幼年期/東への経路04
あれから、ベイトさんの修行の日々が始まった。
と言っても彼はとても努力家で、成長自体早かったけど・・・。
凄いなぁ・・この間までニーナのバルで一撃だったのに、今はそれも耐えてる。防御のタイミングも上手になった。
と言うか打たれ強くなったのかな・・・?でも、これならもうそろそろ挑戦しても良いと思う。
それは皆も感じてたみたいで、翌日リュウがその事を口にすればベイトさんは驚いたように首を横に振った。
「そっ・・それは・・・まだ自信が・・・・・」
「そうですか?ベイトさん、凄く強くなったと思いますけど」
「あ、ありがとうございます。さん、でも・・・」
うーん・・強くなったのは本当だけど、ここまで逃げ腰なのは本人も言う通り自信が無いから。
リュウへ視線を向ければ如何しようかと困ったような表情。これ以上修行を続けても仕方ないもんね。
船が戻らないのが灯台の所為ならあんまり先延ばしにしても仕方ないし・・。
「何だって!!」
耳に痛い程の大声。見れば、今の会話を聞きつけたジグさんがこちらに歩み寄ってくる。
「おい、ベイト。・・お前灯台に行く気なのか?」
それに追い討ちをかけるように“お前なんてお呼びじゃない”と、猿の亜人である高山族の男が声を上げる。
ジグさんを“アニキ”と呼んで慕ってるのは分かるけど・・ちょっと言葉が過ぎるようにも思える人。
普段ならそう言われてしょげてしまうベイトさんだけど、今日は少しだけ違った。
「そ・・そんな事っ!!」
「がっははは!この俺に勝てないヤツが、灯台に行っても意味無いぜ!?」
「どうしても行きたいって言うならアニキと勝負しなっ!!」
自信満々なジグの姿。結局、夜に2人の決闘を行う事になってしまった。
・・・・・・勿論、私達も“応援”という名目で。
夜になって、ここ数日修行に使っていた場所に皆は集まっていた。
皆と言っても決闘する2人とシャッドさん、それと高山族の・・名前はツネキチさんと言うらしい、と私達全員。
「灯台に向かうのはアニキかベイトか?そいつを決める事にするぜ!
良いか?これは決闘なんだからな!いくら修行してやったからって手出しとかすんなよ!??」
「それ位、分かってるわよー」
「そうよ!ベイトさんなら絶対に勝つもんっ!!」
モモとニーナがツネキチさんの言葉に反論する。まぁまぁ、落ち着いて皆。
リュウが少しだけ心配そうな視線でベイトさんを見つめるのは、多分ジグさんの力量が分からない不安からかな?
「リュウ。きっと大丈夫だから・・ね」
「う・・うん!」
「ぷきゅうー・・ぷふー・・・」
「あ、ペコロス寝ちゃった」
壁に凭れ掛かって眠ってしまったペコロスの姿にリュウが小さく笑みを零す。すやすやと眠る姿。
まるで癒されるような空気を放っているけど・・・今はそれを見て和んでる場合じゃない訳で・・・。
真剣なベイトさんの表情と心配そうなシャッドさんの姿。それとちらちらシャッドさんを意識してるジグさん。
「それじゃあ行くぜ~~~・・・・・・・ファイトッ!!」
───カァンッ
ツネキチさんの持っていたゴングが高らかに鳴った。と、ジグさんが余裕の表情で拳を鳴らす。
ベイトさんの持っている剣は修行用で刃が潰れて切れないけど、扱い方ももう大分上手いから当たれば結構痛い。
だけどそんな事も、間合いとかも全然気にしないでジグさんは猛攻をかけてきた。
どちらかと言うと避けるより受け止める防御で強くなっていったからか、ベイトさんは何度もその攻撃を受ける。
吹っ飛ばされて・・倒れて・・・・・でも、やっぱり立ち上がるんだよね、ベイトさん。
「ベイト・・・」
不安そうにシャッドさんが名前を呼ぶのが聞こえた。ボロボロになってそれでも立ち上がる姿。
モモが少しだけ悩むようにその姿を見る。
「ん~~・・本当はコッソリ回復位しようかと思ったけどー・・」
「別に必要なさそうっていうより、寧ろしない方が良いよね」
「え?え?」
「野暮な事はしちゃ駄目って事だよ、リュウ。これは2人の戦いだから・・」
その答えに分かったのか分かって無いのか、曖昧に頷いて返す。それでも良い子だとリュウの頭を撫でた。
まぁ、今ここで手を出したらベイトさんはずっと自信を持てないかもしれないっていうのも理由の1つなんだけどね。
それから皆で応援する。初めは劣勢だったベイトさんだけど、それも徐々に逆転してきた。
毎日必死に特訓して今だって真剣に決闘に挑むベイトさんと、自分の実力を過信して今だってシャッドさんを気にしてるジグさん。
そんな勝負じゃあ、結局の勝敗なんて分かってしまう訳で・・・・。
ベイトさんの必死の一撃がジグさんの脳天に叩き込まれて、ジグさんはそのまま倒れてしまった。
「か・・・・勝った・・・?」
ベイトさんがそう呟いて・・気が抜けたのか、そのまま座り込んでしまう。シャッドさんが慌てて駆け寄る姿。
向こうではツネキチさんが叫んでいるけど、私達は気にせずにベイトさんの方へと駆け寄った。
「ベイト・・こんなに、ボロボロになるまで頑張って・・・」
「いや・・皆さんが力を貸してくれなければジグに勝つ事は出来なかったよ・・・」
「そ・・そんな事・・・」
慌てるリュウに、ベイトさんはゆっくりと首を横に振った。
「いいえ、分かってますよ。今回ジグに勝てたのは皆さんのおかげです。
でも・・・・・何もしなければ、何も起こらなかった・・・」
「え?ベイト・・・?」
シャッドさんが不思議そうな顔をする。ベイトさんの真剣な瞳が・・そっちへ向いて・・・
「シャッド・・君の力になりたい。2人でギルドをやっていこう・・・?」
「っ!・・・ぁ・・・・・うんっ!!」
ベイトさんの真剣な言葉、それにシャッドさんも涙を零して頷いた。
・・・・・・・良いなぁ。なんて少しだけ羨ましい想い。
あんな風に自分の為に頑張ってくれて、それであんな風に言ってくれるなら・・・・・。
最初はちょっと嫌かもって思ってたけど実際に目の当たりにすると素敵なんだって思わされる。
「あぁぁアニキィィ~~!!
あんな事言ってますぜ!しっかりして下さいよアニキ~!!!」
後ろから聞こえるツネキチさんの言葉だけが、ちょっとだけ残念だったけど。
でも上手く行って良かったってニーナはとても嬉しそうで、同時にとても満足気だった。