鳥篭の夢

幼年期/拾われた子供03



「・・・それで!此処がウールオル街道!オレと兄ちゃんはたまに此処で仕事してるんだぜ」

意気揚々としたティーポの声。その後ろを、まだ装備に慣れないリュウがぎこちない足取りでついてくる。
追い剥ぎをするのだと、あくまでも明るい声音で語るティーポに困ったような戸惑うような表情。
・・・・・まぁ、普通に考えたらそうだよね。追い剥ぎなんて堂々と言うものじゃないだろうし。
それよりも“初心者にも安心の追い剥ぎ”って何?って感じだもんね・・いや、私自身そう思うんだけどさ。

「この道はウインディアに続いてるんだ!オレ達、何時かこんなチンケな村を出てウインディアみたいなでっかい町へ行くんだ!
ね、兄ちゃん?」
「あれ?私は此処に置いてけぼり?」
「そ、そんな事無いよ!姉ちゃん達も一緒だってば!!」

わくわくと瞳を輝かせるティーポ。新しい街への期待。それにちょっと拗ねて見せると慌てる姿。
“冗談だよ”って言えば、真っ赤になって拗ねるティーポがやっぱり可愛いなぁなんて思ってみたりして。
それにしても・・・・・・ウインディア・・・・・・・か。本当はあんまり行きたくないけどね、ウインディアには。
それを分かってくれてるからか、レイは肩を竦めて誤魔化してくれる。

「ま、それはともかく・・・とりあえずは今日のメシを稼がないとな」
「うん、そだねっ!」
「人が来る前にさっさと隠れよう」
「ほら!リュウも姉ちゃんもっ!!」

そうやってさっさと隠れる場所を見つけて、歩き出す。私とリュウの手も引いて・・・あれ?巻き込まれてる?
でも、確かに何時もこうやって怒っては見せるけど・・・・・少しだけ仕方ないと思わなくも無い自分がいるのも本当。
働くだけで生きていけるなら、きっとそうしてる。
自分の事で手一杯だと仕事すらくれなかった村の人。
仮にあっても本当にお小遣い程度の労働で、金銭じゃなくて現物支給の事もある。
シーダの森の恵みは私達だけの物じゃないし。
そんな環境じゃ経験も土台も圧倒的に不足していて、自分達だけで何かを作り出す迄には至らない。
それなのに“堅実に生きる”為には如何したら良いのか・・・分からないままでいるのも本当。
ババデルが仕事をくれる時は良いけどそれ以外じゃ食糧確保が精一杯・・ううん、今冬はそれすら難しいなんて。

茂みの陰に隠れて一通り追い剥ぎの仕方を教える2人。どうせするつもりは無いから半分流し聞いてたんだけど・・・。

「・・・こう、ズバッとね!」
「・・え、えと・・でも・・・」
「何だよー、リュウ。良い子ぶる事無いだろー?」

リュウの戸惑う姿にティーポが不満を言う。え?でも人は傷付けないじゃないっけ?何だか言ってる事が違くない??
なんてリュウと一緒にそんな疑惑に満ちた目線を送るけど、あくまでレイはにんまり笑う。

「食うのに困った可哀想な子供のする事だ。ちょっと位、大目に見てもらえるさ・・・」

・・・・大目に、ね。追い剥ぎ常連さんの2人はどうだかって感じだけど。

「兄ちゃん!来たよ!!」
「おっと・・!!」
「きゃっ!」

ティーポの声に茂みの陰に無理やり隠される。更に出て行かないように雁字搦めにされた・・・。
確かに、この中で邪魔をするとしたら私だろうけど・・。ここまで厳重にしなくっても良いんじゃないかな??
不満の視線に気付いてるのかそうじゃ無いのかレイは視線を路に向けていた。視界が悪くて誰か分からない。

「・・・1人、か。よし、リュウ根性試しだ。お前が行って来な!」
「・・・え?」
「どーんとぶつかれば良いんだよっ!」

すかさず後ろに回ったティーポがリュウの背中を・・・押しちゃった。あーぁ。

「わゎっ!!?」

その力に負けたリュウはそのまま転げるみたいに路へと飛び出して、ドンッとぶつかって転げる音がする。
・・・・・だ、大丈夫かな?リュウ。

「そういやさ・・姉ちゃん?」
「ん?何、ティーポ」
「オレ・・リュウの名前を知ってたんだ。どうしてかな?」

唐突な問いに私は目を丸くする。
初めて会ったのに“名前を知ってた”?多分そういう事だよね。
でも、そんな事は普通に考えてアリエナイ。

「うーん・・・私が呼んでたのを無意識に聞いてたとか?」
「あ、そっか!そうかも!!」

それしか思い浮かばなかった。
確かに名前を呼んでたかと問われれば覚えてないけど、ティーポは納得したように手を叩いた。
それから思い出したみたいに茂みから顔を覗かせる。・・・・・・って、リュウがぶつかった人って、ババデル!?

「小僧・・バカ共に会ったら言っておけ。
下らん事ばかりしてるとぶっとばす、ってな」
「リュウ!!」

「・・ぁ、バカ!!!」

心配で思わず飛び出す。レイが止める声が聞こえたけど・・。怒られる覚悟も・・・出来てないけどっ!
それでも怒られるかと思うと、やっぱり放ってはおけないし・・・ね。

「ふむ、か」
「あはは・・・こんにちはババデル。リュウ、大丈夫だった?」

擦り剥いて無いかどうか確認してリュウを立たせる。
と、リュウは服の埃を払ってから頷いた。良かった、どこも怪我して無いみたいね。
それからチラリとババデルを見る。別段気にした様子は無く、軽く手を振ってから街道を進んでいく。
・・・・怒られなくてすんだかな?

「あちゃ~!よりによってババデルとは・・・」
「ちぇっ、ジジイめ!!好き勝手言いやがってー!!」

頭を掻くレイと、地団駄を踏むティーポの姿。それに苦笑しながら私とリュウは2人の元へ戻る。
それから如何したものかと頬を掻いて、それから思いついたようにレイは目を細める。何だか嫌な予感。

「・・・・ん?いや、待てよ。ババデルのじいさんが出かけたって事は、小屋の方は誰もいないぜ?」
「そうだよ!兄ちゃん!!小屋へ行ってジジイの食い物を盗っちゃえば良いんだ!!」

・・・・・・・・・・・やっぱり。
もぉ・・・悪い事はすぐ思いつくんだから。

「姉ちゃんも行こうぜ!!」
「え・・わ、私も!?」
「そうそう。皆で力を合わせればあっという間だろ?」
「・・・・って、レイ。そこに力をあわせるの?」
「良いじゃん良いじゃん!オレ達、将来は大ドロボーになるんだからさっ!」
「あ・・ま、待ってよぉー!!」

ぐいぐいと引っ張られる後ろからリュウの泣きそうな声。
あははは、置いてかないから大丈夫だよ。
それよりもこの状況・・・・どうしようかな?



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