きおくのかけら/1
「・・・ぇ。そうしたらにはフォウルさんと出会う前の記憶は無いんですか?」
「うん、そうだよ」
そんなに驚く事かな?考えてみるけど、良く分かんないや。
あれから・・・世界を見て回る旅も一段落。だから一旦小休憩って事でアタシ達は今はウインディアにいる。
だってほら、皆にもマミにも会えて、皆元気だって事も知れて嬉しかったし。
あ、でも今回はマミ来れなかったんだよね。畑は離れられないからって。それが残念。
それで旅してた時の話とかしてた筈なのに気付いたら昔話になってた。アタシとフォウルが会った頃の話。
「まさか、帝国がそんなにも昔から人をニエとしていたとはな」
唸るみたいなクレイの言葉。でもその頃はまだ帝国じゃなかったんだけど。
まだ統一されてない小さな国のひとつ。フォウル以外は如何でも良かった頃。
今じゃ考えらんないよね。今は皆大切だもん。ニーナ達もマミも、サイアスも大切。
考えながら目の前のパンを千切って頬張る。あー、ふわふわで美味しいっ!
「あ、。ジャムやバターを塗っても美味しい・・・って、そうじゃないですよ!」
んぇ、違うの?あ、でもコレも美味しい!ジャムって初めて食べたかも。
果物が甘く煮潰してあってパンと一緒に食べると幸せ。これ、アタシ好き。
「ニエにされて、記憶まで消されてしまうなんて・・・そんなの酷すぎます。
如何にか思い出す方法とか無いんでしょうか?」
「んー・・まぁ、アタシは別に思い出せなくても気にしないけど」
やっぱり興味ないんだよね、フォウルに会う前の記憶って。
変?分かんないけどさ。
「、自分の事なんですよ?
もう少し“思い出したい!”とか、慌てたりとか・・・しないですか?」
うーん・・・・・・無い、かなぁ。
ニーナがすっごく心配してくれてるのは分かるんだけどさ。
「は元より周囲はおろか己への興味関心すら薄かったのだ。仕方あるまい。
出会った当初は自身の名前すら記憶していなかった程だ、自力となると絶望的だろうな」
「・・・・フォウル、今バカにしたでしょ」
しかも割と直接的に。むぅ、ずっと一緒にいた友達に対して酷いって思わない?ねぇ。
“さあな”なんて軽く流すけど・・んでも仕方ないか。
本当に何も覚えてなかったんだし。思い出したいなんて考えた事もなかったし。
「それに一応ずっと昔の事なんだから、思い出しても今更じゃないかなぁ?」
「そうだとしても忘れてしまったままよりずっと良いと思うんです」
悲しそうなニーナの顔。アタシの事、心配してくれてるって分かる顔。
「ニーナ。にその気が無いんだ。無理強いするものじゃない」
「でも、兄さま・・・」
そんな顔、させたくないな。ニーナの事が大切だから。笑ってて欲しいから。
思い出したら、そんな顔させなくて良いのかな?
「どちらにせよ、リュウ達がヒトになっても記憶が戻らない時点で記憶自体が消されてる可能性があるようです。
だからは思い出せないんじゃないかとディース様が言ってますよ」
「打つ手なし、という事か?」
「そんな・・・」
マスターの言葉にアースラが半眼になって、更にニーナがもっと落ち込んだ。
震える声で呟いて、俯いちゃって・・・。
アタシは別に思い出せなくたって如何でも良いんだけど、ニーナが泣いちゃうのは嫌。それは本当の想い。
「良いよ」
「え?」
急なアタシの言葉にニーナは不思議そうに首を傾げた。
「何か思い出せる方法、探そうよ。
ねぇ、ディース。本当に何も方法が無いの?」
「ふふふー。無い事は無いって言ってますね」
えっと、それってつまりどっち?あるの?無いの?
考えてたらマスターが何度か首を横に振る。
「心の中に入ってみれば手掛かり位は見つかるだろう。だ、そうですよ」
「心の中・・・ですか」
ニーナの言葉にマスターが頷いた。
「ディース様の封印を解いた時のようにすれば良いのですね。
中に入るだけならディース様にも同じ事が出来るようです。うふふ、うふふふふー」
「成る程な」
「そうしたらの事、何か分かるかもしれないですね!ね、」
嬉しそうなニーナの顔。それがアタシも嬉しくて、だから大きく頷いた。