鳥篭の夢

幼年期/捜索と報復と01



あの日から何ヶ月かが経った。ティーポとレイは未だ見つからないまま。
変わった事といえば少しは強くなった事位かな。魔法使い“メイガス”という方に師事して多少は変わった。
ナイフを魔力で強化する方法も見つけたし、魔力を溜める事で魔法の威力を上げる事も出来た。
捜索と修行を同時進行にしていたとはいえ、短期間で強くなったと思う。そう思うとメイガスさんって凄い。

今はメイガスさんと別れて、私1人で此処にいる。
闘都で行われる『漢羅狂烈大武会』という何とも不可思議なネーミングの大武会はこれまで何度も行われていたみたい。
私はそれに参加する予定で今控え室にいた。確かに私は戦う事は苦手で、それは今も変わらないけど一応理由がある。
スポンサーをしているのが“バリオ”と“サント”という奴等だという事。
記憶違いでなければ多分あの2人だと思う。隠れ家を焼いて私達をバラバラに引き離した、あのホースマンの2人組。
不意に、無意識に強く拳を握っていた事に気づく。
・・・・これは私の勝手な報復。分かってる、こんな事しても無意味だって。

私の優勝して望む事は───


コンコン、と扉を叩く音に私は顔を上げた。扉を開いた先には決して良いとは言えない身形の中年の男性。
一回戦目の相手のエミタイさん・・だっけ?確か娘さんがご病気で大会に参加したっていう話。

さん・・・でしたよね。ええと、私は・・」
「エミタイさんですよね?一回戦目のお相手の」
「いかにもそうです。覚えていていただいて光栄です。それで・・その・・・お話があるんですが・・」
「?・・はい、何でしょうか?」

あと少しで戦いが始まるのに話?見ればがっくりと項垂れるようなエミタイさんの姿。

「ご存知かもしれませんがうちの子は身体が弱くて・・・。
手術をすれば治ると言う話なのですが、それには膨大なお金が必要です。
ですが、お恥ずかしいながら我が家はあまり裕福ではなく、今も娘の治療費の所為で日々の暮らしを圧迫している有様でして・・。
この大会で買ってお金を作り・・何とかしてでも治してやりたいのです」

必死なエミタイの姿。それに私はただ頷いてみせる。

「・・・そうですか。それはお気の毒ですね。
それで・・・・つまりは私に負けろと?」
「真に申し上げにくいんですが・・・・そうして頂かないと我が子の命が!!」
「・・・・そんなに病は重いのですか?」
「えぇ、一刻も早く手術をする事を奨められています」

でも、私は知っている。というより控え室の近くにいた娘さんを見かけてしまった。
子供特有のふっくらとした色艶の良い顔。一生懸命ゴホゴホと“口で言う”姿。
一体誰の指示なのか、何の為にそれをしていたのか分からなかったけど・・なるほどね。
ボロボロの服を着て、病気のフリをして、精一杯にお父さんのお手伝いをしていたんだなぁって思う。

「・・・・・・でも、そんな重いご病気にしては肌の色艶が良かったですね。エミタイさんのお嬢様」
「え?・・・・えっと・・・」
「それに、こんな場所に連れて来て良かったんですか?
砂埃も酷いですし・・決して良い環境とは思えないんですけど」
「そ・・それは、娘が来たいと・・・」
「娘さんのお身体よりも、我侭を優先させたんですか?
そんな、手遅れになったらどうするつもりなんです!?
もし優勝して賞金を頂いたとして、いざ治療・・という場面になって既に手遅れでは意味がありませんよね?」
「あ・・う・・・そ、それは・・・」

次々批判すれば口篭る姿。それなら娘さんを家に置いてきて“病気”なんだって写真を見せた方が有効だと思う。
流石に私だって弟がいたんだからそれ位は分かるつもり。栄養を取れてなかったティーポは本当にボロボロだったから・・・。
それ以前に、そうやって誰かを騙して勝利するなんて信じられない。

「あの、エミタイさん」
「は、はいっ!!」
「1つ質問するので正直に答えてくださいね?その返答次第によっては考えますから」

“何を”とは明確に言わない。それでもエミタイさんは“はい、何でしょうか?”と逆に問う。
彼に真剣な瞳を向ければ同じように真剣な瞳を返された。

「貴方のお嬢様は、本当にご病気ですか?」

黙り込む、しかも一瞬だけ顔を歪めるというオマケ付きで。それは娘さんは別に病気でも何でもない事を明白にしていた。
それだけで私は満足だった。本当に治療費を求めているのなら、それが全て真実なら私は身を引いたかもしれないけど、でも・・・・。

「もうそろそろ試合が始まりますね?」
「え・・えぇ、それでは私は控え室に戻ります・・ね」

こそこそと退散するエミタイの姿。ふと見ればバニーガールのお姉さんが私へ感心した瞳を向けていた。・・・な、何?

「凄いですね!さん!!私、娘さんを見ても全然分からなかったですー」
「あははは。こう見えて貧乏も飢えも経験済みなので。弟も2人いましたし・・」
「・・あ。ご、ゴメンナサイ。私悪い事を聞いちゃいましたね・・・」
「いえ、大丈夫ですよ。今は離れていても、絶対に会えますから」

ニッコリと笑えば、バニーガールのお姉さんが両手を組んで私を見るのが分かる。何故か尊敬に近い瞳。

「頑張って下さいねさんっ!!私、ずっと貴女を応援してますっ!!」
「えと・・あ、ありがとうございます」

とりあえずお礼。それより、ティーポもレイも元気かなぁ・・・なんて。ツライ思いをして無いと良い。
リュウもババデルさんのトコで大人しくしてるのかな?元々ティーポみたいにヤンチャする子じゃないけど・・・。
早く2人を見つけて、また皆と一緒にシーダの森に住みたいなぁ。それが私の願いなんだから・・・。


あ、問題のエミタイ戦なんだけど。魔力をちょっと溜めてからマジックボールで1発だったんだけど・・・あれ?
うーん・・これは師匠が良かったのか、それともエミタイさんが弱かったのか・・・。きっと前者だよね。うん。
それより“ゴホゴホ言わなくて良いのー?”なんて言う娘さんと、結局仲良しな家族の姿が少しだけ羨ましかったのは秘密。

・・・・さて、次の対戦相手を確認しなきゃね。
淋しくないなんて自分に言い訳しながら大きく張り出された対戦表を眺める。
えーっと・・・私がここに名前があるから・・・・名前は、リュウ?

「え?リュウ?」

よーく何度も確認するけど、やっぱりそこに書いてあるのは“リュウ”という名前。
そんなまさか・・・偶然名前が一緒なだけの別人だよね。
だってリュウは今ババデルと一緒にいる───


「ねぇちゃーーんっ!!」
「きゃっ!!」

思わず突き飛ばされてソレと共に床に倒れる。腰の辺りに思い切り衝撃が痛い・・って今、姉ちゃんって言った?
視線を下げれば腰の辺りにしっかりしがみ付いて涙をいっぱいに溜めたリュウの姿。

「本当に、リュウ?」
「うん!!」

一生懸命に何度も頷く姿。変わらない・・・ううん、少しは逞しくなったように見えなくはないけど、それでもやっぱり泣き虫。
元気そうな姿に安堵する反面、やっぱり疑問が過ぎった。

「・・・・えっと、どうしてリュウが此処にいるの?」

これからの事とか全部置いといて、それだけが頭にあった。



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