きおくのかけら/2
「心の準備は良いですかね?」
眠りについたを前に、マスターさんが問う。それに私達は全員で頷いた。
誰の言葉も無いのは緊張しているのだと思う。やっぱり、心の中に入るのだから。
だけどそれにマスターさんは常と変わらぬ様に笑った。
「では、目を瞑ってに触れると良いそうですよ」
言われるがままにに触れて目を瞑る。
と、途端に眩い閃光が閉じた瞼の上からも分かるほど部屋に充満して───
『もう目を開けても大丈夫のようですね』
再度マスターさんの声。
「此処が・・・の心の中?」
広がる世界。それにリュウは唖然と言葉を落とした。
それはきっと召喚の儀が行われたというあの場所とほぼ同じ作りだったから。
「記憶の始まり、と言うことか──?」
フォウルさんの言葉に、あぁと私も漸く納得した。そうなのかもしれない。
これがの始まり。それから続く道を見据える。
「この先に行けば、何か分かるんでしょうか?」
「多分、そうなんだと思う」
「どちらにせよ今は先に進むしかないだろう」
ボロボロの道。進む程に荒廃していく世界。寂しい場所。
その先にある巨大な光に皆は足を止めた。
ディースさんの封印に近いけれど、よく見れば中が透けて見える。
見覚えのある髪は常よりも長く、茶になっても普段は輝いてすら見える瞳は虚ろ。
ただ、その場にうずくまるだけの姿に心臓がドキリとした。
「・・・?」
自分でも驚く程頼りなげな声で名前を呼べば、一度目線だけを寄越す。でもそれはすぐ逸らされてしまった。
名前に反応したという事は本人なのだろうけど、常とは余りに違う姿に私を含む皆が口を噤んだ。
──来ちゃったんだね
聞こえた声は頭に響くもの。
──どうして?そんな事する必要なんて無かったのに・・・
「貴女は・・・、なんですよね?」
確認する言葉には頷く。
──だけど貴方達の知ってる方じゃない。アタシはアタシに残った切れ端
自ら犠牲を望み、己を掻き消し、僅かに残った塵すら押し込めた
思い出す必要の無い記憶。遠い記憶。自分である為にあってはならない記憶・・・それが、アタシ
ハッキリと告げる言葉。
──アタシは皆の知るである為にいてはいけないモノ
それがたとえ、取るに足らない滓だとしても
静かに紡がれた言葉は、なのに酷く響いて聞こえる。
普段のからは想像出来ない淡々と、何の感情の起伏もない声音。それが酷く怖かった。
──だけど、アタシはアタシを見つけてしまった
もう後戻りは出来ない・・・今更、後悔したって遅い
不穏な響き。ドキドキと心臓が強く鳴り響く。私の所為で、もしかしたらが?
考えただけで怖くなって・・・・・ポン、と肩が叩かれてビクリと体が跳ねた。
見ればサイアスさんがこちらをじっと見つめている。 それから首を横に振った。
「ニーナ・・・が、気に病む事・・じゃ、ない」
それが彼なりの精一杯の励ましだと分かる。
「そうだよ、ニーナ。は自分で決めた。
自分を知る為に決意して行動したんだ」
リュウの言葉にフォウルさんも頷く。
「そういう事だ、ニーナ。
それに、アイツがあそこの奴を見つけてどうにかなる訳じゃないだろ」
「兄さま・・・」
そうかもしれない。だけど、どんな言葉を聞いても不安は拭いきれない。
──信じるならそれも構わない。アタシ自身もどうなるかなんて分からないし
それに貴方達が何をどう思おうと現実は変わらないから・・・
ゆらり。まるで存在自体が危ういかのようにの姿が揺らぐ。
──あぁ、もう時間だね
アタシとアタシがどうなるか、貴方達は向こうで待ってて
ふと、口元を歪めて作られた笑み。それがどこか悲しげだったのは気の所為だろうか?
ただ確かめる前に光が空間に充満し、私達は元の部屋へ戻されていた。
「・・・・・」
未だ眠ったままのに不安を抱く。
“どうか、どうか変わってしまわないで”
それが身勝手な願いだと分かっていて、全てを招いたのは自分と知っていて。
なのに私は、それでも両手を組み強く願った。