鳥篭の夢

これからの事



「ふははは!待たせたな、よ!
新たなる家畜を連れてきたぞ!」

バーン!とか効果音がつきそうな何時もの蜻蛉ポーズ。
っていうか待ってないし、此処アタシの部屋なんだけど。
急にどうしたの?後、新しい家畜って何?
考えながら視線を移動させれば、その後ろに居たのは・・・クロエさん?

「わ、目が腫れてますけど大丈夫ですか!?」
「いえ。お構いなく」
「お構いします!これで冷やしてください」

前に蜻蛉に貰った目元用ソフトタイプの保冷剤。
何かあったとき用にと冷凍庫に入れていたそれを取り出してタオルでくるんで渡す。
それを暫く眺めた後、クロエさんは大人しく受け取って目に当てた。

「すみません、思紋さまが先に亡くなられてから自分でも如何して良いか分からなくて・・・。
歴代の私はいつも戦いの渦中に身を置き、思紋さまを守りながら死んでいったそうなので。
次の思紋さまがお生まれになるまで・・・いえ、それまで生きているかも分かりません」
「それって・・・」

“ええ”とクロエさんはひとつ頷く。

「私は鎌太刀や夏目の先祖返りの皆様と同じ、短命の運命を背負っています」

・・・・・こんな所にも短命仲間が。
鴉丸家が思紋お婆様・・・・ううん、悟ヶ原家の先祖返りを守る為に常に傍にいる事は知ってたけど。
後、クロエさんがやたらバトルフリークなのも知ってるけど、そういう事だったんだ。
確かに純粋な妖怪もそうだけど何かと生命を狙われやすい立場だもんね。
守る為に短命になるのは仕方ない──の、かな。先祖返りは始祖と同じ道を辿りやすいっていうし。
だからこそ、急に居なくなってしまった思紋お婆様の存在は大きすぎて。
きっと、少し前のアタシと同じ。喪ってしまったと勘違いしたアタシと。
でもアタシは勘違いだったけど、クロエさんは・・・・ツライよね。混乱だって、きっとする。
如何して良いかなんてすぐに思い浮かぶ筈が無いよ。

とりあえずとソファに座ってもらってお茶を出す。
クロエさんも知らない内に緊張していたのかもしれない。一度口をつけると、長く息を吐いた。
隣で蜻蛉が“熱い、流石ドS!”とか言うけど淹れたてを冷まさずに飲めばそりゃあ熱いからね?

「思紋さまのお墓の前から離れられない私の前に、蜻蛉さまは現れました。
何でも、先祖返りの運命を変える方法を探しておいでだと・・・」
「先祖返りの運命を?」
「うむ!百鬼夜行も終わったからな!!次は貴様達の運命を変えてやるつもりだ。
、次は貴様達の未来を探しに行くぞ!」

アタシ達の・・・未来?

「我々先祖返りは似たような運命を辿るのが普通です。
けれど中には突然全く違う運命を歩むものが居たと、過去の記録を見ながら思紋さまが興味深そうに話しておられました。
そもそも先祖返りは生まれ難くなっているそうなので、その呪縛から解放されつつあるのかもしれません」
「という事だ!とはいえまだまだ情報が足りないからな!
それで旅に出るという訳だ!!」
「旅・・・?」

何か、何処かで聞いたような・・・?

「前に言っただろう?旅に出ると!
その運命を外れた者はコミュニティからも外れたと聞いたからな!
情報を得る為に世界中を旅し、必ず探し出してくれる!!」

もしかして、その為に旅に出るって言ってたの?
何か普通の小旅行的なものかと思ってたけど、そうじゃなくて。
残夏君やアタシ達の事を考えて・・・?
短命のアタシや、残夏君、クロエさんの運命を変えようと・・・?

「ホント、蜻蛉って不思議だね」

くすりと思わず笑いが零れる。

「普通はそんな事、考えないよ?
先祖返りの寿命を・・・運命を変えようなんて・・・・」

アタシはずっと受け入れてたのに。
消耗品である事。すぐに死んでしまう事。
それは仕方無い事なんだって、ずっと・・。

「アタシ、そんな事・・・ずっと考えた事もなかったのに」
「ふむ。相変わらず欲が無いな、
諦めてしまえばそれで終わりだ!貴様はもっと貪欲になれ!!」

どうしてこう・・まっすぐに優しいんだろう?
アタシ達以上に、貪欲にアタシ達の未来を願ってくれるんだろう?
もっと彼の周囲の人達は気付くべきだ。蜻蛉のこんな姿に。
そうしたら彼が“変態”なだけじゃないってすぐ分かるのに。

「私は暫く思紋さまの遺されたこれまでの記録を探してみるつもりです。
僅かにでも手掛かりがあるかもしれませんから」
「うむ。私達で悟ヶ原家の資料を漁る訳にはいかないからな!
事前準備は頼んだぞ!」
「はい、お任せください!蜻蛉さま」

両手を組んで、ふわりと頬を染める姿。
あれ?これってもしかして・・・。

「クロエさんって蜻蛉の事が好きなんですか?」

恋愛漫画とかでよく見るパターンだなぁってよく考えずに訊いてみる。
・・・・けど、え?もしかして、もしかしなくてもライバルポジションになるとか?
一緒に旅をする予定なのにギスギスしちゃうのはちょっと如何なんだろう?
自分の事なのに何処か他人事に感じながらクロエさんの反応を待つ。
と、クロエさんは幾度か瞬きをした後で、再度ほんのりと頬を染めた。

「そうですね・・・蜻蛉さまは正直あまりお強くはないのですが。
打っても打っても立ち上がるお姿が印象的で、忘れられずにいましたので。
ぜひお供させていただければと。
それに世界中には未だ見ぬ猛者もいると窺っておりますし」

あ。違った、恋愛感情じゃない。ただのバトルフリークだ。

さまも、またぜひお相手くださいませ」
「あー・・・はい」

ゲームなら大歓迎なんだけど、そうじゃないよね?きっと。
まぁちょっとお相手する位ならいいかなぁ、なんて。
にこりと微笑んでくれるクロエさんは何だか不思議だけど、嫌じゃない。
蜻蛉と、残夏君と、クロエさんと、アタシと・・・。
きっと何か見つかるような気がするなんて。ううん、見つけたいって思えて、だから──。


うん、大学進学・・・諦めるかぁ。



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