鳥篭の夢

幼年期/拾われた子供01



ぐぅー・・ってお腹の鳴る音が部屋に響く。私のじゃなくて、ティーポの。
机に突っ伏して、頬っぺたを机にくっつけて、今にも空腹で死にそうな顔を私に見せる。

「兄ちゃん遅いね・・・姉ちゃん」
「そうだねー・・・今頃きっと頑張って狩りしてるんだよ」

きゅぅぅ・・って、今度は私のお腹が切なく鳴る。

「・・・・ハラ、へったね・・・」
「うん」

確かにお腹は空いた。今家に残ってるのは木の実が何個か・・・流石に手を付けちゃうのは勿体無い。
ていうよりも、もし獲物が無かった時の非常食だから黙って2人だけで食べちゃうのは悪いもんね。・・・それにしてもお腹空いた。
確かに冬だから獣達が少ないのは分かるけど、今冬はちょっと酷いと思う。

「ねぇ、ティーポ」
「何?姉ちゃん」
「一緒に釣りしに行こうか?」

あんまり期待は出来ないんだけど、ただ待ってるだけって言うのも何だし・・・。

「魚・・釣れるかなぁ?」
「あんまり期待しない方が良いけどね」
「クラゲばっかじゃない?」
「うーん・・・それも断言出来ないかな」
「じゃあ、オレやだなぁ」

気持ちは分からなくも無い。誰が好んでクラゲなんて食べようなんて思うかという話。ほとんど水だし。
寒空にじーっとしているのもただ寒いだけだしねぇ。春なら大分違うんだけど・・・なんて考えたら思わず苦笑。
あー・・・ホント“お腹空いた”しか言葉が出てこない。

───と、ガチャリと扉が開いた。

「あ!レイ」
「兄ちゃんお帰り!」

同時に顔を上げて、それから一度固まる。レイの背中には青い髪の男の子が眠っていた。
・・・・・何だかデジャヴュなんですが。

「・・・・・ねぇ、それ獲物?」
「ティーポ。アレが食べ物に見える?」
「うーん・・・」
「・・・・何でも食いたがるな、ティーポは?」

私の問いに真剣に腕を組んで悩みだすティーポにレイが言葉を継ぐ。全く、食い意地だけは人一倍だよね。
それから男の子が裸な事に漸く気付いて・・・・て、何で服着てないの?この子。

「とにかく、服探してくるね」
「ティーポ。お前のベッド空けてやれよ?」
「う、うん!」

・・・・・何かあったかな?そう思って階上へ行ってタンスを漁る。ティーポの服、レイの服、私の・・・。
とりあえず寝巻き・・で良いのかな?眠ってるみたいだし。見ればレイ達はもうこっちに来てて、男の子をティーポのベッドに寝かせていた。
その子に私が寝巻きを着せて、ふんわりと毛布をかける。くぅくぅと小さな寝息が聞こえた。

「兄ちゃん。こいつ誰?」
「さぁな。・・・森に倒れてたんだ」
「ふぅーん。何か、オレみたいだね?」
「捨て子・・・か、不作だし・・・・・なぁ?」
「・・・ティーポ」

少しだけ悲しそうなティーポの顔に胸が締め付けられる。確かにティーポもそう。レイに拾われた。
でもそれを悲しんで欲しくなくて私はティーポを抱き締める。

「わ!姉ちゃん!?」
「大丈夫よ、ティーポ。私達が一緒でしょ?」
「さ、淋しいなんて言ってないよ!!」

顔を真っ赤にして一生懸命私から離れる。少しは元気になってくれたかな?なぁんて・・・・。
少しだけレイが機嫌悪そうに見えて、それがまたちょっと楽しかったりする。

「とりあえず寝かせとくか。、コイツ頼んだぜ」
「ん?うん、別に良いけど・・・・何処に行くの?」
「ちょっと村にでも行って来る。食い物を手に入れないとな・・・」
「あ、オレも行く!!」
「あー、2人とも!ドロボウはダメだって!この冬は特に食べ物ないのに・・」
「まぁまぁ。そうでもしなきゃ、か弱い子供達は生きていけねーって事で連中も許してくれるさ」

反対する私とは別にレイは肩を竦める。確かにそのおかげで今まで生きてこられたのもあるけど・・。
でも私だって村のお手伝いとかして少しは貢献してるのに・・・もぉ!バカレイー!!!

・・・・・なんて、そんな事は声にしなかったら全然伝わらないんだけど。
でも事実レイが盗んでくれてるから生きながらえてるのはある。子供だけで生きるのは難しいよ。
ババデルは好意的な方だけど、他の村の人達はやっぱり少しだけ冷たい。

「捨てられた・・のか。ホント、オレと同じだなぁ・・・?」

ポツリ、ティーポの呟く声。それに顔を上げれば目が合った。慌てて笑顔になって走っていく。
やっぱり親がいないのは淋しいよね・・ティーポも。
私じゃ流石に親代わりが出来る年齢じゃない。それが少しだけ悲しいとは思う。

「・・・・ん」

小さく漏れた声に、ふと男の子へ目線を向ける。少しだけ珍しい色合い・・鮮やかな青い髪の毛。
一瞬村の子供かとも思ったけど、マクニール村は狭い村だから私が知らない筈が無いし・・・。

「村の子じゃない・・よね?今まで見た事ないし・・・」

やっぱり捨てられた子供?でもわざわざシーダの森に・・・?あ、でも捨てやすいのかもしれない。
私だって似たようなものだし。村の人って基本無関心だから、分かりにくいのもあるんだろうなぁなんて考えてたら少しだけ淋しくなった。
捨てられてしまった子。親に見離された子。シーダの森に集まった私達。

───でも、私はどうなんだろう?

あの時はセシルに助けてもらった。そう思ってたけど・・もし本当は父様の命令だったら?
本当は母様にも父様にも見捨てられたんだとしたら・・・?国にも親にも見離されたのだとしたら?

ううん、そんな事は考えちゃダメ。私はティーポの姉ちゃんなんだから強くなくちゃね。
きっとこの子の姉ちゃんにもなるんだろうし・・・他に家を探すって言うなら別だけど・・・。
とにかく!スープでも作ろうかな。具は無いけど、でも、起きたら少しでも何か入れておかなきゃ。
・・・・・うん、そうしよう!!



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