鳥篭の夢

幼年期/妖精の頼み事02



「うーん・・何か上着持ってくれば良かったかも・・」
は薄着だものね~」

動きやすさを考えるとついつい軽装になりがちになるんだけど。でも、夜の砂浜は思ったよりも寒い。
まぁ凍えるほどじゃないし、丸1日此処にいろって言う訳でも無いから大丈夫だとは思うけど。
ちなみに今現在、此処にいるのはリュウと私、ニーナ、モモの4人。
ガーランドさんとペコロスの2人には、灯台を点けた事を伝えに行ってもらった。
流石に1対4なら勝てるだろうし、誰でも良いから早く伝えておいた方が良いと思ったから。

「でも、何が来るのかなー・・?」
「如何だろうね?流石に向こうまでは見えないしなぁ・・」

こういう時、夜目がきかないのは致命傷だと思う。敵がどこから来るのかすぐに分からない。
翼を使って大きく飛び上がっても、遠くは暗くて何も見えなかった。───トンと飛び降りて、待つ。
本当にモンスターなんて来るのかな?・・・なんて疑いたくなる程穏やかな海。

「あー!あれー!?」

モモの声に皆集まる。海のずっと向こうの方・・こっちに来る赤い背ビレが漸く目に入った。

「来たみたいねー」
「じゃあ海から顔を出したら攻撃・・・で、良いかな?」
「はい!」
「う、うん!」

私の提案にニーナとリュウが頷く。
ゆらり、近づいてきたそのモンスターと思われる者が水面から顔を出した瞬間。

私達は一斉に攻撃を仕掛けた。


『キュキュ・・・ッ!!』

「・・て、あれ?」
「これって、モンスター?」
「うーん・・イルカに見えるわねー」

ニーナがイルカに近づく。私とリュウも不安だから一緒に。
・・・と、イルカが目を開けてゆっくりと身体を起こす。
何とか大丈夫みたいだね、良かった。

『い、痛いなぁ・・いきなり何しはるんですか?』
「ご、ごめんね?」
「モンスターが来るって聞いてたからー・・」

モモと私が謝る。
と言うか、イルカってマニーロみたいな喋り方するんだね。

『まぁ、間違いは誰にでもありますよ。ここは穏便に話し合いましょう?』
「・・・なぁんだ。大人しいイルカさんだったのね。
妖精さん達はこんなイルカさんが怖いのかしら?」
「うーん・・違うヤツがいるのかなぁ?」

ホッとするニーナに、リュウが悩む。
そうだよね、あんまり悪い子には見えないし・・・。

「とりあえず、妖精の皆を呼んで話を聞いてみましょ?」
「そうねー。それが良さそう」

妖精を襲うって話なのに“穏便に話し合いましょう”って、何だか変。
妖精が話を聞かなかっただけ?それともやっぱり何かあるのかな?
・・・・・・・・って、歩きながら考えてたけど、あれ?

「リュウは?」
「えー?あら、そういえば・・」
「イルカさんと一緒に待ってるのかも」

不安。あのイルカに害が無くても、その間にモンスターが来たとしたら?
多分、イルカに戦う能力なんて無いだろうから・・・・実際にはリュウ1人だけって事になるんだよね。

「私、ちょっとリュウの所に行ってくるね」
「え?さん??」
「2人は妖精の皆を連れてきて!!」
「・・・わ、分かったわー」

モモの声を聞きながら走る。嫌な予感が当たらないと良いんだけど・・・

「リュウ!大丈夫・・・って、どうしてびしょびしょなの?」
「あ、姉ちゃん!!」

困惑したような、今にも泣きそうなリュウの表情。
思い切り抱きつかれて・・あらら、海水でべったべた。
海にでも足を滑らせたのかと訊ねれば首を横に振って、イルカに視線を向ける。さっきと・・雰囲気が違う?

「何があったのか教えてくれる?」
「あのっ。あのね、姉ちゃん達が行っちゃってから・・・」

『え、えっと・・いやぁ、別に何も無いんですよ?ほんまに』

「あ~~っ!!アイツだわよう!!」

妖精の声が響く。
ふうわりと姿を見せてイルカを睨み付ける妖精達。
その後を追うようにモモ達も不思議そうな顔で駆けつけた。

「えー?これがモンスターなの?」
「灯台を消さないとあたし達を食べるって言ったのよう!コイツったら!!」
「え!そうなの!!?」

ニーナが信じられないと瞳を向ける。

『いえ、ねぇ・・・明かりが眩しくて寝られへんので、ちょお光を消して来てもらおかなぁ~なんて、ね』
「だったら自分で行けばいいのよう!ばか」
「そうよう、ばか!どうしてあたし達をいぢめるのよう!!」
「どっか行っちゃえ、ばかイル・・!!」

じゃっかしぃわいっ!!チビどもっ!!!!


「「「きゃーっ!!!」」」

怒鳴る声、水面から出た大きな身体、伸びた角。そして・・・一転した態度。こっちが本性みたい。
罵倒の言葉を投げかけていた妖精達が一斉に逃げ出した。
それにしても、よくこれだけ大きな身体を隠せてたなぁって少しだけ感心。

「ワレ、火で炙ってサクサクッといてこましたろかぃっ!?」

散り散りに逃げていった妖精達に喚き散らした後、その視線が私達へ向いた。・・・戦わなきゃダメそう?

『こうなったからには皆殺しじゃ!覚悟せいっ!!』
「そ・・そんなに簡単にはやられないんだからっ!!」

ニーナが恐々と杖を握り締める。私も、皆も武器を構えてイルカへと向けた。・・・でも、頑丈そうな身体。
まるで甲羅のようなものに包まれてるみたいで、物理攻撃は受け付けなさそう。
実際、リュウが斬りつけてみたけどあんまりダメージらしきものは見られない。

『だぁっ!うっとーしぃわ。お前らっ!!』
「へ?」

イルカが回転するように尻尾を大きく振り回す・・・と・・大きい波がこっちに・・・!?

「きゃっ!!」
「わっ!!」

逃げる間も無く波に飲み込まれる。
上下左右の感覚を奪われて思い切り転がって、漸く波が引いた所で思い切り噎せた。
見れば、巻き込まれたのは私とリュウだけでニーナとモモは無事に避けれたみたい。

「・・・っは、ビックリ・・したっ!」
「だ、大丈夫ですか?さん、リュウ!!」
「う、うん・・何とか・・・」
「ぼくも、へーき・・・」

モモがバズーカを撃って追撃を防いでくれてたみたいで助かった。
もう一発今の津波が来られたらちょっと辛いなぁ。
何とかしてそれまでに倒したいんだけど・・・・・あ。

「そうだ。ニーナは魔力って溜められる?」
「え?えっと・・多分。でも方法はわからないです・・」
「そっか。じゃあ普段よりももっと集中してみて。
魔力を杖に集めるイメージで。それからババルを使ってみて」
「は、はいっ!!」

水中だし、ババルだったら結構効くと思うんだけど・・どうかな?
とりあえずニーナの攻撃準備が整うまで皆で時間稼ぎ。
魔力を纏わせていても、私の短剣じゃあまりダメージが通らない。
モモのバズーカは衝撃のおかげかまだ良さそうには見えるけど・・。
仕方が無いから、私とリュウで回復とサポートに回ってダメージを軽減させる事にした。と、ニーナが漸く顔を上げる。

「行くわよー!!ババルっ!!」

杖を高々と天に上げ、放出された魔力が一気に空へ伸びる。直後、イルカの頭上に落雷が落ちた。

『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』

海にまで電気が広がり、イルカを一気に包み込む。叫び声と共に黒こげになったイルカは海へと沈んでいった。
良かった、どうにか倒せたみたい。そのままゆらゆらと沖に流されていくイルカの姿を見送って、大きく息を吐いた。

「今の凄かったわね~、ニーナ」
「ぼくもビックリした」
さんが教えてくれたおかげです。ありがとうございました」
「ううん。アレだけの威力が出たのはやっぱりニーナの魔力が高いからだよ。
それに口頭だけでイメージを掴んで使えちゃうのも凄いしね」

頭を撫でれば、ニーナはとても嬉しそうな笑みを見せた。
さて、妖精の皆に報告しなくちゃね。



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