鳥篭の夢

幼年期/東への経路02



「ねぇ、。ハニー知らな~い?」

ゴソゴソとテントからモモが顔を出す。困ったような悩むような表情。
通行証を貰って、陽も傾いてきたからって一旦此処で休む事にしたんだけど・・・ハニーってあれだよね?モモと一緒にいた小さい子。

「私は知らないけど・・いないの?」
「そうなのよー!も~、何処に行ったのかしらー・・?
お~い、ハニ~~~~・・」

遠くを見渡すようにしてモモがハニーの名前を呼ぶ。
それだけで彼女にとって大切な子だって良く分かった。
私とリュウも一緒に探そうとして立ち上がって・・・・ん?向こうから・・何か来る音??

「ハニー・・・・・?って、ニーナっ!!?」

予想外の人物登場・・・ど、どうしてニーナが此処にいるの?それに、その抱いてる子ってもしかして・・。

さん、リュウ!それにガーランドさんも・・」
「どうして此処にいるの?ニーナ」
「あ、あのっモモさんは・・・───」

「あら~~!ニーナじゃない!!」

どうやら探し人はモモだったみたいで、姿を見せたモモに慌てて駆け寄っていく。

「モモさんっ!!ハニーが・・ハニーがっ!!」

今にも泣いてしまいそうな涙声でニーナがハニーを持っていく。モモはハニーを見ながら首を傾げた。

「う~ん・・・ゴースト切れかしらー?とにかくテントの中に持ってきて?」
「ほら、ニーナ。ハニーは大丈夫だから・・ね?」
「うん・・うんっ!!」

ゴシゴシと一生懸命涙を拭いてニーナは頷いた。そのままモモと一緒に私もテントの中へ行く。
モモはハニーを調べながらも、ハニーの事を少しだけ教えてくれた。
彼女自身も詳しい事は分からないみたいだけど、どうやらあの子は機械兵なのに他の物と違って戦闘能力がないという。
それから無事だと分かって安心したニーナがテントから出て行って、直後に突然叫んだのが聞こえた。

「・・ニーナ!?」

「どうしてリュウが死ぬなんて言うの!?
リュウはドラゴンの事を調べに行くだけなんでしょう??」

死ぬ・・・?リュウが?突然の言葉に思考が回らない。

「世界を破滅させる程の力を持つ生物だから、その位の決意が必要だという事だ」
「リュウはそんな危険なドラゴンなわけ無いわっ!
リュウはいつも竜の力でわたしを守ってくれたもの!!
・・・・・・わたしも行きます!!」

強い瞳。ハッキリと告げる言葉・・・・て、ニーナも来る??

「ニーナ、勝手にそんな事を決めて良いの?」
「でも、わたしの知らない所でリュウが死んじゃうなんて嫌なの!
リュウは悪いドラゴンじゃないものっ!!」

強く叫ぶと、ニーナはそのままテントの中の寝袋へともぐりこんでしまった。
残された静寂と炎の爆ぜる音。
薪をくべるガーランドさんの隣に座って炎を眺めた。

「ガーランドさんが先程何を言ったのかはわからないですけど・・・リュウもニーナもまだ子供です。
それがたとえ決意を促す為でも、あまり直接的な言葉はショックだと思いますよ」
「あぁ、そうだったな。・・・・今のは俺が悪かった」
「いえ。どちらにせよリュウを簡単に死なせるつもりはないですしね。
リュウは私が守ってみせる・・・」

それは決意。
リュウに・・・大切な弟に対して簡単に“死ぬ”なんて言って欲しくなかった。そんな姿見たく無い。
私より先なんて事は・・絶対にあって欲しくない。肩にぽてりと重みを感じて、見てみればリュウの姿。
まるで私を安心させようとする姿に、そっと笑みが漏れた。

───守って見せるよ、リュウ。私の命に代えても・・・きっと。


でもまぁ、次の日。関所に向かった私達には何よりも“ニーナ”という1つの難関があった訳だけど・・・。

「俺の娘に、何か・・・?」

怪しむ兵士にそう凄んで見せたガーランドさんの姿が、何だか酷く面白くて笑いを堪えるのにちょっと大変だった。
多分、関所の兵士達の慌てる姿も一緒だったから。必死の言い訳・・・案外簡単に通れちゃうもんなんだなって思う。
つり橋の途中でニーナが大きくため息をついて、それで私も思わず声に出して笑った。

「あービックリしたぁ」
「でも良かった・・・。ありがとう、ガーランドさん。誤魔化してくれて・・」
「気にするな。リュウが何度も守ったと聞き、力を出すのに必要ではないかと思ったからだ。
竜の力を出してもらわんと、意味が無いのでな・・・」

男の子としてニーナを守ってるんだって思うと成長したなぁって実感する。
昔は私の後ろに隠れてびくびくしてたのにね。
今も甘えたさんなのは変わらないけど、でも守ろうって思ってるからか戦い方も違う。今は敵を真っ直ぐ見据えて剣を振るえる。
強くなった証拠だよね・・なんて思ってると、不意にニーナが複雑そうな瞳をリュウに向けた。

「ねぇ・・・リュウが、竜の力を使うのはわたしの所為?わたしを守る為?」

何も答えずに、先に進もうとするリュウの行く手を阻む。

「・・・だったら、わたし強くなるから!!
そうすればリュウは竜の力を使わないで良いし、竜の力の所為で危ない目にあわないですむから・・ね?」

それにリュウはどこか恥かしげにほっぺたを掻いてから“ありがとう”と返した。その後姿を私達はただ見守る。


「あらあら、青春ねぇ~」
「若いって良いねぇ」
「ぷき?」
はどうなの~?」
「私は別にもうそんな感じじゃない・・って何言わせるの!?」
「ふふ~、良いわねぇ」
「むぅ・・・それじゃ、モモはどうなの?」
「私は機械とペコロスがあるから充分よ~」
「・・・・うーん・・まぁ、モモが幸せならそれでも良いとは思うけどね」
「ぷきゅう」

・・・何だか余計な事を言った気がするけど・・まぁ、良いか。



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