鳥篭の夢

Possibly/疑惑1



それは何の確証も無い“直感”に近いものだった。

最初は自分でも黒い翼に驚いたんだと思ってた。
わたしよりもお父様やお母様よりももっと大きな・・そして初めて見る黒に近い深い紫色の翼だったから。
でも一緒にいるにつれて何だか違うんじゃないかって思えてきた。

一緒にいると凄く心地良くて。
まるでお母様が一緒にいるみたいなのに、もっともっと近くて安心できる。
そう・・・もしも“お姉様”がいるんだとしたら、それはきっとさんみたいな人じゃないかって・・。


少しだけ違和感を感じたのは宿屋での食事の時。
ガーランドさんが手掴みなのは昔の通行証の一件で知ってたし、ペコロスはがつがつってそのまま食べてる。
モモさんとリュウ、レイさんは普通に食べてて、そんな中でさんの食器の使い方が凄く目を引いた。
別に悪い意味じゃないの。
小さい頃は気付かなかったけど、食器の音もしない位で手付きが優雅で気品すらあって・・・。
こんな風に言うと2人に悪いんだけど、本当に一緒に暮らしてたのよね?って思う位に見惚れた。

「ん?どうしたの、ニーナ」
「え・・・あ、いえ!なんでもないですっ!」

不思議そうな顔をされて、慌てて取り繕って笑顔。
さんはやっぱり不思議そうな顔をして、だけど“そう?”って言ってそれ以上は何も聞かなかった。
それからまた優雅な手付きで食事を進めていく。

「ずっと思ってたんだけどー、って綺麗に食べるわよねー?」
「どうしたの急に?だって残したら悪いでしょう?」
「んー・・そうじゃなくてぇ、ナイフとかフォークとかの扱い方?っていうのかしらー」
「そうですよねっ!凄く綺麗でわたしもビックリしました!!」

モモさんが同じ考えだった事が嬉しくてわたしもつい言葉を上げる。
それに漸くさんが“成る程”って顔をした。
多分、それはわたしのさっきの視線の事だと思う。
くすくすって楽しそうに笑ってお行儀悪くフォークでくるくると小さく円を描く。

「別にそんな事は無いのよ?
小さな頃にマナーとか一通りやらされた事があってその名残なの。
一度癖になると、今度はちょっと期間があっても抜けないんだよね」
「ぷきゅふ?」
「あらー、でも良い癖じゃない?
凄く綺麗で見惚れちゃうわー」
「あはは!ありがとう」

「ま。んな堅苦しい食い方されると、見てるこっちが疲れるけどな」
「に・・兄ちゃん・・・」
「も~、如何してそんな風に言うのかしらー?」

レイさんの言葉にモモさんとリュウが苦笑した。
だけどさんはやっぱり楽しそうに笑う。

「昔に比べたらマシでしょ?レイ」
「そりゃあな。あんな食い方されたら俺が食う気なくすっての」

笑いながらフォークを音も無くお皿に置く。
行儀はワザとなのか分からないけど、でも1つ1つの所作が凄く綺麗。
小さな頃・・・って、それはもしかしたらさんがまだご両親と暮らしてた頃なのかな?
でもマナーを学ぶって事は普通の家庭じゃあしないわよね?・・・・・普通じゃない家庭??
もしかしたらさんはウインディア出身だったりして・・・ウインディア城下町の??

考えていたら何だか胸の辺りがもやもやとして・・・嫌だとかそういうんじゃない不思議な感覚。

さんが“お姉様”だったら・・

そんな言葉がやけに頭に響いていたの。
さんがもしもわたしの親戚の方だったら・・血縁の方だったら・・・。

───血縁の方だったら?

そうしたら、わたしはどうするのかしら??なんて自分に問うていた。



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