鳥篭の夢

姉妹/01



「どうぞ、お掛け下さい」
「ありがとうございます」

ふわりと柔らかく笑い椅子を引くセシルの姿。
それに私もそれに笑みで応えてテーブルについた。
顔が引き攣ってないだろうか。
ちょっと心配だけど誰も気に留めてないみたいだから大丈夫だと思う。

あれから・・・彼の地から戻った私達はニーナを送り届ける為にウインディアまで来ていた。
本当は城門辺りで別れるつもりでいたんだけど何故か迎え入れられて誘われるままに食事にまで・・・・。
皆は首を傾げていたけど、ニーナは“きっと2人とも分かってくれたんだわ”って嬉しそうにしていて。
・・・うん。でも、私もきっとそうだって思いたい。


「そういや、親には正体バレてたんだよな。
今回すんなり迎え入れられたってのはやっぱそれでか?」

こそり。隣にいたレイが誰にも聞こえないよう訊ねてきて思わず苦笑。

「んー・・そうかも。
でも私はあの人達がリュウを信じてくれたって思いたいな。
切っ掛けはどうあれ自分達が早とちりしてたんだって分かってくれたんだって・・・」
「そうだな。
ま、どっちにしろ俺は歓迎されなさそうだけど?」
「・・・・って、レイ。何言ったの?」

肩を竦めるレイに思わずそう問えば“さてね”とはぐらかされて・・・もう!レイったらすぐそう言うんだから。
食事の席だからあからさまには無理だけど1つだけ小さくため息。


・・と、申しましたね」
「はい」

不意に母様の視線が私へと向く。
心臓が強く脈打って声が上ずりそうになったのを慌てて抑えた。
城に入るまではコートを羽織ってたけど今は脱いだ状態。
不吉とされる黒い翼が晒されている。
やっぱり中には翼を気にしてるのかひそひそと話す者もいるし、だからこそ話しかけてこないと思ったのに・・・。

「あの時、初めは単にそなたの世迷言だと思っていました。
ニーナはウインディアに、城にいてこそ王女として相応しいのだと。ですが・・・・」

母様はそこで一度言葉を切る。
私を見つめる優しいその瞳は昔と何も変わらない。

「必ずしもそういう訳ではないのですね。
目の前のニーナが、城に縛り付けていた頃よりもずっと成長したのだと感じました」
「王妃様・・」
「お母様・・・」

私とニーナの声が重なる。
確かにニーナはずっと成長した。
根本には勿論ニーナらしさがあるけれど、それでもずっと深い考え方が出来るようになったと思う。
だけどその代わりに母様に寂しい思いと心配させた事には違いない。
それがただ申し訳なかった。

「ですが私がニーナ様をお連れした事実に変わりはありませんわ」
「そんな事無いです!さんっ!!
あの・・申し訳ありませんお母様。
あんな形で城を飛び出してしまって・・・だけど、わたし・・っ!」

慌てて立ち上がるニーナに母様は扇子で口元を覆いながらくすくすと楽しそうに笑う。
それからゆっくりと首を横に振って、再度私へと視線を向けた。

「礼を言いますよ、
貴女のおかげでニーナは成長する事が出来ました。
そうでなければ今頃きっと、ニーナはただ我侭なだけの子供だったでしょうね」
「身に余るお言葉を賜り、恐縮至極に存じます」
「お母様・・・」
「ニーナも良く無事に戻りました」
「・・・はいっ!」

嬉しそうにニーナが笑う。
じんわり目尻に涙が滲んでいて・・・ちゃんと言葉にして貰ったから安心したんだよね。
ホッと安堵のため息が出て、不意に父様の顔が目に入る。
柔らかい表情は私が決して見る事の無かったもの。
厳しく張り詰めたようなお顔しか多く拝見した事が無かったのに。
ニーナがそれだけ愛されているんだって容易に分かる。

───ちくり

胸が痛むような感覚。
私が決して受けられなかった愛をニーナは一身に受けていたんだという真実。
羨ましい・・なんて今更なのに。


「ん、何?レイ」

唐突に呼ばれて平静を保ちながら振り向けば、呆れたようなレイの表情。

「ったく。気にしてんじゃねーよ・・・・つっても、無理かもしんねぇけどな」

そう言って一度だけ私の頭を乱暴に撫でる。
不思議なのはそれだけで心が軽くなる事。
それだけ私がレイに心を預けてべったり凭れ掛かってるんだろうなぁ・・・なんて。
だけど気遣ってくれたのは嬉しくて───

「ありがとう」

一言だけ、勝手に緩んでしまった顔のままお礼を言った。



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