第二章/獣‐拾壱
「?」
『キュッ』
怪訝そうな主のお顔。それにあたしは笑う。
主、あたしは此処に残ります。貴方様の大切な方をお守りしたいですから。
大丈夫です!欠片程度の力であれど、あたしにだってマミは守れます!
「・・・・そう、か」
あたしは微動だにしない。
深く息を吐かれる姿。察して頂けたという事ですよね。
「ならば命を与えよう、。
───マミを守れ」
『キュ!!』
御意にございます、我が主。
生命に代えてもマミを・・・貴方様の大切な御方をお守りいたします。
「え、兄ちゃん???」
不思議がるマミの声。だけれども主は先にカマドをくぐって外へと出られた。
マミを連れて行く事は出来ないから。余りにも危険な旅路だから・・・・。
でも大丈夫だよ、マミ。貴女はあたしが絶対に守るの。主から命をいただいたの。
「、如何して・・・?」
足元に擦り寄ってそのまま歯を立てる。ぷつり、少しだけ血が出る。ごめんなさい。
体液を摂取しないとヒトに変わるのは無理。主は繋がっているから大丈夫なのにな。
ごくり。嚥下すると身体があたしとは違う者に変化して行くのが分かる。
あたしみたいな“アタシ”の分身が唯一出来る事───変化。だから、きっとマミになってる筈。
「あ・・・ぁ。え、と・・?」
「うん。そうだよ」
同じ目線。通じる言葉。不思議。でもちょっと嬉しい。
戸惑う視線。仕方ないよね、急に獣が自分になったんだもの。
怖いって思うかな?キモチワルイって思うかな?でも、あたしは笑う。
「本当はね、村を考えなければ追い払う事も出来るの。主にはその力があるの。
でもマミはこれからもこの村で生きて行くでしょう?だから村を壊したくない。
壊さないようにする為に、あたしがマミになって代わりになるの」
「そ・・・んな。そんなの・・・っ!!」
「マミ、大丈夫。だからその間は貴女も身を隠していて。
あたしはマミを守りたい。マミが主を助けてくれたように、主を守ってくれたように・・・あたしも!だから・・ね?」
戸惑うマミ。ぎゅうって思い切り抱きしめて・・あぁ、ヒトの形ならこういう事も出来るんだよね。
ねぇマミ、泣かないで。これが最期のお別れじゃないと思うから。大丈夫だから。
「数日は身を潜めていた方が良いと思う。決して見つからないように。
出来そうなら他の人達にも協力してもらって、そうしたら何とかなると思う」
「・・・・・したら。これ、持ってってけろ」
ちりん。鈴の音。マミのずっとつけてた髪飾り。
それをあたしに渡してくれたから髪にくくった。同じ顔だから不思議な感じ。
「お守りだ。どうかも無事に・・」
「うん。ありがとう、マミ!」
額をつけて一緒に笑う。それから扉を押さえる役を交代。
マミは何度も何度もあたしの方を見て、そうして漸く気配が遠のいて行った。
「でも・・・本当に良かったな。カマドが壊れてて・・・」
主が逃げることが出来た。マミを助ける事が出来た。
最初は煙がもくもく出てビックリしたけど。本当につい最近の幸せな出来事。
主もマミも笑ってて。あたしだって楽しくて。日々は穏やかで優しかった。
全部終わっちゃった。それはとても残念で、悲しくて───
扉を叩く音が一層大きくなる。五月蝿い音。聞いていて苛立ちを覚えるような音。
押さえる手を緩める。と、思い切り扉が開いた。眼前には兵士。
「──ッ!?」
「中には誰もいません、この女だけです・・!!」
思い切り手を引っ張られて外へ放り出された。ざりざり。砂が皮膚を擦って痛い。
アイツがあたしを見た。バレたかな・・?分からないけど顔を伏せて押し黙る。
「うむ。フォウルを匿っていた・・・・共に住んでいたのか?」
無言。ただ手を握り締めた。
ばれる訳には行かない。マミの行動を全部把握した訳じゃない。
あの喋り方も全部は無理。そっくりには出来ない。だから喋らない。
アイツはじっと言葉を待っていたみたい。でも今度は兵士に視線を移す。
「アスタナのユンナに連絡を」
「はっ」
ユンナ?どこかで聞いた名前。
あたしじゃなくてアタシが聞いた名前。なんだったっけ・・・?
「呪砲が、使えるかもしれん・・・」
じゅほう?わからないけど不穏な響き。
何?如何するつもりなんだろう。アイツ等はマミに一体何をするつもり??