鳥篭の夢

幼年期/捜索と報復と03



ざわめく会場の空気。歓声と罵倒と色んな声が混ざった音。その中で一際大きくアナウンサーの声が響いた。
会場を盛り上げながらもリュウとガーランドさんを入場させて・・・って、何?“スーパーお子様”と“ミスター・ダイナマイツ”って。
ツッコミどころ満載のアナウンス。
気が抜けそうになった直後に、ガーランドさんの“全力を出さないと死ぬ”っていう言葉が酷く不穏に響く。
胸中には僅かな不安。無事で戻ってきてくれれば良いんだけど・・・なんて思いも虚しく、勝敗は一瞬だった。

リュウの悲鳴───

一瞬場内が静寂に包まれて、直後歓声が響く。
決着が着いた。リュウの敗北なんだよね。ケガは・・どうなのかな?
不安で既にアナウンスの声も周囲の音も何も聞こえなくなっていた。ただ、今すぐに駆け寄りたい衝動を抑えながら運ばれてくるのを待つ。
担架で運ばれたぐったりとした姿にドクリと心臓が鳴った。
送り出したのは私だけど・・・胸が苦しい。死んではいない、ケガも酷くないし血色も良いからそれは一目で分かる。
気を失ってるだけ。それでも酷く苦しかった。

「アプリフ」

回復魔法をかければ、身体のケガはあっという間に完治した。
大分手加減をしてくれたんだろうな。本当に重症ならまずアプリフ程度じゃ治らないから。
不意に気配を感じて振り返ると、そのケガを負わせた張本人の姿。

「手加減していただいてありがとうございます、ガーランドさん」
「ふむ・・・」

「あ、リュウ!目が覚めたのね。良かった!!」

漸く起き上がったリュウにニーナが勢い良く飛びついた・・ってニーナ。まだリュウは一応、怪我人なんだけど・・・。
大丈夫そうだから良いのかな?とにかく、リュウが無事で良かったってそんな言葉しか出てこない。
リュウは何が起こったのか分からないっていう顔できょろきょろと部屋を見渡していた。

「・・・・手加減はしたつもりだが?」
「あ・・」

ガーランドさんを発見して何度も頷くリュウの姿。
それに満足したようにガーランドさんは瞳を細める。

「よろしい・・・。で、お前達の身柄は俺が預かる事になった」

そんな事を優勝の願いに使ったんだ。リュウが心配で全然聞いてなかったけど・・・えっと、どうなるんだろう?

「・・・ふむ、そうか。そういえば人質がもう1人いるんだったな」
「あ。私達も行きましょうか」

先に進んでいくガーランドさんの後姿を見ながら尋ねる。リュウは何度も頷くとベッドから飛び降りた。
全然平気だと言わんばかりの姿だけど、ちょっとだけ心配で、頑張ったリュウを褒めてあげたくてそっと頭を撫でる。

「リュウ、お疲れ様。よく頑張ったね」

そう言えば、一気にリュウは瞳に涙を溜める。勝てなかった悔しさが溢れ出して止められないのかもしれない。
私の腰の辺りに思い切り抱きついて、声を上げる事は無かったけど涙を零すリュウに、私はただ頭を撫でてやる事しか出来なかった。

漸くリュウが落ち着いて、それから私達はその人質が捕まっている部屋へと赴いた。
扉を開けると同時にバリオとサントに凄むガーランドの姿。

「では、こいつは貰っていくぞ?」

先程よりもずっと低い声に、あのバリオとサントが怯えたように何度も頷いてみせる。それは本当に不思議な姿だった。
そうしている間にリュウが人質・・・・って、あれは何だろう?植物に顔と足が生えてるんだけど・・・。

「あの、モモ?1つ聞いても良い?」
「なぁにー?
「あの子が人質の仲間・・?っていうか、人?」
「人じゃないと思うけど、そうよー。変異植物のペコロス」
「そ、そうなんだ・・・」

面白いお友達がいっぱい増えたんだね、リュウ。ちょっとペコロスは意外だったかもしれない。
とにかくその巨大玉葱のペコロスと合流したのを確認して、ガーランドさんがリュウへ視線を向ける。

「・・・さて。お前達、帰って良いぞ」

言葉に全員が頷いて部屋から出た。私も同じように・・・あ、レイとティーポの事何も聞けなかったな。
部屋の外で待っているとガーランドさんが部屋から出てきて、ニーナが不安そうな瞳を向ける。

「なぜ、わたし達を助けてくださったの?」
「・・・ふむ。それはリュウが・・・・竜族、だからだ」

その言葉に皆が言葉を失った。勿論、私も。ガーランドさんは尚も言葉を続ける。

「リュウよ。助けた礼とは言わんが、もし竜の血を知りたいと思うのであれば・・・東の地に“天使の塔”と呼ばれる遺跡がある。
そこへ来てもらおう。・・・・待っているぞ」

そうとだけ言い残すと、ガーランドさんは会場を出て行った。チラリとリュウの顔を見る。困惑するような表情。
だけど自分の種族の事を知りたくない訳無いと思うんだ。竜族は強い力を持った種族だというし・・・やっぱり少しは気になるよね。
と、リュウと目が合った。まるで助けを求めるような瞳。

「リュウは如何したい?自分の種族の事、知りたい?」
「でも、兄ちゃんとティーポも探さなきゃ・・」

それが、リュウを悩ませる理由の1つ。
レイとティーポも探したいという葛藤が胸の中にあるんだと思う。

「じゃあ2人を探しながら天使の塔を目指したら如何だろう?もし2人の手懸かりがあればそっち優先して・・ね」
「・・・・うん」

ゆっくりと頷く。多分、今のリュウにはどちらか1つ・・なんて選べないと思う。
私だって強制したくないから、そんな提案しかできない。それでも納得してくれたリュウの姿にほっと胸を撫で下ろした。
きっと大丈夫だよ、リュウ。2人が揃ったんだから、きっとレイもティーポも見つかると思うの。



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