変わらぬ貴方と変な生物
あの日。目が覚めた私は荒廃した世界に絶望した。
世界が引き裂かれた日から1年もの月日が経ったのだとおじいちゃん・・・シドから聞かされて、小さな孤島には2人きり。
周りは海しかなくて、それが全てだと思った。
だけどまだおじいちゃんがいるなら・・・1人じゃないから何とかなると信じてた。
なのに・・・きっと目覚めない私の介抱をしてたからだわ。
身体を壊して、寝込んでしまったおじいちゃんは・・・そのまま・・・・・・。
もう、駄目だと思ったの。
エドガーも、マッシュも、ティナもセッツァーも、も──────ロックも。
皆、きっとあの時に巻き込まれて死んでしまったんだと思っていたの。
私はあの孤島で独りきりで・・・・・・耐えられなかった。
おしまいだと思って、崖から身を投げて・・・・・・なのに、結局生き残って。
ねぇ、ロック。
貴方がきっと手当てしたんだと思う、バンダナを巻いた鳥がいたのよ。
もうその傷は治ってて。私がバンダナを外した途端に何処かへ飛んでいってしまったけど。
きっと生きてるって・・・それで私、立ち上がれたの。
この世界でも未来を生きれるって・・────。
「此処がツェンなのかしら?」
あれから、おじいちゃんが作ってくれていた筏で私は近くの大陸へと流れ着いた。
もっと早く分かってたら一緒に・・・なんて、今更だけれど。
とにかく、町の面影はあるけれど、あまりに酷い惨状に眉根が寄った。
アルブルグもそうだったけれど1年経った今でも復興は進まない。
話によれば、不穏な動きや反抗的な素振りが少しでもガストラ皇帝に察知されると、裁きの光が降り注いで消し飛ばされる。
反抗なんてしようとすら思わない。なんて・・・。
此処もきっとそうなのよね。早くこの状況を何とか・・・・・・?
「・・・・・・きゃっ!!?」
強い光。閃光に目が眩んで、震動を思わずしゃがみこんでやり過ごす。
人々のざわめく声。混ざって“誰か子供を助けて!”とまるで悲痛な悲鳴が響いた。
状況は飲み込めないけれど助けなければと慌てて近付けば、今にも崩れ落ちそうな屋敷の屋根を支える巨体が視界に入って・・・・・・えぇと。
「・・・マッシュ?」
よね?マッシュだわ。どう見ても。
目の前の人は屋根を支えながらも私に気付くと笑顔を見せる。
「おっ・・・セリス!久しぶりだな」
「久しぶり・・・って、そんな事言ってる場合じゃないでしょう!?
それより今助ける!」
急がないとマッシュが屋根の下敷きになってしまう。
と、慌てて近づく私に、マッシュの鋭い目線が向いた。
「待てっ!!俺が動けば・・・家が崩れ落ちる。
まず、中にいる子供を助け出してくれ・・・。
アイツにも頼んだが・・・何か怪しいからなぁ。
それに、俺もあまりもちそうにない・・・早めに頼むぜ・・・くっ・・・」
「アイツ??よく分からないけど、子供を助けるのよね。分かった!
マッシュはそのまま気合い入れて支えてなさいよ!」
とにかく時間がないのが分かって、飛び込むように屋敷の中へ駆け込んだ。
軋む外壁。薄暗い室内は時折ミシミシと音を立てて、何時崩れてきてもおかしくない状況だわ。
とにかく急がないと。子供の名前も性別も分からないけれど声をかけながら進む。
奥へ奥へと進んで行けば、まるで子供の泣き声みたいな音が聞こえてきて・・・こっちね!
きっとこの状況が怖くて泣いているに違いない。そう思って慌てて駆けつけてみれば・・・・・・。
「うわぁぁぁんっ!!おばけ!おばけくるなぁー!!!」
『あのなー。おばけじゃねーって。今の俺はちゃんと身体があってな?
・・・あー。だから無理だっつったのにさー・・・』
項垂れる小動物・・・かしら?あれ。淡く光を放ちながら宙に浮いた姿。
まるでの髪みたいな毛色をしていて、額には赤い宝石を持っている。
魔物?・・・いえ、幻獣かしら。
それに暖炉の上によじ登った男の子が泣きながら手近な物を投げつけていた。届いてないけど。
『お。何だ援軍か?
頼むよー。あのクソガキ、俺に対してボロカス言いながら泣くんだぜ?マジ勘弁してくれっての。
がガキん時はもっと違かったぞ。
まー、でも普通のリアクションってのは、やっぱこんなもんだよなー』
“あいつがおかしいんだよなー”なんて。ええと、の知り合い?
やたら口が悪いけど。ホント何これ。
「うわぁんっ!おねーちゃん、たすけてぇぇぇっ!!!
あのおばけピカピカひかってる!ぼく、たべられちゃうぅぅっ!!」
『冤罪すぎんだろ。食わねーよ』
「えっと・・・もう大丈夫よ。あの子も怖いお化けじゃないから、さぁ!」
『お化けも否定しろよ』
今はそんな場合じゃないでしょう!?
泣いている男の子を抱き締めれば、ヒシッと全力でしがみついてくる。
本当に怖かったのね。震えてるし・・・・・・て、そんな場合じゃないわね。
「それより早く脱出するわよ!」
『んじゃ、さくっと外に跳ぶとすっか。
お前のこと良く知らねーから、悪いが荷物設定させてもらうぜ』
「え?」
荷物?
『テレポ』
詠唱も、事前動作も何もない唐突な呪文発動。
衝撃に男の子を抱き締める腕に力がこもった。
直後、外の明るさが視界に入った私は慌てて側にいた女性へと駆け寄って男の子を渡す。
「ママぁっ!」
「ああ!良かった、良かったぁ・・・っ」
「よし、待ったぜ」
マッシュの言葉が聞こえて、彼が屋根からすり抜けて距離をとれば屋敷は暫くして地響きと共に潰れてしまった。
間に合わなかったら私達も一緒に潰れてたって事よね?
今更ながら、背筋がヒヤリと凍る感覚。
『あーもう、マジで酷い目に遭ったぜ。
何で俺がお化けになんだよ』
「室内だと光って見えるからじゃないか?」
『仕様なんだから勘弁してくれっての』
「でも助かった。ありがとな、カーバンクル」
笑うマッシュとさっきの小動物の声。
「セリス、さっきはありがとな。助かったぜ」
「いえ。それよりマッシュが生きてて良かったわ」
こんな世界になってしまったし・・・もう駄目かと思ってた。
そう言う前に、マッシュは普段と変わらないように豪快に笑ってみせた。
「当たり前よ!例え裂けた大地に挟まれようとも俺の力でこじ開ける!」
まるで何時も通りの姿に、張りつめていた何かが僅かに緩む。
「もう、皆死んでしまったかと思っていた・・・・・・。
希望は絶たれてしまったと思っていた・・・・・・けど・・・諦めちゃいけないわね。
生きているかもしれない!皆を探して、そして・・」
「ああ。ガストラを倒して平和な世界を取り戻す!!」
お互いに頷き合う。
ガストラ皇帝・・・・・絶対に貴方の思うようにはさせません!
・・・・・・と、それはともかく。
「気になったんだけど、これって何?」
『これって言うなよ、これって』
ふよふよ浮いてるし、微妙に光ってるし、喋ってるし。
幻獣にしても正直、今まで見てきた幻獣達に比べて威厳とか威圧感とか感じられないし。
『しゃあねぇな。ちょっと自己紹介とかしよーぜ。
俺はあんまりお前に興味とかねーけど、流石に“これ”呼ばわりはちょっとなー。
・・・・・あ。それよりお前さ、クッキーとか持ってねぇか?』
クッキー・・・・?
何で?と、首を捻る私に、マッシュだけが苦笑していた。
『なーるほど。お前も人造魔導士なのな。
はー。確かによーく見てみりゃ何か微妙に入ってんな。
あれか。シヴァがメインになってんのか、お前の力』
「あんまり言ってやんなよ。カーバンクル」
『いやー。だって前より歪なやり方してるからさー。
スゲーよなー。よくあんな装置で力を取り出せたよなー』
あれから近くの店に入ってお互いにあれからの事を話して。
このカーバンクルって名前の幻獣にその流れでシドや私の事を話していた訳だけど・・・。
“マジで感心するわ”と、心からそう思ってそうな声音で言うから反論する気は失せてしまった。
最初は侮蔑されたのかもしれないとも、責めているのかもと思ったけれど・・・違うわよね、多分。
本当に、信じられないとただ感心する姿。変なの。
「そんな事言ったら、私だって貴方に驚きだわ。
が言ってた子供の頃から側にいる幻獣で、とんでも魔法が使えるのが貴方だなんて」
何かもっと極悪な魔法とか使えそうよね?その性格だと。
『ま、俺は元々補助しか出来ないからな』
「またまた冗談ばっかり」
補助だけって・・・補助だけ?え。本当に?
考えていればまるで見透かしたようにカーバンクルの極悪な笑顔が私に向いた。
と、その小さな頭をマッシュの大きな掌が包み込むように掴む。うわ。サイズ差・・・。
「ほら。止めとけっての。
セリスもあんまり言うなよ。今のこいつは凶悪だからな」
『ちぇ。何だよ、止めるなよなー。
せっかく直伝をこいつにも見舞わせようと思ってんのにさー』
「やっぱりか」
“あれは直伝じゃないだろ”と呆れた顔をするマッシュは・・・え、でも止めるって事は一度はやられてるわけよね?止めるような威力のやつを?
『ま、今の俺は攻撃魔法程度なら出せるからな。
安心して余計な事言って良いぜ』
「嫌よ」
それ私に試し撃ちしたいだけじゃない。
魔物に撃ちなさいよ、魔物に。
え。私、この変な生き物とこれから行動するの?本当に??
マッシュに視線だけ向ければ、だけど全然伝わってないらしくて彼は笑顔を返したのだった。