鳥篭の夢

幼年期/踊る英雄達03



ちょっと此処の警備の人達ってやる気無さすぎじゃないかな?なんて少し真剣に考える。
お金を払えば通すって言う人もいた。まぁ、それは声を出される前にレイが当て身で気絶させたけど。
後は、偶然拾った財布を返して通してくれたりもしたっけ。
ついさっきだって、堂々とサボってるのに“犬を倒せば”通してあげるなんて職務怠慢過ぎるんじゃない?
でもティーポの言う通り、あんな“可愛い犬”を倒すのは流石にちょっと気が引けちゃったけど・・・なんて。

「ほらリュウ。もう大丈夫だから泣かないで?」
「・・・ぇぐ・・っ・・・ぅんっ」

何度も頷いて一生懸命に涙を拭く。元々犬が苦手なのに、あんな番犬が相手じゃホント怖かったと思う。
戻れば先程のガードマンがまだ煙草をふかしながらへらへら笑って“これで自分の所為じゃないでしょう?”なんて言うし。
まぁ本当にそれが番犬の所為になるのかどうかは私達には分からない話。

さて、良い加減入り口に辿り着きたいんだけど・・・・あっちはガード固そうなんだよね。どうしよう・・・?
進んでいくと、生垣の向こう側から“ミンナちゃん遊ぼう?”とか言う声がして・・・・と、とりあえず何も聞かなかったって事で、うん。
えーっとそれよりも・・・・

「あ!ねぇねぇ、兄ちゃん。あそこ何かな?」
「ん?」

ティーポの声に皆で同じ方向を見る。塀に沿って作られた小さな小屋・・?に、一応入り口に見張りは1人。
でも何だかやる気なさそうにため息とかついてて、近づけばそのガードマンは一度こっちを見て、もう一度ため息をつく。
・・・・仕事をするつもりは無いみたい。

「はぁ~。ミンナちゃん、今頃何してるのかなぁ・・?」
「・・・ミンナちゃん?それなら向こうで“遊んでる”みたいよ?」
「え!?ミンナちゃんがっ!!??そりゃタイヘンだっ!!」

・・・行っちゃった。良いのかな?仕事を放棄しちゃって。

「姉ちゃん、いつそんなの聞いてたのさ?」
「ん?さっき何かそんな話が聞こえたんだけど・・」
「あー・・そういや何か言ってたな」
「ぼく、全然わかんなかった・・・」

まぁ、私も偶然といえば偶然だけど。とにかく、少しでも役立ったならまぁ良かった。

「しっかし、良いのかね?警備がこんなで」
「本当だよね。流石にちょっとやる気無さ過ぎ」

言って、軽く苦笑しながら小屋に入ると、今度は沢山の鶏達の姿が目に入った。それを物珍しげにティーポが徘徊する。
鶏小屋なんて見る機会無いもんね。私達は自然にある物を狩ったりするのが基本だし。

「此処は・・鳥小屋か」
「ガードマンいっぱいで家に入れそうに無いから、卵だけでも盗って帰るってのは・・?兄ちゃん」
「ティーポ・・流石にそれは・・・」
「ちょっとココロザシが低いんじゃないか?ティーポ・・・」

思わず私も言葉を挟む。卵を盗んで帰るって・・・その為だけに番犬を倒したのかと思うとちょっと情けない気もするよ?
いや、どちらにしろ盗むのは良くない事なんだけどね。良くない事なんだけど・・・・・あ。

「・・・ねぇ、ティーポ?早く卵返した方が良いんじゃないかな?」
「え?・・・・わっ!に、兄ちゃんっ!!」

巨大な鶏が見てる。どう見ても私達をすっごい睨んでる。やっぱり卵を盗んだから・・だよね。
ティーポがゆっくりと後退りながらこっちに来るけど・・・どうして卵も一緒に持ってくるのかな?

「た・・卵、戻そうか。兄ちゃん・・・?」
「許してくれそうにないぜ?」
「ばかティーポぉ・・っ」
「うるさいなぁ、リュウっ」

あの、2人とも・・今は言い争ってる場合じゃなくてね・・・?

『コケーッ!!!』

唐突にジャンプして襲い掛かってくる鶏を間一髪で避ける。あ・・危なかった。アレに踏まれたら結構痛い気がする・・・。
とりあえず鶏だし、獣だし・・・やっぱり火を使って追い払うのが一番?だよね。

「ティーポ、パダム使ってくれる?それまで時間は稼ぐから!!」
「う、うんっ!」

私の言葉にティーポが精神を集中させる。時間を稼ぐって言っても大した事は出来ないけど、とりあえずレイと2人で撹乱。
やっぱり鳥は鳥らしく賢くないのが少しだけ救いだと思う。

「よっし、いけるよ!兄ちゃん、姉ちゃん!!」
「おう!」
「お願いねっ!」

ティーポの言葉に鶏と距離をとれば、ティーポの手に集まっていた魔力が爆ぜて炎になった。

「パダムー!!」
『コケーッ!!?』

「わわっ!」

バタバタと羽をばたつかせて、そのまま巨大鶏は小屋から出て行った。ぶつかりそうになったリュウが慌てて避ける。
それが何か1つの切っ掛けになったの・・・かな。周りにいた通常サイズの鶏も小屋から逃げて、屋敷の庭はまさに混乱状態。
捕まえようとガードマンが躍起になって走り回ったり。“またヒヨちゃんが・・”って言ってたから多分今までもあったみたい。

「何だか凄い騒ぎになったぞ・・・このスキに家の中に入れないかな?」
「は・・入れるかな?」
「とりあえず行ってみるか」

頷いて、手薄になった警備を潜って屋敷の入り口まで近くまでいく。と、不意にレイが立ち止まった。

「レイ?」
「・・・・人の気配がするな」

ぐっと声のトーンを落として告げる。

「どうする?兄ちゃん」
「様子を見てくる、ちょっと待ってろ」

足音を殺してそっと様子を窺う。それから指だけで“こっちに来い”と合図。行く途中でリュウがティーポにぶつかって倒れた。
リュウ、大丈夫?って声にしないで目線で問うと何度も頷いて平気だと返ってくる。

「入り口は固められちまったな」
「・・・諦める?」
「いや・・・・突破しよう」

その言葉にティーポが首を捻る。いや、私にとっても不思議なんだけど・・・。

「突破ってやっつけるって事?」
「いや。と俺で囮になるから、その隙にお前らは屋敷に入れ。
俺達は何とかするから屋根で会おう・・・良いな?」
「あぁ、なるほど。それなら何とかなるかも」
「え!?で、でも兄ちゃんは分かるけどなんで姉ちゃんも?」
「ここいらで飛翼族は珍しいし、元々の翼は大分目立つからな。逆に引き付けるのに丁度良いだろ?」
「大丈夫だよティーポ。私はこれでもちょっとなら飛べるから」
「そうなの?」

“見た事なんて無い”と表情が明らかに驚いている。確かに、基本的には無駄に大きい飾りだし。飛ぶ機会だって殆ど無い。
ちらりと見れば、2人の尊敬の眼差しに近いものが目に入った。うーん、困った。変な期待をさせた気がする。
いや確かに今の飛翼族は翼があっても飛べないし、私の翼は普通より大きいけど・・・でも本当に少しだけなんだよ?

「うー・・うん。まぁ、だから大丈夫だから・・・ね?」

言い聞かせるような言葉に2人は頷く。

「よし、行くぞ」
「あ、うん!」

レイの言葉に、私とレイは同時にガードマンの前に飛び出した。



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