鳥篭の夢

噂の話と裁きの光



あの日、世界が引き裂かれてからほぼ1年と呼べる月日が経った。
あれから誰とも再会する事はなかったが、だからとやさぐれる暇は無かったな。
元々修行して鍛えてるってのもあるが。なんせ───。

『ったく、シケてんなー。此処もクッキー置いてないのかよ。
ちょっとの娯楽は大事だろ?必然だろ?もっと明るく生きていけよー』

なんてやたら文句を言う相棒がいるからな。

「仕方ないだろ?どこも物資が不足してるんだ。
復興も進んでないから甘味を作る程の余力は無いだろうし、ガストラもいるしな」

此処はアイツがいるって噂の瓦礫の塔が嫌でも目に入るからな。

『さっさとあのジジイぶっ潰さねぇと駄目かー。
後はお前がさっさとを見つけるかだな。
なら作れる。それにアイツのクッキーが一番美味いし』

上機嫌にふよふよと空を浮かぶのは良いが、あんま目立つなよ?
この間、変な光が町中を飛んでたって騒ぎになったばっかだしな。
・・確かにのクッキーは美味い。それは全面的に同意するが。

「そもそもの手掛かりすら見つからないからなぁ。
違う大陸にいるのかもしれないし、流石に少し足伸ばしてみるか」
『・・・・・・ま、そもそもお前らすれ違ってばっかだけどな』
「ん?何か言ったか?」

珍しくすげぇ小声だったが。

『んー?いや、さっさと見つけてくれよってこった。
期待してるぜ?』
「おお。ありがとな」

ニヤニヤと悪い笑顔なのがちょっと気になるんだが。
と言うか、がいないってのに案外コイツは平気そうな顔してるよな。
まぁ繋がってて命の危険云々は分かるって話らしいから、それでなんだろうが。

娯楽以外で食事の必要はないってんで、町中に姿を消したカーバンクルを余所に俺は昼食がてら近くの店に入る。
流石に俺は食わない訳にはいかないからな。
注文した料理を口に運びながら今後の事を考える。確か聞いた話だとニケアが繋がってるんだよな。
サウスフィガロへの定期船がないかどうか調べてみるか。
あっちもどうなってるか気になるしなぁ。兄貴がいるかもしんねぇし。

「それにしてもスゴかったよね」
「うん。あったかい光でふわーって・・・」
「丁度あの人が町にいてくれて良かったね。
この薬も調合してもらったんでしょ?」
「そうなの、お守り代わりにって。だから今は平気・・・。
でも・・・あの人、薬師さんなのに剣も使えて凄いよね。
男の人相手からでも助けてくれたし、熱心に話も聞いてくれたし・・このご時世に珍しいっていうか」
「分かる。目がきらきらしてて、前を向いてて・・・」

・・・・・・薬師?
不意に聞こえてきた言葉に、辺りを見渡す。

「格好も少し珍しかったよね。
髪の毛も綺麗なプラチナブロンドだったし・・・目の色も───」

「すまない。その話、詳しく聞かせてくれないか?」

プラチナブロンド。薬師。剣を使えて人助けをする。
・・・もしかしての事じゃないか!?
それは勿論ただの直感だったが・・・いや、直感で終わらせるには特徴が合致しすぎだ。
とにかく店の隅で会話をしていた女性2人組へと近付けば、その内の片方が怯えたように俺を見る。

「あ。ごめんなさい、この子・・ちょっと色々あって男性が駄目なの。
少し離れてくれる?」
「あ、ああ。悪い」

色々あった?
疑問は頭に落ちたが言われたままに後ろに下がる。確かにこんなに青ざめて震えてるもんな。
もう1人の女性が庇うように前に出たが、俺が素直に距離を取ったのを確認して一度息を吐いた。

「ええと、知りたいのは薬師さんの事?
とはいえ私達はあの人の名前も知らないけど」
「それでも良い。大切な人なんだ。
今ははぐれてしまっていて・・・少しでも情報を集めている」

2人は互いに顔を見合わせて、それから真剣な表情で俺を見る。

「貴方が探している人かは分からないけど・・・。
金と銀が混ざったみたいなプラチナブロンドに、不思議な青い目をした小柄な女性よ。
パッと見は分からないように白いローブを被ってて、薬だけじゃなくて不思議な力を使ってた」
「剣も使えて・・・それで、私を助けてくれたの。
金髪で肌の浅黒い男性と、赤と緑の派手な羽の鳥と一緒にいたわ。
あたたかい光?みたいなので傷を治してくれて、何かあったらって薬までくれて。
確か仲間を探してるって・・・・・・貴方の事だったのかしら?」

髪はともかく、青い目・・・・・・は、色が染まったのか。
カーバンクルが繋げなきゃ死んでいたってやつかもしれねぇな。
薬師で不思議な力となれば十中八九だろう。
金髪・・・・・・浅黒い肌なら兄貴じゃねえな。誰だ?・・・・・・レオ将軍、か?
後、鳥もよく分かんねぇ。新しく知り合いが増えた可能性もあるが・・・。

「ああ・・・多分、俺の探してる奴だ。
すまないが、どこに行くとか聞いてないか?」
「さあ?でも何日か前に町を出るって行っちゃったよね」
「うん。あちこち見て回るみたいに言ってた。
あ、でもアルブルグから来たって言ってたからそっちには行かないと思う」
「そっか。ありがとな、助かった。
時間を潰して悪かった。これで少し足しにしてくれ」

少しばかりのチップを机に置けば、慌てたように女性の1人が立ち上がる。

「ちょっ。こんな、貰えないっ!」
「良いんだよ。俺の事怖いのに話に付き合ってくれたろ?
ま、情報料ってやつだからさ。あんま手持ち無くて悪いけどな」

カラカラ笑えば、漸く納得したと女性はそれを受け取った。
じゃあな。と、軽く手を振って席を離れて・・・・・・やっと見つけたぜ、の手掛かり!
店を出てさっさとカーバンクルと合流するかと歩き出したと同時に、唐突な眩い閃光。
───くそ、ガストラの野郎かっ!?

漸く慣れてきた目に飛び込んだのは、ガストラの攻撃によって今にも崩れそうな屋敷。
その近くで今にも潰れそうになっている人の姿だった。
無意識に強く踏み込んで走りだし、倒壊しそうな屋敷の間に身体を捩じ込んで屋根を支える。
くっ・・流石に結構キッツイな・・こりゃ。

「あ、ありがとうございま・・・・・・ぇ、あれ?」

何かに気付いたと、女性は慌てて辺りを見渡す。どうした?

「あ、やだ!あの子、まだ家の中に・・・っ!!?
誰か!誰か助けてっ!!子供が家の中にいるのっ!!」

叫ぶ声。子供か・・・・・・っ!!
くそ、俺が動く訳にはいかねぇし。どうすれば・・っ

『おー。良い見世物だな』
「確かに凄い見物客だが・・・暢気だなぁ」

そんな平然とされると気が抜けそうになっちまうんだが。

「なぁ・・カーバンクル。悪いが、手伝ってくれないか?
家の中に子供がいるみたいなんだが、ちょっと行って助けて欲しい」
『あ?そりゃ構わないが、俺が行っても助けらんねーかもしんねえぜ』
「だからって、このまま何もしなきゃマジで子供が死んじまうだろ?
・・・・・・頼む、カーバンクル。
流石に俺が退く訳にはいかないし・・・そこまで長くはもたねぇ・・・っ」
『へーへー。ま、やるだけやってやるよ。
流石に親友の旦那を見殺しにする訳にゃいかねーしなー』

なんて肩を竦めながら軽い調子でカーバンクルは姿を消した。
多分、行ってくれたんだよな?掴み所が無くて分かりにくいが・・・大丈夫か?
ミシリ。支える屋根が軋む音にゾッとする。早く何とかしねぇと。


「・・・マッシュ?」

呆気にとられるような声。
目の前にいたのは・・・・・驚いたようなセリスの姿だった。

「おっ・・・セリス!久しぶりだな」
「久しぶり・・・って、そんな事言ってる場合じゃないでしょう!?
それより今助ける!」
「待てっ!!俺が動けば・・・家が崩れ落ちる。
まず、中にいる子供を助け出してくれ・・・。
アイツにも頼んだが・・・何か怪しいからなぁ。
それに、俺もあまりもちそうにない・・・早めに頼むぜ・・・くっ・・・」
「アイツ??よく分からないけど、子供を助けるのよね。分かった!
マッシュはそのまま気合い入れて支えてなさいよ!」

言いながらも、セリスは躊躇い無く家屋へと飛び込んでいく。
よっし。そしたらもうひと踏ん張り、やってやるか・・・・・・っ!!!



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