鳥篭の夢

幼年期/踊る英雄達06



「いやぁ~んっ!」


女の人の悲鳴が響いて私達は何かあったのかと慌てて向かう。
・・・て、何あれ?多分、あの脂肪を蓄えた男がマクニールだよね。
で、そのマクニールが女性を追いかけてて、女性は逃げてるんだけど何だか別段必死には見えないし・・・何かの遊び?

「旦那様!お戯れを~・・・」
「これ、待たぬか~!うひひひひひひひ」

まるで気品の欠片も無い下卑た笑い。レイに視線を向ければ肩を竦めて返される。正直に“気持ち悪い”と思うんだけど、アレ。
何?あんな事をする為に税金を取ってるの?それなら流石の私も許せない。
後・・リュウとティーポの教育に良くない気がする・・ううん、絶対に良くない。子供は見ちゃ駄目だよ?あんな大人。

「・・・・・やれやれ、愉快だね」

「だだ・・・誰だっ!!」

レイの声で漸く私達に気づいたマクニールが声を震わせる。それに対してティーポが剣を突きつけた。

「・・・・誰でも良いだろ?お前からお金を取り戻しに来たぞっ!!」
「ひ・・・ひぃっ!!?」
「ちょ!アタシはカンケー無いわよっ!巻き込まないでっ!!」

女性の後ろに隠れたマクニールだけど、逆に突き飛ばされる。全身を震わせる姿に威厳なんてものは微塵にも見えない。
・・・でも、それならどうして村の人達はマクニールに対してこんなに怯えてるの?

「と・・とと、取り戻す?何の事だ、ワシはただ・・・」
「見苦しいぜ、マクニールさん。アンタさっきみたいに楽しむ為に村の皆から巻き上げてるんだろ?」
「そうだそうだーっ!」

言葉を継ぐティーポの声。
───と、不意にゾワリとした感覚が背筋を襲った。

「な、何!?」

地響きのように部屋全体が揺れて、そこから幾つもの人魂が現れる。
・・・・これってさっき倒した歴代マクニールの魂?


『──もう良いわ。マクニールの面汚しめ』

「出たよ、兄ちゃん!こいつ等、さっきオレ達がやっつけたマクニールのご先祖達だ」

『──ふん、如何にも。先程はお前達に遅れをとった。・・だがそれも此処までだ』
『──この不甲斐ない男に代わって、この初代マクニールが相手になろう』

その声音に強い敵意を感じた。魂が寄り集まって1つになり、大きな魂の集合体が出来上がる。

『──見よっ!これが名家の力だぁっ!!』

「・・・・って、合体したっ!?」
「うわぁー・・オバケって合体も出来るんだ」

そんなしみじみ言ってる場合じゃないと思うよ?ティーポ。とりあえずアイツを倒さないと駄目みたいね。
見れば皆武器を構えてて戦闘準備は完了。私はチラリとリュウに視線を送る。

「リュウ、私達は治癒系魔法を使おうか。魂には効くみたいだし」
「う、うんっ!」

大きく頷いて、リュウと私で精神を集中させる。普段なら何かを癒す為に使う魔法なんだけど・・・。
魔力を練り上げてそれを魂の集合体に向けた。ちらりと見ればリュウも準備は完了してるみたい。

「アプリフ!」
「リリフー」

『──ギィアアアアァァァアァッ!!!』

癒しの光が魂を包み込んで、それに酷く苦痛を感じているような悲鳴を上げる。あまりの声に思わず耳を塞いだ。
と、その直後に小さな爆発が魂を周囲で起こる。多分、ティーポがメガを唱えたんだろう。
不意にそのマクニールの魂の集合体が姿を消して、直後、ティーポの目の前に現れる。ゾワリと嫌な予感。

「ティーポ!逃げて!!」
「うわっ!!」

僅かに後ろへと下がってそのままゴロンと床に転がる。それが逆に良かったのか、その攻撃は空を切った。
と、同時にレイが短剣を魂へと投げつける。もしかしたら“戦う”為に実体化していたのかもしれない。・・まぁ私も踏んだし。
魂にナイフが深々と突き刺さり、劈くような悲鳴と共にその集合体は消滅した。

「大丈夫か?ティーポ」
「う・・うんっ!ありがとう、兄ちゃん!」
「ティーポ、大丈夫?」
「ケガしてない?」

今にも泣きそうな顔をしてリュウが近づく。私もティーポに近づいて怪我の有無を見て・・・うん、大丈夫みたいね。
ティーポは立ち上がってぱたぱたと服の汚れを払ってからマクニールへ視線を向けた。ただ怯えた哀れな姿。

「ひ・・ひぃぃぃぃぃぃ。な、ななな、何が一体!?わ、わ、ワシはただ・・・別に何も悪い・・・ひぃ」
「落ち着けよ、おっさん。さっきのはアンタのご先祖様で、俺たちゃただのドロボーだよ」
「ひへ?」

間抜けな声を出すマクニールに、ティーポがため息を吐く。

「バカだなぁ、お前。良いから金のありかを教えれば良いんだよ」
「か・・金なら、あっちに。わわわ、ワシをころ、ころ・・殺さないで・・・」

震えながら指差す方向へレイとティーポが駆けていく。私も行こうとして、足を止めた。
リュウはマクニールを見ていた。嫌悪の念を示すでもなく、哀れみの視線を向けるでもなく、ただじっと・・・・。

「リュウ・・?」

「おーい!リュウ、姉ちゃん!凄いぞ、来て見ろよ!!」

「あ・・うん!」
「ティーポ、待って!!」

向こうの部屋から私達を呼ぶ声に、リュウも私も視線を外してティーポの元へと駆けていった。
既に金庫はレイが壊していて、そこには沢山のお金が入った小袋が入っていた。個人が持つには余りにも大きすぎる金額。
何だか向こうで物音がしてたけれど特に気にはならなかった。
それよりリュウとティーポが驚いた様にお金を見てから“村の人に返さなきゃね”と笑いあう姿が微笑ましくて・・・。

それから私達はそのお金の入った袋を村の人達に配って回って・・・漸く、長い夜が終わった。
まさかあんな事になってしまうなんて、夢にも思わずに───。



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