鳥篭の夢

空いた穴



みんな、もどってきたのに。
ミケくんも、ちよちゃんたちととりもどして。
こんどこそみんなあつまったとおもったのに。

“青鬼院蜻蛉が──”

ねぇ、どうして?

“──遺体で見つかったって”

「かげろ・・・」

どうして、いないの?


どこにも、いないの?



・・・」

扉を叩く音がする。部屋の向こう側で野ばらちゃんの声。
ああ、そうだ。寝ちゃってたんだ。頭がぼんやりする。
でも今日は蜻蛉の遺体を奪還しに行くんだから・・アタシも準備しなくちゃ。
あ。でもその前に野ばらちゃんに顔を見せておかないと。

「おはよう、野ばらちゃん」
「おはよう、・・・大丈夫?」
「ん?大丈夫だよ。でも久しぶりに寝坊しちゃった。
これから準備するから待っててくれる?」
「ええ」

何か物言いたげな顔で頷く野ばらちゃんを部屋に通して支度をする。

百鬼夜行の裏に居るのは思紋お婆様ではないか。
先祖返りの人生・・その物語に魅せられているのだと。
その証拠を押さえる為にも。そして蜻蛉の大事な思い出を守る為にも・・・。
アタシ達は今日、思紋お婆様のお屋敷へと潜入する。

蜻蛉が死んでしまった──なんて、不思議。
一番死にそうになかったのに。失礼かな?でも、そんなイメージだったから。
だけど遺体が見つかったっていうのは、つまりそういう事で・・・。

あの時。
知らされた時、大泣きしたカルタちゃんと、泣かなかったアタシ。
あんなに幸福な感情を沢山もらったのに涙1つ流れないなんて本当は薄情なのかもしれない。
ただ・・・・ただずっとポッカリと、穴が空いたみたいな感じだけがする。


「お待たせ、野ばらちゃん!」
「大丈夫よ。今日も可愛いわね、

“メニアック”なんて何時もの口癖に笑って見せれば、野ばらちゃんは少し困ったように笑う。
何でだろう?アタシ、やっぱり何処か変なのかな?気付けないだけで。
だけど素直に疑問を口にする気にもなれなくて、ただ突いて出てきた言葉を口にする。

「それにしても・・カルタちゃんは大丈夫かな?
昨日、あんなに泣いてたし。少し心配だね」
「そうね。でもあたしはカルタちゃんだけじゃなくて──」

「おはよー。やっぱこっちにいたんだな」

へらっと笑うレン君の姿。
それに“あ、おはよー”と笑って返せば隣にいた野ばらちゃんがキレた。

「あんった・・!女の子の部屋に勝手に来るんじゃないわよ!」
「いやー。だって扉開いてたし、2人の声してたし」
「あはは、まぁアタシが寝坊したのが悪いんだし、落ち着いて?」
「もうっ。は甘いんだから」

まぁまぁと宥めれば、野ばらちゃんはやや苦笑気味に溜息を吐く。
良かった。むすっとしてたら綺麗な顔が台無しだもの。

「で、まずはこれからの事ね。
夏目と打ち合わせはしたんだけど、思紋さまのお屋敷へ侵入する際には夏目と渡狸を監視に配置させる事にしたわ。
まぁ、男2人がいたら今回の作戦は成り立たないから妥当な流れね」
「・・・・あれ?レン君は?」
「俺はほら、この通りぺらぺらだから邪魔にならないじゃん?
足代わり位にはなるだろって事でー」
「そっか」

確かに飛べるのは利点だよね。
アタシも風を使えば跳躍位は出来るけど、実際に“飛ぶ”ってなるとレン君しか出来ないから。

「でも危ないよね?潜入中はポケットに入れるとか?」
「一応、そのつもりよ。
あんたも、いざという時までは出てこない事」
「分かってるって」
「後は・・・・ミケ君は、変化するのかな?
何ていうかちよちゃんから離れなさそうだし」

お付き合いする事になったって言ってたし。
確証はないとはいえ敵の本拠地と思っている場所でミケ君がじっとしてるとは思えない。
言葉に、野ばらちゃんは1つ頷いて肯定してくれる。

「ええ。それで、潜入先で衣装の調達しての捜査になるわ。
お屋敷の規模が段違いだから古典的でも紛れる事は出来るでしょう」
「・・・うん」

思紋お婆様・・・・・。
何時もニコニコしてて、アタシと一緒にゲームしたり、楽しそうにしてる印象しかない。
悩んだりしてると優しい顔でアドバイスもくれたし。色々手も貸してくれた。
格闘ゲームでボロ負けすると凄い悔しがってたっけ。何回も相手させられた気がする。
だけどそれも全部が嘘の顔だったの・・・・?
本当は全部打算からくるもので、不審な死を装って先祖返り達の記憶を効率よく集めていただけ?本当に?
分からない。アタシにはまだ繋がらないけど、でも・・・・。

「頑張ろうね。野ばらちゃん、レン君」
「そうね」
「だな」

取り戻すんだ・・・蜻蛉を。



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