鳥篭の夢

Possibly/質す



夜中に、ふと目が覚める。
寝惚け眼で見れば隣のベッドにいる筈のさんがいない。

「ぁれ・・?さん?」

もそもそとベッドから抜け出して辺りを見渡せば、ベランダにそれらしい姿を見つけた。
綺麗な金色の髪と黒い翼が月光を受けてキラキラと輝いているみたいで、思わず少しの間だけ見惚れる。
それからわたしもベランダに出ると気付いたようにさんがわたしを見た。

「ニーナ、どうしたの?」
「少し目が覚めてしまって・・さんは?」
「私も似たようなものかな」

くすりと小さく笑う。
こうやってまじまじと見ると、本当に綺麗な人だなぁってわたしは思う。
それから今ならチャンスじゃないかって思った。
2人きり。疑問をぶつけるには丁度良い機会。

「あの・・・さん」
「ん?なぁに?」

「本当に不躾なんですけど・・・。
あの・・もしかしたらさんってわたしの血縁関係にあったりしませんか?」

言葉に、さんが驚いた様に大きく目を瞠った。

「え?血縁関係って・・・」
「親戚だったりとか従姉妹だったりとか・・・これは無いと思いますけど、本当にお姉さん・・とか?
ずっと考えてたんです。
普通のご家庭だとそこまで厳しくマナーとかって習わないって聞いた事がありますし。
それにさんって何だか・・お母様に似てるような気が・・・あ、すみません。失礼ですよね?」

さんはわたしの言葉をじっと聞いててくれて、それからゆるりと瞼を伏せた。

「・・・じゃあ」
「はい」

「───じゃあ、もし私が本当は“お姉さん”だったらどうする?」

「え?」

逆に思いがけない質問。
“お姉さん”は一番ありえないって思ってたから如何してそれを選んだんだろうって思って。
それから早く何かを返さなくてはと思った。
答えはもうわたしの中にある。
もしそうならどれだけ嬉しいかって事。
小さな頃から抱いていた“お姉さんだったら”って想いは未だ胸にある事・・でも言葉が上手く纏まらない。

「ぇっと・・あの。わっ、わたしは・・・」

「なんて、まぁ冗談だけどね?」
「へ?」

一瞬の静寂。それから脳に言葉が染み渡る。
目の前に見えた少しだけ意地の悪い笑み。

「あ・・・さんったら!!」
「あはは!ごめんごめん、だって真剣な顔してそんな事言うからつい」

さんが楽しそうに笑って、それにわたしも同じように笑った。
冗談だったのは少しだけ残念な気はしたけど・・・そうよね、そんなに世の中都合良くいく訳ないわよね?
血縁関係で・・お姉さんかもしれないなんて夢見過ぎ。
お母様と似てるのだって、きっと他人の空似だわ。

「まぁ、私もこんなに可愛い妹がいたら嬉しいんだけどね。
弟達は皆お兄ちゃんダイスキだし?」
「そんな事無いですよー。
リュウはいっつもさんにべったりだったじゃないですか」
「そう?でも兄ちゃんには敵わないんだよ。
あんなに可愛がったのにー」

笑いながら不満を零す。
わたしは弟もお兄さんもいないから分からないけど、それはきっととても楽しい生活なんだと思う。
だって拗ねるみたいな言葉に反してさんの表情は酷く柔らかくて慈愛に満ちているように見えるから。

「ま、でもこれで疑問は晴れた?
私とニーナ、王族の人と血縁関係なんて・・畏れ多すぎてビックリしちゃった」
「すみません、さん」
「ううん。でもニーナはそれで凄く悩んだんでしょう?
なら少しでも軽くしてあげれて良かった。
・・・・・・さ。もうそろそろお休みなさい、ニーナ」
「はい。お休みなさい、さん」

そうよね、やっぱり今までの違和感は気のせいだったのよね。
失礼な事言っちゃったかもしれないけど・・・でも“わたしみたいな妹がいたら”って言ってくれて凄く嬉しかった。
やっぱりわたしもさんみたいなお姉さんが欲しかったなぁ・・なんて。



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