鳥篭の夢

幼年期/過ぎた悪戯の結末01



全身の痛み。燃える炎の熱さと音。

「・・・・・ぃっ・・た・・」

不意に意識が覚醒した。見慣れた壁が炎に包まれている。獣としての炎に対する恐怖。
身体が竦みそうになって自分自身を叱咤しながら、近くにあった地下の物置へと転がり落ちた。

「~~・・・っ!!?」

鈍いドスンという音と共に酷い鈍痛。下手したら翼を折ったかもしれない・・・いや、まだ動くから折れてはないか。
兎に角、物置が石造りだったからか何とか炎からは逃れられた。そのまま身体を引き摺りながら外へ出ると見慣れた水辺。
ばちゃりと水に浸かって、痛む翼を無理やり羽ばたかせて村への路を辿る。今ならまだ村にいる筈だから・・・。

───早く・・・レイ達に報せなくちゃ・・・帰ってきちゃ駄目だって言わなくちゃ・・・

全身の痛み。一度羽ばたく毎に激しく痛む翼。炎に包まれた家。
嗚呼、どうしてこんな事になっちゃったんだろう?
考えたら涙が滲む。朝までは何でもなかった。
何時もと変わらない日常で・・・・それなのに、どうして───?



「昨日は面白かったね、兄ちゃん!マクニールなんててんでだらしないの!
もうこの辺りでオレ達に敵うヤツなんていないよねっ!!」

楽しそうにはしゃぐティーポ。昨日の事が楽しかったのか、無事に村の人達に税金を返せたからか朝からご機嫌な姿。
それにレイが何て返そうかと苦笑して肩を竦める。

「・・・ま、まぁそれはちょっと言いすぎだけど、上手く行って良かったな?」
「一時はどうなるかと思ったけどねー」
「それは言うなよ。

余計な一言を言えば、レイは困ったように頭を掻く。
でも、カギ縄をなくした時は本当にどうなるかと思ったんだよ?
だけどティーポはそんなの全然気にして無いように笑っていた。

「もう凄い事になってるよ、きっと!皆から巻き上げた物を返したんだからさ!!」
「そうだな。今回ばかりは村の連中も俺達を邪魔者扱いしなくなるかもな」
「そうに決まってるよ!最近村からは盗ってないし、ヌエやっつけたし、税金取り戻したもんね!
あ!ねぇねぇ、村に行ってみようよ!皆褒めてくれるよね!!」

嬉しそうな表情。あの時褒めてもらったのが本当に嬉しかったんだなって分かる。
レイもソレが分かってるからか一度ため息をついて“そうだな”って返す。でも───

「先にご飯食べてから行ってね?今は食事中だよ」
「はーい!」
「・・あ。ねぇ、姉ちゃんは一緒に行く?」
「んー・・ううん。私は留守番してるよ。掃除もしたいしね」
「そっか・・・」

少しだけ残念そうなリュウの表情。俯きながらパンを頬張る姿を視界の端で捉えて苦笑した。
一度だけ頭を撫でてやれば不思議そうに顔を上げる。目が合ったからニッコリと笑って見せた。

「今日のオヤツにアップルパイ焼いて待ってるから」
「ホントっ!!」
「あ、良いな~!姉ちゃんオレにはー?」
「あはは。ティーポにも勿論作るってば」
「やたっ!!」

嬉しそうに両手を挙げるティーポが可愛いと思う。皆、良く動いて良く食べるからオヤツも必要だよね。
レイは・・・あんまり甘い物は得意じゃないみたいだから違うものでも作ろうかな?ミートパイとか?
そんな事を考えながら、食事が終わった3人を見送った。
なんて事無い私達の平凡な朝。だけど───


───ガタッ!ガタン・・・ガチャ

暫く家事をしていると、まるで無理矢理こじ開けようとするような扉の音。それに私は怪訝な瞳を向けた。
3人が帰って来たにしては余りにも時間が早いし、そもそも皆ならこんな扉の開け方はしない。恐々と扉を開けると───

「・・・どちら様───きゃっ!?」

腰の辺りに強い痛み。イキナリ突き飛ばされたんだってそれから漸く理解した。
顔を上げればホースマンの男が2人。酷く冷たい瞳で、口元には嘲るような笑みが浮かんでいた。ぞわりと嫌な予感。

「何・・?貴方達」
「ん~・・?バリオの兄者、此処が強盗の隠れ家と聞いたんじゃが、女の子しか見当たらんのぅ?」
「そうだな、サント。家主は出かけているのか、それともこの娘がその強盗なのか・・・。
まぁどちらにせよ、丸ごと焼いてしまえば結果は分かる・・・か?」

不意にサントと呼ばれた方が、馬特有の声で笑う。とても楽しそうな姿に奇妙な嫌悪感を抱いた。
それと同時に身の危険も・・。慌てて立ち上がって距離をとるけど、それすらも楽しそうな顔をしていた。

「な・・何なんですか?貴方達は・・・」
「村の領主から金を盗もうとする不届き者に、世間の厳しさを教えに来たのさ」
「領主・・・って、昨日の?」
「どうやらコイツも分かってはおるようじゃのう!兄者?」
「その様だな。ならば話は早い・・・・・・・───死ね」

低い低い声。それから・・・・それからは、よく覚えていない。
ただ焼けるように全身が熱くて死んでしまうかとは思った。
よくよく自分の姿を見て、全身の打撲傷に少しだけ納得。強い衝撃を短時間で何度も与えられて気を失ったんだろう。
その後、家に火を付けられた。悔しい・・・私は何も出来なかった。何も守れなかった。それが酷く悔しいと感じる。


でも、今ならまだ・・・レイ達に伝えなきゃ、家に帰ってきたら駄目だって・・・。今は暢気に気絶してる場合じゃないの。
今は・・・・

───ドン

・・って強い衝撃。ゆっくり顔を上げると、驚いたようなババデルの姿があった。

?・・どうした!この傷は・・・?!」
「ぁ・・・バ、ババデル。レイ達に・・・家に戻っちゃ、駄目って・・・わた・・し・・・・も・・ぉ・・・・・」

身体が動かない。目の前が霞んで何も見えない。
・・・・悔しいけど、これが私の限界?視界がブラックアウト。
全身が重くて、ぐるぐるとした感覚に今どんな状況かも分からない。

・・・・・お願い、皆無事でいて・・・どうか・・・・



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