幼年期/脅かすモノ02
「下山は無理そうだね、レイ」
「・・・だな」
ゾワゾワと本能が“危険”だと告げる感覚。まだ早朝で、目覚めてちょっとしか時間も経ってない・・・。
寝起きすぐにソレは少しだけツラいんだけど・・敵地と言えばそうなのだから文句なんて言える筈も無くて。
毛布に包まってたレイはむくりと起き上がって頭を掻いた。それからティーポも目覚める。
「・・・姉ちゃん、おはよぉ」
「おはよう、ティーポ。出来たら早めに支度してね」
「・・・・・・?」
ティーポは寝惚けてて“意味が分からない”って首を傾げる。それから此処が家じゃない事に漸く気付いて飛び起きた。
耳を澄ませば獣の唸るような声が聞こえなくもない気がする。まぁ兎に角良い予感はしない訳で・・・。
「あ、そうだ。リュウも起こしてくれる?」
「え?・・・・・・リュウ~、まだ寝てるのかよ」
ティーポがぺちぺちと頬っぺたを叩くけどリュウが起きる気配は無い。くぅくぅと寝息を立てている。
これが家だったら微笑ましいんだけど・・・今はそうも言ってられないんだよね。それが少し残念。
・・・どうやら痺れを切らせたみたいなティーポがリュウの耳元に口を近づけた。
「・・・・起きろ、リュウっ!!」
「わっ!!?」
・・・うーん、すっごい大声。これだけで見つかるんじゃないかな?なんて思うほどの音量。
とにかく、漸くリュウも目が覚めたみたいだね。
───グルァァァ・・ォ・・・
・・・・と、昨日よりもずっと近い場所から聞こえる咆哮。レイも明らかに警戒の姿勢を見せてる。
「・・・ヤツだ、近い!」
「これじゃ逃げれる雰囲気じゃなさそうね」
「やれやれ・・仕方ない、出迎えよう」
扉を開ける。・・・と、ゾワリと背筋に嫌な物が走った。振り向けばそこにはモンスター・・・鵺の姿。
一度咆哮を上げて、大きくジャンプするとソイツは私達の前に立ちはだかった。
「・・・・・お早いお出ましで」
ティーポが皮肉気にそう言うけど、言葉が通じる筈も無い。リュウの泣きそうな顔が目に入る。
あぁ~・・泣かないで、リュウ。泣いても鵺はいなくならないから・・・ね?
なんて思いが通じたのか、リュウは一生懸命涙を拭いてダガーを構える。皆も戦闘態勢。
さて、まずは皆を守らないとね・・・。精神を集中させて魔力を纏わせ・・それを放出する。
「・・・ミカテクトっ」
「メガ―ッ!!」
ほぼ同時に打ち出される私とティーポの魔法。私とは正反対で、攻撃魔法が得意なティーポ。
緑色のキューブが全員を包み込んで防御を上げると同時に鵺の周囲に小さい規模の爆発が巻き起こる。
それに怯んだ鵺にレイが斬りかかった。鮮やかなその切り口から鮮血が吹き出して、鵺の悲鳴が響く。
追い討ちをかけるようにリュウとティーポが斬りかかる。多分終わりだ・・と思ったその時・・・
『グルルルゥ・・』
低く唸り声を上げて、鵺は高く跳んだ。そのまま山頂の方へと姿を消す。
「逃げるつもり?」
「・・・追うぞ!トドメだ!!」
レイの声に、皆で頷く。急がなきゃ・・・手負いの獣ほど厄介な相手は無いって言うし。
それから後を追って奥へ進んで行けばその先には洞窟があった。
地面にはポツポツと血液が落ちていて、ソレは洞窟のずっと奥へと続いている。
多分、これを辿ればきっと鵺に辿り着けるんだろう。・・・・でも、この出血量なら結構深手なんじゃないかな?
なんて考えながら進んでいくと、途中で血の跡が途切れていた。その近くにあるのは川。・・・・・・水中に逃げた?
「分かったよ兄ちゃん!アイツ水の中に逃げたんだよ、きっと!」
「・・・だろーな。で、どうやって追いかける?」
「・・・・・・さあ?」
「そこまで考えれるようになると良いね、ティーポ」
まるでコントのようなやり取り。追いかける方法まで考えてなかったとティーポが首を捻る。
・・・まぁ、でも何とかして鵺にはたどり着かなきゃ行けないんだけど・・・どうしようかな?
うーん・・って皆で悩んでると、またティーポが手を叩いた。
「今度こそ分かったよ!!
こっから飛び込むんだ。そしたらさっきの所まで流れていけるんだよ・・・・きっと」
・・・って、大分穴だらけの推理ね、ティーポ君。
「・・・・だとよ。リュウ、お前はどう思う?」
「えー?飛び込むの?怖いよぅ」
「本当にあそこまで辿り着けるかも分からないしねー」
「むぅ~・・・行くのっ!!」
───ドンッ
強く押されて体がよろめく。体勢を整える前に身体が川へと落下した。3度水音が響くから皆落とされたんだと思う。
って、冷たっ!!イキナリ真冬の川になんて入ったら身体が冷えるんだけど・・・。
「ちょっ・・ティーポ!?」
「大丈夫だって、姉ちゃん!」
ティーポは意気揚々と流されていく。・・・・何だか楽観視出来ないものが目に見えて来たんだけど。
「ねぇ、ティーポ・・あれは何かな?」
「えっと・・・滝・・かな?」
「・・・・・愉快だねぇ」
懸命に水を掻き分けてリュウが私の腕にしがみ付く。怖いのは分かるけど、この状況は助けられないかな。
でもとりあえず安心させてあげたくてリュウを抱き締めた。・・・・・・さて、どうなるかなぁ?これ。