鳥篭の夢

幼年期/捜索と報復と02



「───・・つまり、この大会にはお友達を助ける為に参加したのね?」

確認するように訊ねるとリュウは何度も頷いた。
人質にされたお友達を助ける為には何が何でも優勝しなければいけないらしい。
それよりも、リュウが滅びた竜族とか・・・一通り話を聞いたけど、あまりに突拍子が無い内容にどう反応すれば良いのか分からない。
あの泣き虫リュウが竜族なんて・・驚かない方がおかしいと思う。それに・・・・

「リュウ、良かったね。お姉さんが見つかって」
「うん。ニーナが探すのを手伝ってくれたから・・」

嬉しそうな2人の姿。私は“ニーナ”の姿に動揺していた。
まさかこんな場所にいて、こんな形で再会するなんて思わなかった。
ううん。ニーナは本当に小さかったから私の事なんて全然覚えていなかったし、それを明かそうとは思わないけど・・・。
でも・・そっか、こんなに大きくなったんだなぁって時の流れを実感。もう二度と会う事なんて無いと思ってたから変な感じ。

不意にチラリと私を見る視線が、私の黒翼に向いたのだと分かって一度苦笑。
やっぱり気になるよね・・ウインディアの人間なら。

「黒翼は初めてご覧になられたのではないですか?ニーナ王女様」
「え?あ・・・はい」
「申し訳御座いません。この様な不吉を王女様の御目に触れさせるなど御無礼を・・・」
「姉ちゃん?」

リュウが不思議そうな瞳で私を見る。そういえば、リュウには言った事が無かったっけ・・ティーポにも。
シーダの森にいた頃は、皆が自然に受け入れてくれたからすっかり忘れてた。
私はウインディアにとって不吉を背負った存在だって事。

「リュウ。あのね、ウインディアでは黒い翼は“不吉”だと言われているんだよ」
「あ!で、でもそんな事無いですっ!!ただ、黒い色もそんなに大きな翼も初めてだったから・・・。
それに、黒い翼が不吉だなんて御伽話でしょう?」
「確かにそれについては伝承の域を出ておりませんが・・それでも忌嫌われる物に違いはありませんわ、王女様」

一生懸命否定してくれる姿が嬉しい。城にいた頃の懐かしい記憶を思い起こす。
本当は、そんな事無かった。一部を除けばだけど・・皆は私に優しくしてくれていた。懐かしい思い出───と、不意に服の裾を引っ張られる感触。
見れば、リュウが淋しそうな瞳で私を見る。・・・リュウ?どうしたの?

「別に姉ちゃんは怖くないよ。ぼく、姉ちゃんのこと大好きだもん」
「そっか。ありがとう、リュウ!」

少しだけ照れたような表情。唐突の言葉に驚いたけど、それと同じ位に嬉しいと感じる。
あぁもう!本当に可愛いんだから、うちの下のちびさんは!!
思いっきりリュウを抱き締めて、それから橙色の髪を2つに分けて三つ編みにしている女性へと顔を向けた。名前は確か・・モモさん。

「あ。えっと、モモさん・・でしたよね。
すみません、今までリュウが面倒をかけてしまって・・」
「あら~モモで良いわよ、
私達きっと年齢も近いと思うし、敬語なんて気にしないで~」
「そうですか・・あ、じゃなくて・・・・・・そう?」
「えぇ、そうよ~。それにリュウと一緒にいるのは結構楽しかったわよ~?」

間延びしたおっとりとした口調。ニッコリと柔らかい笑みを浮かべる彼女は、その服装以外で“学者”というイメージは見られない。
それでも彼女が抱えている身の丈近いバズーカを見れば、多少なりとも機械に詳しいのだとは理解出来た。
それにしても・・・でっかいなぁ、そのバズーカ。野馳族は力が強いって言うけど、本当なんだってしみじみ納得。

「あ、あの・・・わたしにも敬語はいらないです。今は城にいる訳でもないですし・・・・」
「そうですか?それではお言葉に甘えさせていただきますね」

もごもごと口の中で言葉を転がせるニーナの姿は可愛らしい。翼が見えないのは服に隠れちゃってるんだろうな・・・。
白くて綺麗なのに残念。と、それから思い出したようにニーナが顔を上げる。

「それで、さんはどうしてこの大会へ?」
「私?私はこの大会のスポンサーがバリオとサントだって聞いたから・・何か情報があると思って参加してみたの。
でも・・そっか。あの2人は懲りずにずっとうちの弟に手を出してたんだね・・・・」

沸々とした怒り。竜族だからって見世物にしようなんて許せない。
何とかして懲らしめて・・・なんて考えるのはレイの影響だろうけど。
と、見れば慌てるような困ったようなリュウの姿。ごめんごめん、別にリュウに怒ってるんじゃないからね?

「まぁ、何にしてもリュウが無事で良かった」

よしよしと頭を撫でれば、リュウは少しだけ照れた様に瞳を閉じて撫でられる。可愛い・・大切な私の弟。

───ワァァァー・・・

「・・あ!試合・・・!!」

聞こえる歓声に、思い出したようにニーナが叫ぶ。・・・・私もうっかり忘れてた、試合の事。
でも対戦相手はリュウなんだよなーって思ってチラリと視線を向ければ皆も如何したものかと悩む姿。
まぁ私が負けるのは大前提として、とりあえず棄権が一番良い方法・・・だよね?

「あ、すみません。こんな時に申し訳ないんですけども、私この試合棄権で良いですか?」
「えーっと・・・本当に良いんですか?」
「あ、はい。それは大丈夫です。ご迷惑かけてすみません」
「いえいえ。分かりました」

控え室にいるガードマンさんに事情を伝えれば、納得したように頷いて場内へと消えていった。
暫くの沈黙の後、どよめきが会場を支配する。
・・・うわ、凄いブーイング。やっぱりもっと早く言えば良かったかな。

「あ・・姉ちゃんはこれからどうするの?」
「んー、迷惑じゃないなら一緒に行こうかな?レイとティーポを探さなきゃ・・・でしょ?」
「うんっ!!」
「良かったね、リュウ!」

ニーナがリュウの手を引いて嬉しそうに飛び跳ねる。まぁ、今更ババデルのトコに帰れとも言えないしね。
話に聞いてる限りでは多少なりとも強くなったみたいだし・・・無理は言えない。

それから次の対戦相手を見に行こうと会場を出ると、巨大な身体を持つ男が立っていた。見た事の無い種族。
その男は“決勝に残るとは、やはりまぐれでは無いな”と一言告げると去っていく。

「あぁ、あの人が君達の次の相手のガーランドだよ」

と近くにいたガードマンが教えてくれた。
ぇ・・・・・・あの人とリュウが戦うの?ちょっと無謀すぎない?

結局相手の方が来てくれたおかげで、私達は対戦表を見る事無く次の会場の控え室へと向かった。
やっぱり緊張しているのかリュウの表情が何時もより硬い気がする。

「リュウさーん!入場してください!!」
「は・・はいっ!!!」

まるで飛びあがる程に驚くリュウの姿は、私が思わず苦笑するほど。

「リュウ、ちょっと待って」
「え?」

歩き出そうとする姿を止めて顔を私に向かせた。
如何したのかと困惑するような不思議そうな顔。頬をそっと包み込む。

「緊張しなくても大丈夫。シーダの森にいた頃より、ずっとリュウは強くなってるよ。自信持って行きなさい」
「う・・うんっ!!」

強く頷く。さっきよりもずっと真っ直ぐな瞳。
・・・・・う~ん、これで少しは緊張が解れてくれたかな?
今度はしっかりとした足取りで会場へと進んでいく。その後姿を私達は見送った。



inserted by FC2 system