鳥篭の夢

第三章/獣‐壱



「───・・・ァッ!!!?」

熱い。いたい。熱い。苦しい。
火で熱した棒を当てられた所が熱い。肉の焦げる音とニオイ。頭がおかしくなっちゃいそう。
嫌だ。やめて。どうしてこんな事をするの?ヒトがヒトにこんな事を・・?どうして??

今のあたしはヒトの・・マミの姿をしてる筈。なのに、ヒトにこんな事をするの?ヒトが・・?
マスクを被ったヒト。何を考えているのか表情は分からない。
無言で締め上げた腕を掴む。“マミ”の爪を剥いだ。細い針みたいなものを爪と指の間に差し込む。
痛い。パキリ、音を立てて爪が割れた。
いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いやだ。いやだ。怖い。怖い。怖い。
ただ得体のしれない恐怖。呼吸音がやけに響いて聞こえる。
悲鳴が口から漏れて、出来るだけ抑えたかったのに出来なくて。悔しい。叫び声をあげるなんて。


「もっと恐怖に怯えなさい。痛みに叫びなさい。・・・それがニエの役割なんですから」

指示をするヒトの声。冷淡な声。

「や、今回は神に向けて放つ呪砲です。通常よりも丹念に下準備をしなければ。
じっくりと苦痛を与えてニエの負の感情を増幅させるのです」

目の前のヒトが頷く。それから棍棒をあたしの背に強く叩き付けた。一瞬、呼吸が止まる。
負の感情・・・それは、痛がったら主が?苦しがったら主が?いや!そんなの嫌っ!!
主、主・・あたし、主が傷付くのは嫌です!!耐えなくちゃ。絶対“痛い”って思っちゃダメ。
痛がったら主が傷付く。嫌だ。そんなの嫌だ。あたしは主を守る存在なのに・・・・ッ!

爪が全部割れて剥がされた。“マミ”が急に痛がらなくなったからかな?ヒトがもう一度火の棒を持ってくる。
いっぱい火で熱くした棒。本能がニゲロと告げる。逃げれない。体力も残ってない。


───ジュゥ....!!

「・・・っ!?」

嫌なニオイ。熱い。熱い。でも痛がらない。痛くない。へーき。だいじょうぶ。
痛がらなくなったからヒトが別の道具を持ってきた。大きなナイフ。それが“マミ”の皮膚を・・・・


「・・・っ!!」


いたくない。


「・・・・ッッ!??」


いたくなんてない。


「・・・・ッ!?」


いたがったらダメ。


「・・・・・・ッ」


“いたい”なんておもわない。


「・・・・・っ」


くるしいのだってない。


「・・・・・」


こわくもない。


「・・・・・」


あたしはなに感じない。主をまもる為なら全部平気。恐れる事なんてなんにも無い。
主、主・・どうか不安に思わないでください。どうか何事も思わず都を目指して下さい。
あたしは貴方様の命を・・“マミを護る”事を必ず全うして見せます。
だから・・だから・・・本人じゃない。だけど大切なマミと同じカタチをした身体が傷付くのを、どうか赦して───

「・・・ッ!!」

もう無事な部分がほとんど無い。
足の皮膚がそぎ落とされた。赤い肉が見えた。血が流れた。骨が折られて白が突き出る。
眼球に針を刺された。迫って来る先端がずっと見えた。視界がおかしくなった。それからその眼球を抉られた。
変な音。急に片方の目が何も見えなくなった。反対側の目だけ。ヒトが“マミ”の茶色い瞳をした眼球を持ってる。捨てた。
もう反対側には何もしない。“見えるキョウフもヒツヨウ”とヒトが言った。変なの。あたしは怖くないのに。
後ろに縛っていた腕を上に釣り上げて行く。肩がミシミシって音を立てていた。バキッて音。動かなくなった。
手を離されたけど、足が両方無いから立てなくて落ちた。ビチャリ。赤い水溜りの上に落ちた。マミの流した血。沢山流れてしまった血。
腕が動かないから起き上がれない。ヒトが“マミ”の頭部を踏みつける。ゴロン。仰向け。
長い長い剣。“刀”と呼ばれているモノ。腹に振り下ろされた。中身が・・臓腑がだらしなく飛び出した。目の前が霞む。
“死”が近い。“あたし”が死んでしまう。

いたくない。いたくない。いたくない。いたくない。いたくない。いたくない。いたくなんてない・・・ッッ!!
でも・・でも、あるじ。たすけてください!あたし、もういやです!これ、もういやです!!もういや、もういや、もういや!!!
くるしくない。いたくない。こわくない。でも、もういや。もういや。あるじ。あるじ。あるじ。あるじ。あるじ。
おねがいです。あるじ。たすけてください。あるじ。たすけて。たすけて。ココからにげさせて・・・!!

身体が動かない。呼吸が、上手く出来ない。
シャランってスズの音。ずっとしてたのにやっと聞こえた。


“ヤ、モウジキシヌデショウネ”

こえが聞こえる。

“ジュホウヲツカウナラ、イマデスネ”


やめて。やめて。やめて。やめて。やめて。やめて。主に向けて飛ばさないで。主をきずつけないで。そんな事しないで。
あたしが主を傷つける。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。そんなのいやだ。あるじをきずつけるのはいや。あるじ。あるじ・・。
カラダがオカシクなりそう。このまま“のろい”になる?やめて。やめて。いや。だめ。そんなことしないで。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。おねがいだから、そんなコトしないで。おねがいだからヤメテ。おねがい。おねがい。
にげてください、あるじ。いますぐそのバショをハナレテください。おねがいです。おねがいです。にげて。にげて。にげて。

そうじゃないと・・・あたし・・・・・・・───


アタマにアッパクカン。ソレがつよくなってギリギリ。ぎりぎり。





あ  ぁ     ヤ  メ  テ

   い   た    ぃ



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