鳥篭の夢

求める縁は真か偽か/2



「お。いたいた」
「ロック。もう起きても平気ですか?」
「おう。助かった」

片付けが終わった頃合いに、ロックがのそりとキッチンに姿を見せます。
ああ、顔色も大分良くなってますね。これなら一安心です。
冷やしていた果実水をグラスに注いでロックに渡せば、ぐいと一息で飲みきりました。

「あー・・あんなに回って揺れると思わなかった。
良く無事だったよなぁ・・・俺達」
「本当ですね」
「とか言って、が何かしたんだろ?
何かあの時ティナに怒られてたし」

どこか意地悪な顔でロックが私を見ます。
分かってて言ってましたね?

「やだ、聞こえてたんじゃないですか」
「ティナがあんなに声を荒げるなんて初めて聞いたからな」
「確かに・・・」

あんなに怒られるとは思いませんでした。

「で。結局、何したんだ?」
「魔法で飛空艇を浮かせようとしたんですよ。
でも残念ながら一瞬しか掛からなかったみたいです」
「ああ、あのふわっとしたアレか。
・・・・・それって、どれだけ力を使うんだ?」

恐る恐るといった様子でロックが訊ねますが・・・んん、そうですね。
ロックも魔法を使えるようになってますし、説明するとまたドン引かれちゃいますかね?

「黙秘します」
「・・・怖」

あれ?どちらにせよ引かれてません?私。

「でもおかげで飛空艇は無事だったって事か」
「どうでしょう?一瞬ですから案外無くても結果は同じだったかもしれません」
「自分の時はやたら謙遜するなぁ。
良いんじゃねぇか?おかげで助かったって俺は思っとくし」
「ありがとうございます。
他人に関してはポジティブになりますね?ロックは」

自分にはとんでもなくネガティブでしたが。

「うっせー」

ちょ・・ぐりぐり頭を圧迫するの止めてくださいよ。
でもまぁやっと何時ものロックみたいな笑顔ですから、甘んじて受け入れましょう。

「しかし・・・あれから結構経ってるだろ?
ベクタに行った奴らはどうしてんだろうな」
「そうですね。流石に心配・・・・・・あ、でもあの遠くに見えるのって皆さんじゃないですか?」
「お。マジだ」

何気なく眺めた窓の向こう側に複数人の影・・何だか遠目からも分かる疲労困憊な感じはありますが。
そんなに状況は酷かったのでしょうか?
ロックと顔を見合わせて私達は出入り口へと迎えに行きます。

「お帰りなさい、皆さん」
!ただいま。
ロックも、もう平気なの?」
「おう。一緒に行けなくてごめんな」
「ううん、皆がいてくれたから大丈夫よ」

にこりと微笑むティナはもう何時も通りに見えます。
・・・・・・流石にもう怒ってはないですよね?
騒がしくなったからか他の皆さんもロビーへと集まってきます。

「すまない。遅くなった」
「いえ、ご無事で何よりです」
「ロックも復活したみたいだな」
「もっちろん!当然だろ」
「で、ベクタはどうなってたんだ?」

本題を切り出すマッシュに、エドガーさんは真面目な表情になると1つ頷きました。
ベクタは酷い有り様だったそうです。
建物は崩れ落ち、兵士は勿論、逃げ遅れた罪の無い住人達までもが巻き込まれていたのだと。
その惨状と幻獣の力を目の当たりにした皇帝ガストラは、我々リターナーに和平を申し出ました。
そして急遽、会食を兼ねた和平会談が行われたのだそうです。

唐突な和平の申し入れ。だからカイエンさんだけはそんな複雑な表情をされていたんですね。
ガウも心配そうな表情になっていますし・・・。

「何か胡散臭い話だな」
「ええ。それにあまりにも急ですよね。
確かに幻獣を追うとなれば私達がベクタへ行く可能性はありますが・・・」

まるで見越したかのようなタイミング。
それに何故、こんなにも急いで会談を行う必要があったのでしょう?

「それは俺も考えた。バナンは既にベクタに着いていたが実際申し入れられたのは我々だったしな。
裏もありそうだから一度飛空艇まで戻ろうかとも考えたんだが生憎と時間がなくてね。
悪いが此方だけで参加させて貰った。それでなんだが────」

と、前置きしたエドガーさんは会食での内容をかい摘んで教えてくださいました。

帝国は今回の幻獣による首都襲撃によって多大なダメージを受け、和平を申し入れようと考えた事。
強すぎる幻獣の力は世界を滅ぼしかねないと恐れ、その怒りを何とか鎮めたいと考えているのだそうです。
とはいえ幻獣を捕らえて力を奪った張本人である帝国が話をしようとしても、幻獣達が聞き入れる可能性は低いでしょう。
だからこそ私達・・・いえ。ティナに頼みたい、と。なるほど?

「またティナ頼みですか・・・?」
「まあまあ。落ち着けって、
「電撃出てる出てる」

おっと、失礼しました。
それからセリスさんの裏切り疑惑に関しては、ケフカが場を混乱させる為に吐いた嘘であった事。
当のケフカはドマに毒を流した罪で牢獄に入れられ、終身刑となったそうです。
そうして最後に戦いの終わりを誓う事で和平の締結と戦争の終結となった・・・という事ですね。一応は。

「流石に彼方側の要求ばかり飲むのは癪だったからな。
サウスフィガロとドマからの帝国兵士の撤退。
後は武器や道具の物資支援、その他の今回の計画に関わる費用の負担程度は帝国に申し入れたが」

“その程度しか出来なかった”って・・・いえいえ、それでも助かります。
サウスフィガロやドマから帝国兵がいなくなるのは私としても嬉しいですし。
急だったのに凄いですね、エドガーさん。

「今後は帝国の所有する魔導アーマー運搬船で大三角島に向かう計画だ。
どうも船の規模と帝国側の人数の兼ね合いで此方もティナを含めて2~3人程度しか乗れないらしい」
「ティナが行くなら俺も行くぜ!」
「ロック・・・ありがとう」

いち早くロックが名乗りを上げ・・・・・・て、ちょっと待ってください?!
聞き捨てならない単語が出てきましたけれど。

「大三角島・・・ですか?」
「ああ。その方角へと幻獣達は飛び去ったそうだ」

よりにもよって・・・大三角島ですか。
土地柄もありますから、何か引き寄せるようなものがあったのかもしれませんが。
これは確実にサマサの村にご迷惑をかける、という事ですよね?んー。

、どうしたの?」
「・・・いえ。
ティナ。この計画、私もご一緒させてください」
「え?」

返した言葉に、ティナは何度か目を瞬かせます。

「どうしたんだ?急に」
「大三角島は私の生まれ故郷のある島ですから、何かしらお役に立てるかと思って」

「「「「はぁっ!?」」」」
「なんと!」
「がうー?」
「クポ?」

驚きと疑問の声が凄いですけれど。

「大三角島ってアレだろ?
前に俺も飛空艇で上から見た事があるが・・・小さな村がポツンとあるあの島だろ?」
「近くに大きな山もありますが、まぁそうですね」

セッツァーさんの仰る通りです。
そしてマッシュはそんなに心配な顔をされなくても大丈夫ですからね?

は良いのか?」
「良いか悪いか・・と聞かれると答えに窮してしまいますが。
どちらにせよ迷惑をかけるなら、私が関与した方が多少の手間は省けるでしょう」
「どう言うことだ?」

不思議そうな顔のエドガーさんに、私は1つ苦笑しました。

「あの村は閉鎖的なので外から来た方に対して少々厳しい面がありますから・・・。
見知った顔があるなら少しは対応も変わるかもしれません」
「成る程な。ではもメンバーに加わってもらうか」
「はい」

お引っ越しをしましたから私ももう余所者と言えばそうなりますけれど。
流石に元々身内であった人を内排するような方々ではありませんし。きっと大丈夫でしょう。

が行くなら俺も・・・」
「マッシュはエドガーさんをお願いしますね。
帝国に留まるならば今後何が起こるか分かりませんし」
「だが・・それでは・・・」

敵陣に自国の国王がいるなんて怖すぎませんか?
マッシュにとっては大切なお兄さんですし。それに・・・。

「マッシュが来ると幻獣探しが何日か遅くなります」

確実に。
眉根を寄せる私に、皆さんはキョトンと不思議そうな顔をされました。

「あの村の方々はハレの日・・・つまりお祝い事が大好きですから」

私が無事に成長して婚約者を連れ帰ってきたとあれば・・・。
こっちの事情は置いといてまずは即準備・即結婚式とかさせられかねません。
下手すると準備だけで数日かかりますし、一度始まってしまえば暫く宴会騒ぎが続いて幻獣探しどころではなくなるでしょう。
そう続ければ、マッシュは僅かに照れたように頬を掻きました。

「あー・・・成る程な?」
「どちらにせよ参加出来る人数も限られている。
を大切だと思う気持ちは分かるが、此処は堪えてくれよ?マッシュ」
「・・・・ああ。分かったよ、兄貴」
「それに話を聞く限り、アイツらどうもクサイ臭いがするからな。
出来る限り皆は帝国に残って欲しい」

ロックは真剣な声音でそう告げて・・・。
確かに、怪しいですよね。和平も。帝国そのものも。

「我らが帝国に残って監視するでござる」
「ガウもカンシするぞ!」
「頼んだぜ!」
「ああ。お前達も気を付けてな」

エドガーさんの言葉に私達も強く頷きました。



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