鳥篭の夢

幼年期/踊る英雄達05



踏み潰されて退散する“魂”を見送る。オバケって踏めたんだなぁーなんて、ちょっと意外な発見。
それから私は唖然としてる2人に目線を移した。驚いた様に私の姿を見つめる姿。

「大丈夫だった?ティーポ、リュウ」
「ね、姉ちゃん!何で此処にいるのさ!?」
「何でって・・探しに来たからかな。やっぱり2人だけじゃ心配だし。怖くなかった?大丈夫??」
「う・・・うん。オバケといっぱい会ったけど」
「オレ、オバケって不気味だって思ってたけど・・・此処のオバケは良く喋るし、別に怖くなかったよ」
「そっか、それなら良かった。でもゴメンね、2人だけで戦わせちゃって・・」

平気そうにしても饒舌になるのはやっぱりまだ少し怖いからかな?そっと頭を撫でて謝れば2人は首を横に振った。
優しいなぁ・・なんて思ってるとリュウが不思議そうに辺りを見渡す。

「あ。そういえば兄ちゃんは?」
「レイはちょっと用事があるから屋根の上で待ってるよ」
「ふーん、そっかぁ」

少しだけ残念そうなティーポの声。本当はレイも連れて来れたら良かったけど・・でも、カギ縄を探してもらわないとね。
“期待外れのところ申し訳ないけど、姉ちゃんと一緒に行こうか?”って言えば2人とも凄い勢いで首を横に振った。

「姉ちゃんが嫌なんて、全然そんな事無いよっ!!」
「そうだよっ!!ただ兄ちゃんも一緒にいると思ったから・・で・・・」

ごにょごにょとティーポの声が小さくなっていく。それが可愛くてくすくす笑うと今度は拗ねられた。

「ほ・・ほらっ!姉ちゃんもリュウも行こう!!早く兄ちゃんに追いつかなきゃっ!」
「う、うんっ」
「そうだね。早く合流できるように急ごうか」

他人様の屋敷に侵入してるっていうのに、本当に少しだけ楽しいと思ってしまった自分がいる。何だか不思議な感覚だった。
やっぱりティーポやリュウがいてくれてるからなんだろうなーなんて考えたりもして・・・。

それからも何体かの“歴代マクニールの魂”と戦って進んでいった。最後なんてティーポが名乗る前に倒しちゃったけど。
だけどアプリフとか治癒魔法が逆にダメージになるのは少しだけ驚いた。うーん・・・やっぱり魂だから感覚が違うのかな?
でもそんな事よりも私としては巨大ゴキが出るのが一番怖いんだけどね。ジャンプするし、素早いし、気持ち悪いし・・・・ヤダなぁ。
ティーポが率先して戦ってくれたおかげで何とかなったけど・・・・うぅ、助けに来て助けられてどうするんだろ?私。

・・・でもまぁ、そうこうして何とか屋根の上まで来れた訳です。
さて、レイを見つけないとね?

「・・・兄ちゃん、どこにいるのかな?」
「うーん・・・流石に見えないね。向こう側には行ってないと思うし探してみよう?」

正直、鳥目がツライ。ちらりと視線を2人に向ければ普通に見えてる様に見える。
・・・やっぱり私だけなんだろうなぁ。

「あれ?ねぇ、アレ何かな?」
「・・え、何?」
「あ、本当だ!あの柱の影にちょっと見えるヤツ・・何だろう?」
「じゃあ、ちょっと取って来るから2人は此処で待っててくれる?」
「うん!」
「分かった!」

2人の元気の良い返事を聞いてから、足を滑らせないように翼を大きく広げてその“何か”に近づいてみる。コレって・・・カギ縄?
こんな所に落ちてるって事は、レイはまだ見つけられて無いって事だよね・・・・多分。まぁでもそのままにしておく訳にはいかないか。
翼を羽ばたかせて2人の待っている所へ戻ると、輝く瞳で私を見ている姿が目に入る。ど・・・どうしたの?

「本当に飛んでるっ!姉ちゃんすごいやっ!」
「うん、うんっ!姉ちゃんすごいねぇー」
「・・・あ。ありがとね、2人とも」

何だか気恥ずかしい。・・・と、手に持っていたカギ縄にティーポとリュウの目が行った。酷く怪訝そうな視線。

「コレって・・カギ縄?」
「うん、そうみたい。2人の言ってた所に落ちてたんだけど・・」
「ねぇ、姉ちゃん。これってもしかして、兄ちゃ・・・・」

「ティーポ!リュウ!!も一緒か!」

「あ、兄ちゃんだ!」

遮るように遠くからレイの声が響いて、煙突部分の屋根よりちょっとだけ段差のある場所から軽やかに降りてきた。
私達の姿を見て、一度だけ安心したようにため息を落としたのが分かる。

「・・上手く行ったみたいだな。中はどうだった?苦労したか?」
「え、えと・・・」

リュウが何かを言おうとすると、ティーポがふいと顔を背けた。あ、あれ?ティーポ、何だか機嫌悪い・・・??
それにリュウも困ったようにティーポに視線を向けて、レイも頭を掻く。私も思わず首を傾げた。

「いや、俺も手伝いに行ければ良かったんだけど・・・その、ちょっと探し物を・・・」

「オバケが一杯いてヤな感じだったけど、兄ちゃんの作戦にしては上出来だったんじゃない?」
「そりゃ、どうも」

機嫌悪そうな声音と態度。それにレイは如何したものかと肩を竦めた。ティーポは明らかに怒ってる。
私と一緒だった時はそうじゃなかったけど、本当は怒ってたのかな?最初は2人でオバケ退治させちゃったんだし・・。

「で。俺が見た所、多分あっちにマクニールがいると思うんだが。ちょっと探して貰いたい物が・・・」
「これじゃないの?兄ちゃん」
「・・・うっ!これは、俺のロープ・・・!!?」
「やっぱりそうか。こんな物が屋根にあるの変だと思ったんだ」
「・・・・上出来だ、ティーポ」

流石、ティーポにはバレバレみたいだね、レイ?なんてこっそり笑う。でももしかしたらコレが原因かも。
ティーポにとってレイはヒーローみたいなものだから、格好悪い姿を見たく無かったのかもしれない。
何て思ってると、気を取り直してレイが向こうにカギ縄をかけようとロープを回し始める・・・・・・って───

「だ、大丈夫ーっ!!レイ!?」

足を滑らせたレイがそのまま反対側に姿を消した。呼んでみるけど返事は無くて、代わりにもう一度ロープを回す音。
・・・・と、とりあえずは何とかなったみたいだね。良かった。チラリと視線を向けると、さっきより機嫌の悪いティーポ。
カチンって金属音がしたから、多分ロープがこっちの端っこに引っ掛かったみたい。

「ほら、ティーポ行こう?」
「・・・うん」

促すけど、声音が“機嫌が悪い”と語っている。確かに今のはお世辞にもカッコイイとは言えないけど・・・ね?
リュウとティーポが恐る恐るロープを渡って、私は2人が落ちないように飛びながら移動。何とか無事に渡り終えてティーポが笑う。

「兄ちゃん凄かったね!自分だけ先に来て“楽”したり、“大事”なロープを失くしたり、“面白い”事ばっかりやってると思ったのに」
「・・・やる時はやるだろ?」
「・・?えと・・・」
「その上“足滑らせて”ジャンプするなんて!兄ちゃんカッコイイよ!!」

うわぁ・・・笑顔なのに凄い嫌味やら皮肉やら。でも流石に言い訳出来ないから私としても何とも言ってあげれない。
それよりもリュウが2人に挟まれて凄く困ってる姿が可哀想でならないし・・・・とりあえず、こっそりリュウを引き寄せる。
それからレイはがしがし乱暴に頭を掻いて、ため息を1つだけ落とした。

「・・・悪かったよ、ティーポ。お前らだけをオバケと戦わせたりして。謝るから機嫌直してくれよ、な?」
「仕方ないなぁ・・今回だけだかんね?」
「へいへい。分かったよ」

格好悪い兄ちゃんも、色々押し付けちゃった事も全部ひっくるめた謝罪。それにティーポも漸く機嫌を直したみたいだった。
先程とは違ってどこか嬉しそうな笑顔に私もリュウもホッとする。勿論、レイも。
とにかくティーポの機嫌の直った事だし、反対側にも渡れたし、これでマクニール探しに戻るのかな?



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