分や大切な人の死の瞬間が含まれるからね」

真剣な声。それにアタシは──。


タイムカプセル。
アタシ達が未来へ送る筈だったのに、その送るべき未来から届いた手紙。

“今のアタシはきっといなくなっちゃうと思う。
だけど、それは行動してもしなくても同じだろうから”

未来のアタシからの手紙に目を落とす。
必死に紡がれる文字は、どんな想いで書いたんだろう・・・?

“お願い。今度は蜻蛉や野ばらちゃんの前で死なないで。
それはきっと今のアタシがしているような後悔をずっと残す事になるだろうから”

追伸に添えられた言葉。
後悔、だなんて言葉は今のアタシには分からない。後悔らしい後悔なんて感じた事無い。
だけど・・・それが絶対に良くない結末を招く事は分かって、だから思わず目を伏せた。



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