鳥篭の夢

ズレた未来



“IFのボクが直接見た訳じゃないよ~☆
残念ながら、その時のボクは皆より先にリタイアしちゃったみたいだからさ。
だからあのタイムカプセルの手紙から視えた情報になるんだけど・・・”

そう残夏君に前置きされて教えてもらった生々しいIFの世界。
戦いの最中に・・・それも今までの例に漏れず腹に穴を開け・・・蜻蛉と野ばらちゃんに看取られて死んで。
生まれ変わってからのアタシの事も訊いて。それから今の自分に出来る事を考えた。
とりあえずは同級生と後輩達のフォロー。後は野ばらちゃんのサポート。
といっても基本的に学生だから野ばらちゃんのサポートなんてほぼ出来てないけれど。
でもこの半年間で確実に結束は固くなったと思う。不思議な話だけどね。


「みんな、ハッピーニューイヤー☆」

で。結局、IFで起こる筈だった年末事件は起きず空振り。
妖館に戻ったアタシ達を出迎えてくれたのは、ちゃっかりコタツとミカンを用意してくれた残夏君だった。
それどころじゃないって卍里君が言うけど、手詰まりだもんね。
蜻蛉は・・・最近、連絡ついてないみたい。アタシもずっと会ってないや、そういえば。

「あ、もう日付変わってるんだね。
明けましておめでとうございます、今年もよろしくお願いします」
「おー、ほんとだなー。あけおめー」
「ことよろー♪」

「緊張感がねぇっ!!」

年始の挨拶をし始めるアタシ達に卍里君が猛ツッコミ。
んー・・でも、カルタちゃんも無事だったしさ。

「でも一年の計は元旦にありだよ~?
良いの?この1年がピリピリした感じになっちゃっても~」
「それもそうね・・」
「お。珍しい、野ばらちゃん~」
「だって今日位は3人に笑ってて欲しいもの。ちゃんと息抜きしてるの?」

にっこりと優しく笑う野ばらちゃんに、思わずちよちゃんとカルタちゃんと目を合わせる。
確かにちょっと最近は緊張もしてたしピリピリしてて、息抜きらしい息抜きはしてない・・・かも。
あんまりそんな風に見えないようにはしてたつもりだけど、“3人”って言う辺り見抜かれてる。
アタシ達の様子に野ばらちゃんは笑みを深くした。

「貴重な高校生活なんだから、根詰めないで息抜きもしなくちゃ。
元旦だし、今日位は全部お休みよ」
「そゆ事~☆折角準備したんだしさ、今日は怠惰に過ごそ~♪」

そういって野ばらちゃんと残夏君がアタシ達をコタツへ誘導。
あ、でもコタツなんて久しぶりかも。野ばらちゃんが冬に来てくれた時とか使ったっけ。
レン君は既にコタツ周りにお菓子や飲み物なんかの物を用意済み。
あはは。良いなぁ、それ・・・なんて。笑いながらアタシも野ばらちゃんの隣を颯爽と陣取った。

皆で今年の抱負を語り合ったり、年越しソバを食べたり。
カルタで遊んだり、テレビ見たり、お酒も飲んだり。
レン君達は寝ちゃって・・・まぁ、卍里君やカルタちゃんは特に気を張ってたもんね。
残った食器を野ばらちゃん達と片付ける。

「か・・鎌太刀さん、すまないがコレも頼む」
「はーい。良いよ、そこに置いといて?」
「あ、ああ・・・」

どこか挙動不審なちよちゃんにそう応えて・・って、野ばらちゃん、何でニマニマしてるの?

「うふふ。意識してる凛々蝶ちゃん、めにあっく」

──ガチャン

動揺からか、ちよちゃんの手から置く直前の食器が落ちて音を立てる。
食器が割れてないのを確認してから、お片付け開始。
ザーッと水の流れる音。暫しの静寂。
ちよちゃんは何度か口をはくはくと開閉してから挑む様に野ばらちゃんへと視線を向けた。

「な、なんのことだ?」
「夏目から聞いたんでしょ?
もう1つの未来では2人は付き合ってたって」
「!!ふ・・不謹慎だ!今はそれどころではない・・・!」

慌てふためくちよちゃんに、野ばらちゃんは距離を詰めて顔を覗きこむ。
くすり。野ばらちゃんの小さく笑う声。

「そうかしら?御狐神はそうは思ってないと思うけど?
凛々蝶ちゃんがギクシャクしてるから近付き辛いんだと思うわ。
ベタベタ纏わりついているように見えて、凛々蝶ちゃんの許しがないと一歩も近づけないような男よ。
・・・・・好きなんでしょ?凛々蝶ちゃんも」

言葉に、ちよちゃんは真っ赤になってでも何処か寂しそうな顔になって・・。

「だけど、夏目君が言っていた。彼は僕を庇って死んだ・・・。
そんな事を起こさない為にも、今は百鬼夜行に備えたい。彼を、みんなを守りたいんだ。
もう1人の僕と一緒に・・・!」

ちよちゃんの少し不器用な真面目さと優しさが、じわりと胸に沁みる。
アタシも近い気持ちで、だからこそずっと動いてた。緊張してた。
野ばらちゃんも、蜻蛉も、みんなの事も守りたい。
勿論、もう1人のアタシの忠告・・・・アタシが簡単に死なないようにするって事も含めて。

「真面目ね。美点だけどお姉さん心配だわ、あんまり根を詰めないでね。
勿論、もよ!」
「あはは、ありがとう。野ばらちゃん」

洗っていた食器の最後の一枚を籠に伏せて、手を拭く。
出来るだけの笑みを向ければ、少しだけ困ったような顔をされた。
ごめんね。でもアタシはやりたい事をやるつもりだから。
“後悔”がどんな感情かは分からないけど、しないって決めたから。
だから──。

「アタシは大丈夫だよ。
それより、ちよちゃんは隙を見てミケ君とちゃんとお話すべきだと思うな」
「って、君も僕に振るのか!!」
「え、だって気になるじゃない?」
「~~~~っ!!」


──この穏やかな時間が破られるまで、残り後僅かだなんて。
  そんな事、この時のアタシ達は微塵も感じていなかった。



inserted by FC2 system