鳥篭の夢

手入れ



「蜻蛉ってさぁ・・・部屋でもそんな格好だよね」

ワイシャツとスラックス。仮面は──外す事もあるか。部屋だと割と。
眼鏡姿は結構格好良いと思う。何だか普通っぽく見えて違和感はあるけどね。

「ん?何だ、。私の格好に不満でもあるのか?」
「うん、不満なのかも。
もっと色んな格好すれば良いのにとは思うから」

だって変化姿の着流しだって凄く似合うし。
顔立ちだって整ってるんだから何時も似たような格好なんて勿体ない気がする。

「ほう。ならばはどんな格好が悦いのだ?」
「へ・・・?」

そんな返し方されると思わなかった。唐突な疑問に言葉が止まる。
どんな・・・・?どんな。んー・・・・・・。

「今は部屋なんだしもうちょっと楽そうな格好、とか?
残夏君とか、アタシは見た事ないけどミケ君だって私服はラフだって聞いたし」

誰から・・って、勿論ちよちゃんから。
だから余計に今更であれど疑問を抱いたんだと思う。何故に蜻蛉だけ?みたいな。
言葉に“ふむ”なんて考えるような仕草。
それから何か思い付いたのか何時もと変わらない笑顔に戻った。

「ならば貴様が選んでみせろ!!」
「・・・・・・は?アタシが??」
「私はあまりそういったコダワリを持ち合わせてないからな!
なに、服ならクローゼットにでも入っているだろう!!」
「だろう・・って」

そんな適当な。

「何だ自分から言い出しておいてこの私に放置プレイか?なかなかのドS!!」
「あぁ、うん。ごめん」

だからほっぺたムニムニ触らないで。伸びる。
手で制したら今度はガッチリホールドされた上でキス。単に触りたいだけなんじゃ・・・。

「えぇと、そしたら探してみるから。とりあえず離して」

流石に振りほどけないよ。

「ふははは!そんなにも私から解放されたいか!!
ならば自分でもがきながら逃げてみせろ!私からは離さん!!」
「えー?」

何それ。
だったらと鼬に変化して抜け出せば、途端に蜻蛉は黙り込んだ。
・・・ってぇ、本当は抜け出されたくなかったんじゃん。
思わず苦笑して、それからクローゼットの中を覗いて見れば──割とあるなぁ。
着てるの見た事無いというか出された形跡すら無いけど。
勿体ない。なんて考えは蜻蛉には無いか。無いよね、うん。
えぇと、そしたら・・・。


「とりあえずこんな感じでどうかな?」

Tシャツとかを簡単に合わせてみました。
私自身が色デザインの趣味とか好みは野ばらちゃんに近いかもしれないけど。
でも別にメニアックじゃないし。そこまで変じゃないとは思う。

「ならば私が直々に着てみせてやろう!ふははは!!」
「・・・っ!」

笑いと共に豪快に服を脱ぎ出されると流石にちょっと恥ずかしい。
平静を装いつつ・・いや、バレてそうだけど。窓の外へと視線を向けて着替え終わるのを待つ。


「ふむ。たまには違う格好というのも良いものだな!」

満足げな声に終わったんだと分かって目線を向けて──わ、何だか凄い違和感。
いや、似合ってるし格好良いとは思うけど変な感じ。

「しかしこんな服まで所持していたとは、流石私!!」
「・・・もしかして蜻蛉って掃除とか洗濯とかした事ない?」
「む。何故私がそんな雑事をしなければならんのだ?」

デスヨネー。
自分の部屋に何があるかちゃんと把握してない時点で何となく予想はついてたけどさ。
あはは、流石蜻蛉・・・って。

「髪の毛、ぐちゃぐちゃになってる。結び直そうか?」
「気が利くな、我が性玩具よ!
好きなだけ私の髪を蹂躙するが良い!!」
「ホント?」

じゃあお言葉に甘えて少しいじくっちゃお。
蜻蛉の髪ってサラサラだから触るの楽しいかも。
私は細くて癖付きやすいし、絡まりやすいから羨ましいなぁ。
手櫛でも十分に纏まるソレを上でひとつに束ねる。

「こっちのが邪魔にならないかと思ったけど・・・変かな?」

所謂ポニーテール。蜻蛉だって成人男性だし、これはやっぱり嫌だった?
暫く蜻蛉は黙ったまま鏡を見てたけどすぐに何時もの笑顔になった。

「たまには貴様の玩具になるのも悪く無いな!!」
「えぇと、嫌じゃない?」
「なにをいう!貴様が珍しく主人に手を入れたのだぞ!!
面白いからもう暫くこのままでいてやるに決まっているだろう!悦いぞ悦いぞー!!」

何時もとは違う格好で何時も通りに笑う姿。
それが何だか不思議で、彼なりに気を使ってくれたのも嬉しくて。
だから自然と顔が笑みを刻んだ。



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