鳥篭の夢

Story/意外な効果:前



「ぇ・・・何コレ!?」


早朝。目が覚めて身体のダルさと違和感を感じた私は鏡台の鏡を覗き込み・・・唖然とした。
だってその鏡に映っていたのは、ずっとずっと幼くなった自分の姿だったのだから・・・。


「・・・えっと。原因に心当たりとかって無いの?姉ちゃん」
「うーん・・・それが、昨日の事って殆ど記憶に無いんだよね。
多分何かあったんだとは思うんだけどなぁ。
ねぇ、リュウ。昨日の私ってどんなだった?
何か特別違う事してたとか・・・」
「え?んー・・・」

訊ねると、リュウは腕を組んで悩みだす。
特に思い当たる事は無いって事かな。困ったなぁ。
多分8歳位?の身体。
あまり魔力も出せないだろうし、高度な魔法だって身体に負担がかかるから使えない。
この状況を何とかしないと・・・・

「あ!」

ぽむ、とリュウが思い出したように手を叩く。

「何か思い出した?」
「確か、昨日モモさんと姉ちゃんが何か言い合ってたと思う。
実験が如何とかって・・・詳しくは聞こえなかったけど、それから姉ちゃん早めに休むって部屋に戻ったし」
「・・・・モモ、かぁ」

何か問題があると大抵はモモのような気がする。
まぁ実験大好きだし仕方ないのかもしれないけど。
多分“あ、ごめ~ん”で終わりなんだろうなぁ・・・そんな気がする。
流石に今回は元に戻して貰わないと困るけどね。

寝巻きを引き摺りながらコッソリと部屋を移動する。
ピッタリしている自分の服は今流石に着れないし。
と、それよりも出来るだけ誰かに見つかる前にモモに・・・・


「あら?此処の部屋の人に何か用でもあるの?」


───って・・・早速!!?
恐る恐る振り向けばニーナの顔があって、その瞳が驚いた様に瞠った。
バレましたか?・・・バレましたね。
気付いちゃったんだよね?あぁもう・・・

さっ!?え、え!?」
「うん。気持ちは分かるけど、とりあえず落ち着いて?ニーナ」

そんな事言っても落ち着けないのは分かってる。
でも落ち着いてもらわないと皆が・・・


「何だ、王女さん。
どうかしたの・・・か?」
「む・・・」

うわ、来ちゃった。
何ていうか、こういう時に自分のタイミングの悪さを痛感する。
最低限気付かれたくなかったのに。
レイもガーランドさんも、ニーナと同じように瞠目して私を見ていた。
うぅ・・視線が痛いです。

───ガチャリ
漸く目の前の扉が開いて、その先にモモの姿。
あぁ、やっと出てきてくれた・・・。

「ど・・・如何したのー!?
!!その姿ってー・・」
「それはこっちが聞きたい位なんだけどな。
モモ、昨日私に何かした?」

“詳しく覚えてないの”って言えば、モモは急に視線を逸らして言葉を濁す。
何かしたんだね?うん、今ので本当に良く分かりました。
兎に角、全員集合してから一応説明する。
説明・・って言っても、朝起きてこうなった事と、モモが昨日何かしたんだろうって事位しか私には分からない。
それから私達は全員で元凶であるモモの方へと視線を向けた。困ったようなモモの顔。


「あ・・あのねぇー、一応には昨日言ったんだけどー・・・。
その、ちょっとした実験に付き合ってもらったのねー?
多分その影響だと思うのー」
「ちょっとした実験って・・また余計な事やらかしたのか?」

いつもなら“レイったら酷いー”なんて反論の1つ位するのに、今日はそういった素振りも見せない。
余計な事をしたって理解していたのか、この姿を見て理解したのか・・・。
まぁ罪悪感があるだけマシかな。

「それで・・何の実験だったの?」
「そう!あのねー!
この機械、アロマポットで蝋燭の火じゃなくてフレイムゴーストの欠片で使えるようにしてみたのー!
それでねー、が最近疲労が溜り気味だって言うから丁度良いって思ってー・・」
「使っちゃったのね・・?
でも、モモさん。どうしてアロマポットで・・?」
「問題はポットじゃなくて、この精油の方。
珍しい薬草を手に入れたからそれでちょっと実験してみたのね?
で、それも一緒にに試してもらってー・・・」

この結果になったんだろうってモモは笑顔で言った。
さっきの罪悪感いっぱいの顔は何処に・・・?

「後でにあの精油の成分を訊かれて、答えたら“バカー”ってー。
詳しくは教えてもらえないまま部屋に戻っちゃったから原因は良く分からないけど、でもあれが悪いと思うのー」
「・・・それでその精油に使用したものとは?」
「えっとー・・確か“ドロミ”っていう草と、ペコロスのー・・・」


モモの馬鹿ーっ!!
モモさんの馬鹿ーっっ!!


「ぷ?」

ニーナと思わず叫んで、ペコロスの不思議そうな顔。
でもドロミ草なんて・・そんなのまだあった事に驚きなんだけど。
“え?え?”ってモモは一歩引いて私とニーナの顔を見る。
勿論、皆も分からないって顔。

「それがこの原因かどうかは分からないけど・・確かにその精油の成分が関与しているのは間違い無さそうだね」
「はい。でもまさかドロミ草なんて・・。
確かに血が薄まっているから、もう殆ど効かないとは言われてますけど。
それでも念の為にって栽培は禁止にしていた筈。それなのにまだ残ってただなんて・・・」
「ホント。モモもある意味で運が良いというか何と言うか・・・」
「もぉ~!さっきから何なのー?
私にも分かるように説明してよー!」

そうだよね。私に勧める位だから本当に他意はないんだよね・・・。
1つだけため息を落として、私はモモを見た。

「ドロミ草ってずっと昔に群生してた植物なんだけど・・飛翼族はコレを燻した煙を吸うと力が抜けちゃうの。
血が薄まった分効果は薄いって言われてるけど、やっぱり多少なりともあるみたい。何だか身体がだるいし・・・」
さんが小さくなった理由は、ドロミ草だけが原因とは思えないけど・・・。
でも多分ドロミ草とその他の精油の成分が何らかの反応をしたんだと思うわ」
「あ!でもー。もしコレが精油の成分の所為なら多分その成分が抜けきったら元に戻るんじゃないかしらー?」
「・・・何時抜けると思う?」
「え・・・えっとー・・・」

モモの苦笑。分からない・・だろうなぁ、私もそんなの分からないし。
あぁ昨日の私の気持ちは良く分かった。
この如何しようも無い体のダルさと、すぐには如何にもなら無いって事実・・・不貞寝もしたくなるよ。



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