序章/02
風が木々を揺らし、暖かな陽光が差し込む中。私はただ独りぼっちだった。
セシルと別れてどれだけの時間が経っただろう。
不意に、途方に暮れる私のすぐ傍に獣の気配がして、まだ幼かった私はただ身体を強張らせた。
魔力が高くても攻撃魔法は得意ではない。だから身を守る術すら見当たらなかった。
人を襲うような獣が現れたらどうしたら良いのだろうか。逃げられる?武器になるものは?ぐるぐると思考だけが駆け巡った。
ガサガサと木の葉が擦れ、そして大きな塊が目の前に迫る。ただ怖くて私は強く強く瞳を瞑った。
「おい」
唐突に降り注ぐ声。
「・・・・え?」
その声に、私はただ間抜けな顔をして顔を上げた。視界に入ったのは近い年齢だろう虎人族の少年の姿。
怪訝そうな瞳に敵意は無くて、その特有の縞柄のあるふわふわとした尻尾が不思議そうに揺れていた。
「アンタ、飛翼族だろ?何でこんなトコにいるんだよ。ウインディアってこっからだいぶ遠いだろ」
「えっと・・・えと・・・黒いつばさはフキツだからイラナイからって・・・・・・」
「「・・・・・・」」
それは自分でも変な理由だと思う。もっと言い様があっただろうに、頭が巡らなかったにせよあまりに滑稽だ。
そのままお互いに黙り込んで、彼は頭を掻くと溜息を1つ落とした。
「ゆかいだねぇ・・全く」
「えと・・・」
「じゃあいっしょに来るか?どうせオレも1人だし」
それは予想外の言葉だった。まさか黒翼が見えていないのでは無いかと思える程の真っ直ぐな言葉。
だから私はどんな風に返事をして良いのか分からなくて戸惑ってしまっていた。
「・・・え、でも良いんですか?だって黒いつばさはフキツの象徴なのに・・・??」
「良いんじゃねーの?そんなの怖がってらんねぇよ。それより今は自分達のメシをしんぱいするほうが先だろーしな」
まるであっけらかんとした言葉。ぽんぽんと飛び出す予想外に私はただ驚く事しか出来なかった。
それと同時に、差し出された手とその彼の笑顔が何だか嬉しくて仕方なくて。
「オレはレイ。アンタは?」
「わたしは・・・!・ウインディア!!」
その手をとった事を、私は一生後悔する事はないだろう。その貴方の笑顔を私はきっと忘れる事は無いだろう。
大切な貴方と時間を共にする始まりの出来事なんだから・・・。
「ん?なぁ、ウインディアって・・・まさかアンタ・・」
恐る恐る訊ねる言葉に、私はひとつ頷く。
「あ、はい。わたしはウインディア王家第一王女です。でもきっとおしろは妹がつぐからだいじょうぶ」
「妹がいるのか」
「まだ小さいけど、白いつばさでてんしみたいなの」
思い出す妹の姿。もう会えないと思うと少しだけ淋しかった。
「ふーん、王女さんねぇ」
「でももう、ちがいますよ。わたしは死んだコトになってるだろうから・・」
「・・・・そっか」
「はい」
納得したように頷いて、それからレイは不満そうな顔をした。どう言おうか悩むように頬を掻く。
「なぁ、敬語やめろよ。これからは家族みたいなもんだしな」
「え?・・・ぁ・・うん!」
そうやって照れるように言われて私も何だか気恥ずかしかったのを覚えてる。
家族に敬語を使わない。のは、直るまで暫くかかったけど。それはそれで良い思い出かな。
新しい家族。大切な人。まだ幼い、ほんの子供の私達が何処まで出来るかなんて何も考えていなかった。
ただひとりぼっちだった子供達が寄り添うように集まった。そして新しい家族として生きていこうと決意した。
それだけの事───