鳥篭の夢

幼年期/踊る英雄達02



「───マクニール邸に盗みに入る?」
「そういうこった。まぁ村の奴等も税金に苦しんでるんだし、良いだろ?」

うーん・・・確かに“税金がつらくて生きていけない”なんて愚痴は聞いた事がある。
聞いた感じだと確かに額が高すぎるんだよね。あの村の規模で考えると不自然な位。
だけど皆マクニールを怖がってて、現実にはそんな事を言えないでいるのも本当みたいだし。
それで実際には関係ないレイ達が、あまりにも余分だと思う税金を取り返す・・・って事なのかな。

「それなら・・・悪い事じゃ、無い・・・?」
「やっぱりそうだよね!!」
「うーん。でも人の家に勝手に入るのは悪い事だよ?」
「へへー、分かってるってー!!」

とてもご機嫌なティーポ。レイに聞いたら、どうやら村の皆が鵺を倒した事を喜んでくれたみたい。
普段悪さばっかりしてたから感謝される事なんて無かったもんね。きっと認めても貰えたのかな・・・?

・・・でも、その提案をしたのがズルスルかぁ。あんまり働いてるイメージないんだけどなぁ、あの人。
何だか少しだけ引っ掛かるような気はするけど・・・・。
だけど負担が少しでも減ったら、村の皆はまた喜んでくれるかな?またもう少し認めてくれる?
なんて考えたらティーポが凄く張り切ってる理由は分かる。そうして認められるのは私だって嬉しい。

“仕方ない、それなら私もお手伝い致しましょう!”そう言えばレイは楽しそうに笑った。

「そりゃどうも。ま、達は俺が守るさ」
「あはは、ありがとう」

確かにレイがいれば安心なのは本当。私達の中で一番強くて、何時でも守ってくれるから。
・・・・なんて、ホント恥ずかしいなぁ。

とにかく、牧場にある小屋でズルスルと待ち合わせてるって事で皆で待つ。もうとっくに陽も暮れてしまった。
あまりに待ち時間が長くて暇を持て余していた為、暇つぶしに翼の手入れをする。これが案外楽しかったりして・・。
───と、カチャリと扉が開いて、薄緑色のローブを頭からすっぽり被ったズルスルが姿を見せた。

「夜ですよ皆さんっ!!行きましょう、行きましょうっ!!」

人任せなのに機嫌の良いズルスルの姿がやっぱり気にかかる。被ってるフードの下に覗く口元が笑みを作っていた。
不信な眼差しを向けても、それにすら気付かないようにズルスルは身振り手振り動かす。

「壁の修理をしたばかりで忍び込むのが難しいかもしれませんが、あんた達なら大丈夫!上手く行きますよ、さぁ!!」

急かす様な言葉のまま、ズルスルは小屋を出て行った。
リュウに目線をやると、少しは気になるのか同じように目が合う。
少しだけ困ったように笑みを向けられて、私も思わず同じように笑みを見せた。・・・やっぱり気になるよね。
それでもティーポは俄然やる気で、扉の前まで来ると私達を呼ぶ。

「よーし、行こう!リュウ!姉ちゃん!兄ちゃん!!」
「ティーポ。騒ぐとバレるかも知れねーぜ?」
「あっ!そっか!!」

レイの言葉に慌てて口を塞ぐ。それに皆で一度だけ笑った。


「さて、此処が噂のマクニール邸だけど・・・如何するの?」
「とにかく、手分けして入り口を探す事にしよう」
「うん!分かったよ、兄ちゃん」

まだ浮かれている様な嬉しそうなティーポの声音。
レイが歩き出そうとするティーポの首根っこを掴んだ。

「しくじるなよ」

ポツリ。少しだけ低くそう忠告を残してからティーポを降ろして、レイは先に侵入経路を探しに行く。
それにティーポとリュウが一度だけ顔を見合わせてから続いて歩き出した。不意に夜風が頬を撫ぜる感覚に顔を上げる。

目の前に広がる大きな屋敷。それは権力を現しているんだろう。別にそれについてはどうも思わない。
ウインディア城だって同じようなものだった。下の人間に権力を示さなければ“治める”事は出来ない。
否。国民を引っ張る事も、支持される事も無いだろう。だって自分を支えてくれるか分からないんだから・・・。
でも・・・・

「そう思うとマクニールは如何なのかな?」

呟いた言葉はふんわりと風に乗って消えるようだった。

多分、マクニールは自分の為に税金を搾取しているんだと思う。だってこんな小さな村を治めるのに高額の税は必要ない筈。
それならばどんな方法であれ、マクニールから税金を取り戻す事は間違いじゃないと思う・・・ううん、思いたい。
これは、これから私が悪い事をする為の言い訳でしか無いんだけど・・・でも・・・・・それが真実であれば嬉しいのは本当。


「姉ちゃん」

くい、って服の裾を引っ張られる感覚。視線を向ければリュウが私を見上げていた。

「如何したの?何か良い場所でも見つけた?」
「う、うん」

何度も頷いてから私の手を引いて歩き出す。その先にあるのは他とは少し色の違う壁・・・・コレ、何だかズレてる?
確かに此処なら侵入できるような気がしなくも・・・。

「何だ?良い場所あったのか?」
「あ、レイ。リュウが見つけたんだけど・・・」
「あぁ、最近修理したって所か」
「ホントだ。此処だけ何か色が違うね」

「ふーん・・どうしたもんかな・・・」

集まってきたレイとティーポも修理された壁を見る。それからレイは何気なく壁に凭れ掛かった。
・・・・・危なくないかな?でも修理したって話だし、見た目ちょっとアレでも普通は・・・・

───ズズ・・

「に、兄ちゃんっ!!」
「・・ちょ、危なっ!」

───ドォンッ・・・

「うわっ!?」
「大丈夫っ!!」

・・・・・・見事に倒れた。壁・・・・と、一緒にレイも。何なの?この手抜きを超えた偽装工事は。
唖然とする私とリュウ、駆け寄ったティーポと、起き上がったレイと・・・全員で崩れた壁を見る。

「愉快だね。“完璧な修理”だ、俺達にとっちゃ・・・。
こんなイージーなのもちょっと気が引けるが・・ま、運も実力の内ってヤツだな?」
「うーん・・まぁ、そんな感じかな」

崩れた壁の先。植木で周囲は良く見えないけどとりあえず屋敷へ続いている事に違いは無いと思う。
ともかく!この完璧なる手抜き工事のおかげで、私達はまんまとマクニール邸に侵入する事が出来たのだ。



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