鳥篭の夢

縁を手繰る先/7



「じゃあ行ってくるわね」
「はい。気を付けてくださいね、ティナ」

封魔壁近くにある封魔壁監視所と呼ばれる関所。
その前に飛空艇を停めた私達はティナ達のお見送りをしていました。
帝国の施設を抜けると言う事で、気配を読むのに長けているロック。
そして戦闘力の高いマッシュとカイエンさんがメンバーに選ばれ・・・悲しいですが、やはりと言いますか私はお留守番です。

。ガウの事、頼むな」
「勿論、お任せください」
「ガウだいじょーぶだぞ!、まもる!」
「うむ。頼んだでござるよ、ガウ殿」

“気を付けて行ってきてください”とお声掛けして私達は後ろ姿を見送りました。
さて。では今の内に出来る事をしてしまいますか!

「良いですか?ガウ。
私達はお留守番ですから一緒に良い子にしてましょうね」
「ガウできる!いいこするぞ!!」
「了解です。ではまずお掃除をしてしまいましょう」
「ガウ!おそーじ!」

元気一杯のお返事に、私は笑顔を向けました。

「・・・頼むから壊すなよ?」

それは勿論。なのでセッツァーさんはそんな不安げなお顔をされなくて大丈夫ですからね?
ガウは良い子ですから事前に触れてはいけないもの等をお伝えすれば悪さはしませんし、難しい事はさせませんから。
上の照明にはたきをかけて、棚や窓枠を雑巾で拭いて。
調度品は扱いが難しいものは敢えて避けて、床までお掃除してしまいます。
飛空艇そのものは広いですが、共有スペースだけという事とガウが凄く頑張ってくださったからあっという間ですね。

「さて。そろそろ寝かせておいた生地も丁度良い頃合いでしょうか。
ガウ、お片付けをして別のお手伝いをお願いして良いですか?」
「ガウ!がんばる!」

と言う事で、本日のおやつは小さい子でも安心して成形できるクッキーにしてみました。
身体中の埃を払って手洗いを済ませてから、手拭いを頭に巻いてエプロンを身につけ。
手に生地が付かないように小麦粉を薄く付けて成形します。
私はナイフでざくざく切り分けちゃう方が好きですが。まぁそれはそれとして。

「・・・仲良し親子か?お前らは」
「あ。セッツァーさんもご一緒に如何ですか?」
「セッツァー、つくるか?こねこね、こねこね、たのしいぞ」
「いや、俺は遠慮しとくわ。出来たら呼んでくれ」
「ガウ!」

なんて軽く手を振るセッツァーさんを見送って、私達はクッキー作りを進めます。
成形した生地を余熱したオーブンへ入れれば、気になるのかガウはオーブンの前を陣取りました。
熱くなりますよ?そしてすぐは焼けませんからね?
そう言ってもテコでも動きませんから・・・まぁ、楽しみにしてくださっているのは嬉しいですが。
私はキッチンの後片付けとお茶の準備をしながら合間にガウを見守るのでした。


「できた!できたか?!さわる、いいか?
ぅぅ~、いいにおいするっ!はらへった!」
「皆さんで食べましょうね」

さて。出来上がったと同時に飛びかかりそうなガウを何とか止めて、粗熱をとるところまで出来ましたが・・。
うん、見た目はなかなか上出来ではないでしょうか。
美味しそうな焼き色に、甘い香りがキッチンに漂います。

「ガウ、お口を開けてください」
「がう?」

軽く触って冷めているのを確認して、その1つをガウの口へと放りました。

「頑張ってお手伝いしていただいたご褒美ですよ」
「ごほーび!うまい!」

ふにゃりと緩んだ笑顔はとても愛らしくて、私も思わず笑みで返します。
さぁ。お茶の準備をしてしまいましょうか。
セッツァーさんとモグさんにお声掛けして、さてエドガーさんも・・・と思った丁度その時。

「おや、良い匂いがするね」
「丁度良かった。今お声掛けしようと思ってたんです」
「小休憩しようと思ったが良いタイミングだったようだな」

もう、ベストタイミングです!
・・と。机に置かれたクッキーを1つ摘まんで、エドガーさんは不思議そうに首を傾げます。

「今日はガウと一緒に作ったんですよ」
「ほほう。なかなか独創的な形があるのはそれでか」

しみじみとクッキーを眺めながら、何度か頷きました。
セッツァーさんも椅子に座るとおもむろにクッキーを口に運びます。

「つーか。形はともかく美味いな、これ」
「ああ。流石だな」
「ガウっ!セッツァー、エドガー、うまいか?
おいらも、おいらもたべるー!」
「慌てないでくださいよ、ガウ」

沢山ありますからね。・・とは言いつつも結局7割はガウのお腹の中に入りましたが。
まるでクッキーがお口の中に吸い込まれていくような勢いで無くなっていくものですから。
きっと自分で作ったクッキーはより一層美味しく感じられたと言うことなのでしょう。
ペロリとお口の周りを舐めると、ガウは側にいたモグさんへと顔を向けました。

「モグ、いっしょあそぶ!」
「クポー!ま、待つクポ!!」

手を引っ張ってドタバタと遊びにいってしまいました。
流石、ガウですね。元気が有り余ってらっしゃいます。

「なあ、
ついさっき掃除したとこがまた汚れてるが・・・良いのか?」
「え?良いと思いますよ。沢山お手伝いしていただきましたし遊ぶ時間も必要でしょう。
床はまた後で箒をかければ良いだけですから」
「つくづく良い女だなぁ、は」
「あら、お手伝いさん的な意味でですか?」
「嫁に欲しいって意味でだよ」

それはどうもありがとうございます。
しかし・・・・・・。

「うちの妹に手を出さないで欲しいのだが?」

そんなに笑顔で牽制しなくても良いと思いますよ?エドガーさん。
どう聞いても冗談じゃないですか。


────・・・ゴゴゴゴ


地響き?和やかな空間が一気に緊張感に包まれます。
ぐ。と圧迫感が強まって、思わず眉を顰めて拳を握りしめました。

「封魔壁が開いたのでしょうか?」

純然たる魔導の力。
それは確かに、幻獣の持ち得るものですから。

「ティナがやってくれたか!」

薬を飲みつつ窓から外を眺めて────・・・・?

「でも、様子が変じゃないですか?」
「どういう事だ?」
「幻獣達が何処かへ・・・。
何処に行こうとしてるんでしょうか?」

凄い勢いで飛び立って行く姿。
一直線に何処かに向かっているようですが。

「あっちは・・・・・・ベクタのある方か?!」
「帝国の奴等も方々に逃げ出してるって感じだな」
「何だか嫌な感じがしますね」
「そうだな。あいつらちょっと迎えに行って・・・・・・」

「ごめんなさいっ!すぐに飛空艇を出して!!」

扉が開いたと同時に、まるで悲鳴のようなティナの声。

「良かった、丁度迎えに行こうかと思ってた所だ。
だが一体何が起こったんだ?
幻獣が群れをなして飛んでいったと思えば、帝国の奴等も蜘蛛の子を散らしたように逃げていったぞ」
「幻獣達が封魔壁から飛び出して・・・追いかけられるかしら?」
「よし、任せろ」

ティナの不安そうな顔に、セッツァーさんは一度ウインクして見せてから甲板に上がります。
急発進。視界の端で、遊んでいたモグさんとガウが転がりました。
私は・・・まぁ出ない方が良いでしょうかね?少しでも隔たりがあるに越した事はありませんし。

「ガウのお守りお疲れさん」
「ふふ、とても良い子でしたよ。
沢山お手伝いもしてくださいましたし」
「左様でござったか」
「ガウが手伝い・・・・・・?」

イメージが湧かないのでしょうか?
腕を組んで首を捻るマッシュに、私はくすくすと笑います。

「それで、何があったんですか?」
「帝国の奴等が待ち伏せてやがった。
封魔壁自体はティナが開けてくれたんだが、凄い数の幻獣が飛び出して行っちまった」
「ティナ殿の言葉に耳を傾けられた様子でもなかったでござるな」
「そうだったんですね・・・・」

ティナの声に応えた訳ではない?ならどうして幻獣達は扉を・・・・?
考えていれば先程よりも強い圧迫感と同時に大きく船体が揺れました。
窓の外を横切っていく影は・・・・・こ、れは・・・?幻獣達・・・??
ふらふらと窓へと近付こうとすれば、強くマッシュに手を引かれます。

「何やってんだ、危ないだろ!」
殿は幻獣達から出来うる限り離れなされ。
とはいえ・・・斯様な状況下では逃げようもないでござるが」
「つーか、飛空艇が傾いてないか?」
「・・・・・・ふむ?」

だくだくと冷や汗が出てますけれど、カイエンさん。
でも確かにさっきから傾いているというか、ガタガタ振動しながら高度が下がってきていますね。

「それは所謂、墜落というやつでござろうか」
「まぁ可能性はあるが・・・・」
「ゥゥゥ、へんなかんじ!なんだ?なんだ??!」
「クポー!どうなってるクポ!?」
「大丈夫ですよ、ガウ、モグさん。
危ないですから皆で一緒にいましょうね」

言葉に、ガウとモグさんが私にぎゅーっと抱きついてきてくださいます。
あぁ、モグさんのふかふかに癒され・・・てる場合じゃないですね。
魔導の力の影響が大きくて、視界がぐるぐるしてきましたが・・まだ、大丈夫。
このまま墜落させる訳にはいきません。
入ってくる魔導の力が大きいならば、此方もそれだけ力を込めて魔法が使えるという事ですし。
なかなかの賭けになりますが、少し気合いをいれてやってみますか!

?」
「全力でいきますが・・・・駄目だったらごめんなさい」

精神集中。少しでも効果を上げようと一言一句間違える事無く詠唱を紡いで、今自分に出せる最大の魔力を練りあげます。
一瞬だけでも良いです。墜落するその瞬間だけで────っ!!

「レビテト!」

衝撃と轟音。地面に機体が着くだろうその瞬間。
私は“飛空艇”に、レビテトをかけました。
・・・・・・かけられましたよね?



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