鳥篭の夢

幼年期/拾われた子供02



くつくつとスープが美味しそうな匂いを立てる。
う~ん・・お腹空いた。あの子が起きたら私も一緒に食べようかな?
なんて考えてると、階上からガタガタ音がした。噂をすれば・・ってやつだよね。

───ドタッ!!

・・・・・こけた?だ、大丈夫かな?何だかすごい音がした気がするけど・・・。
不安になって、一応火を消してから音のする方へ向かう。と、今にも泣きそうな男の子と目が合った。

「大丈夫?痛いトコ無い??」

目にいっぱいの涙を湛えた男の子は、泣きそうな顔のまま寝巻きの裾を捲って擦り剥いた膝を出す。ジワリと滲んだ血の赤色。
無言で訴える瞳に私は何度か男の子の頭を撫でた。それから傷口に手を翳す。・・・これならリリフで事足りるかな?
精神を集中、魔力を練り上げて擦り剥いた膝へと放出した。

「リリフ」

柔らかな光が男の子の膝へ降り注いで、擦り剥いていた部位を包み込む。血も止まったしこれで大丈夫!
見れば、男の子は不思議そうな顔をして私と自分の膝を交互に見比べていた。・・・魔法が珍しいのかな?

「ありがとう・・おねーちゃん」
「いいえー、どういたしまして」

どこか照れるような申し訳なさそうな顔をして、ぽつりとお礼の言葉を零す。まだ少し緊張する顔。
少しでも安心させたくて私はニッコリと笑顔で言葉を返した。それから、ふとスープの事を思い出す。
折角味は美味しく出来たんだし、目も覚めたみたいだし・・・飲むかな?

「ね、スープ作ったんだけど飲む?」
「う、うんっ!!」

男の子は何度も頷く。その様子が可愛らしくて私は思わず笑みを漏らした。

それから一緒にスープを飲みながら色々と話を聞いた。とりあえず分かった事は男の子の名前は“リュウ”という事。
気付いたらシーダの森にいて、犬・・・多分、野良犬だろうけど襲われて・・・だけど、ソレより前の事は分からない。
・・・本当にティーポみたい。レイに拾われるより前の事は分からないなんて。

「あの・・そのレイって人は?」
「ん?今は村にいるよ。一緒に行ってみる?」

問う私にリュウは何度も頷く。喋り始めは少しだけ緊張してたけど、徐々に薄らいだみたいで嬉しい。
私を見る瞳にはもう怯えたような感情は無くなってて。それを裏切りたくなくて、出来るだけ優しく笑う。
・・・問題は寝巻きなんだけど、ティーポのでもダボダボかぁ。
服もティーポにサイズピッタリのしか無いから合わないよね。

「ゴメンね、服は村で探さなきゃダメみたいだけど・・・。あ、お金あったかな?」
「えと・・あの・・・」
「ん?リュウは気にしなくても大丈夫だよ。村までは私が守っていくからね」

グミとか、めつつきとかなら大して強くも無いし。ちょっと気をつければ守りながらでも大丈夫だよね。
野良犬もちょっと脅かしたら逃げるし。うん、レイに負けたくなくて少しずつでも鍛えてて良かったー。
リュウの少しだけホッとした顔。さっき話してくれた“野良犬に襲われた”って言うのが恐怖になってるんだろうなぁ。
手を差し出すとギュウッて握ってくる、まだ小さな手。
ほんの少しだけニーナを思い出した。私を全力で頼ってくれる姿が愛しく思える。

「さ、行こうか」
「・・・うん!」

精一杯頷くリュウに、安心させたくてニッコリと笑った。

───で。嬉しい事に、邪魔される事無くすんなりと森を出れた。
チラリと見れば、野良犬と出会わなかった事を安心するリュウの姿。
本当に怖いんだなーって思って、申し訳ないけど少しだけ笑いが漏れる。
リュウの不思議そうな瞳が私を捉えて、“何でもないよ”って返したらそのままの顔で一度頷いた。ティーポと違っておっとりしてる感じ。


「この悪ガキどもっ!!!」

村に着いた途端、村の人の罵声が聞こえて・・・レイとティーポかな?
なんて思ってたら予想通りレイが私の目の前に飛び降りてきて、ビックリしたようにリュウが地面に座り込んだ。
何度も瞬きしてレイの顔を見上げる。と、家から更にガチャンッて凄い物音がしてその扉からティーポも飛び出してきた。

「へへ~んだ!捕まるもんかっ!!」

舌を出してレイの元へと駆け寄っていく。家の主人が必要以上に追いかけないのは何も盗られなかったからだと思う。
私達が集まってるのを見て、呆れたような視線だけ寄越す。如何してふざけた事を咎めないのかって責めるような視線。
やっぱりお前達は如何にもならない駄目な子供達の集まりなんだなって・・そういう冷たい視線。それは少しだけ淋しい。

「あ、姉ちゃん!」
「ティーポ。ドロボウは駄目って言ったのに・・・」
「へへ~。んでも駄目だったよ、皆ガードが固くってさぁ・・・」
「・・・ま。不作で、食い物が少ないからなぁ」

笑って誤魔化すようなティーポに、レイもがしがし頭を掻いてから肩を竦めた。
それから漸く気付いたようにまだ座り込んだままのリュウに視線を向ける。

「なぁ、コイツどうした?」
「レイのコト気にしてるみたいだったから連れて来たの」
「あ、何だ。目が覚めたんだ、お前・・・」

ティーポも漸く気付いて、リュウの隣にしゃがみ込む。じぃっと覗く瞳にリュウは何だか戸惑ってるみたいに見えた。
それから立ち上がって寝巻きの埃をパタパタと払うと、ぐぅぅーってリュウのお腹が食べ物を欲して鳴く。

「・・・愉快だねぇ。余計に食い物を探さないと駄目になったぜ?」
「あ・・あの・・」

肩を竦めるレイに、リュウが申し訳なさそうな顔を向ける。その頭に私はそっと手を置いた。不安そうな瞳が向く。
レイは別段リュウを責めるつもりなんてない。でも優しく・・なんて出来ない人だから、安心させるのは私の役目。
と、ティーポが気付いたみたいに手を叩いた。

「あ、そうだ!コイツにも手伝わせようよ、兄ちゃん」
「ちょっと、ティーポ」
「そうだな・・・じゃあ、寝巻きはマズイか・・」
「レイも・・・もぉっ!!」

本当に私の言う事なんて全然聞いてくれない。
レイは自分でさっさと何でもしちゃうし、ティーポもそれに憧れてる。
私が何を言っても無駄なんだろうなぁ・・・。見れば、リュウはきょろきょろと不安そうに辺りを見渡していた。
ティーポがリュウの手をとってニッコリ笑う。

「来な、装備してやるよ」

手を引いて歩き出すティーポと、盗む気満々のレイの後姿に私はため息を吐く事しか出来なかった。



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