鳥篭の夢

幼年期/妖精の頼み事03



妖精の小屋に戻れば、無事に倒せたのだと歓喜の声があがる。
と、妖精の1人がリュウのほっぺたにキスをした。

「ふへ?」

───ドタンッて思いっきり倒れ・・・・て、リュウ!?

「ど、どうしたの?大丈夫??」

見れば頭をふらふらとさせて焦点の合わない顔。
お礼のつもりだったんだろうけど・・・もしかして今のって混乱作用があるとか?

「凄いのよう!アイツをやっつけちゃった!!」
「イルカ、やっつけてくれてありがとう!」
「これで灯台が光ってももう大丈夫だよね?」
「大丈夫よう!」

心から安心したような、本当に嬉しそうな妖精の姿。
多分、あのイルカに散々苛められてきたんだろうなぁ。
それから妖精は小さな丸い繭・・?みたいなものを抱き締める。

「今まではアイツが怖くて仲間を増やせなかったけど、これからはいっぱい増やすわよう!」
「あら、それはー?」
「あのね、あたし達妖精はー・・・あ!」

ふわりと繭が光を帯びた。中が割れて、ゆっくりとその中から妖精が姿を現す。
・・・なんだか凄く幻想的な光景。
思わず見惚れていると妖精の1人がニッコリと笑った。

「あたし達ここを立派にするから、時々遊びに来てね?きっとよう?」
「うん。是非遊びに来させてもらうね」

・・・・・・あ。でも、行き方はわからないけど。まぁ、何とかなるよね?きっと。
それから“泊まっていって”って言ってくれた妖精の申し出を丁重にお断りしてラパラに戻った。
申し訳ないけど、皆で寝るにはちょっと狭いし。それにガーランドさん達は多分ラパラで待っててくれてると思ったから。


ラパラの宿に戻れば、予想通り2人は先に宿にいた。モモが“来てくれれば良かったのに~”なんて文句を言うけど・・。

「すまない。あの場所へ行く方法が見つからなくて・・な」

やっぱりそうでしたか。私達の時もそうだったけど、ラパラに戻る時に妖精が特有の移動手段で帰してくれたから。
それなのに自力で戻って来いっていう方が難しい訳で・・それに関しては責めようなんて思わない。

「それよりも、リュウ。そのままにしておくと風邪を引くぞ?」
「あ、うん」
「そうですね。海水でべたべたするし、早くシャワー浴びてこよっと・・」

言って、申し訳ないけども先に自室に戻って備え付けのバスルームに入る。うー・・べたべたする。
明日までは部屋にあった寝巻きで良いとして・・・それまでに服乾くかなぁ?

シャワーを浴びて砂や海水を一気に洗い流してだいぶスッキリ。
バスルームから出れば、部屋に戻っていたニーナの姿があった。

「あ、ごめんね?ニーナ。先にシャワー借りちゃった」
「平気ですよ。それじゃあわたしもお借りしますね」
「はーい、行ってらっしゃい」

ラパラに滞在している間、何日もこの宿屋で滞在してる訳だけど・・・変な部屋割りだなぁって思う。
リュウとガーランドさん。モモとペコロス。私とニーナ・・・って何だか変じゃない?
それならモモとニーナ、私とリュウ、ペコロスとガーランドさんで良かった気がする。まぁこれでも良いんだけど・・・。
でもやっぱりずっとニーナと同じ部屋なのは少し参るかもしれない。私は姉妹だって分かってて、1人だけ気まずい。

酷く手持ち無沙汰で、シャワーの音を聞きながら翼の手入れ。“黒い翼”なんて呼ばれてるけど、実際には紫がかった色。
確かに“不吉”を連想しなくは無い。特に一般的な色が純白か或いは白に少し色が混じったようなものだから・・・。
───と、そんな事を考えてると精神的に沈んでくるなぁ。止めとこう・・・・。

でも・・何の手懸かりも見つからない・・・レイとティーポの事。
天使の塔でリュウの用事が終わったら一度村まで戻ろうかな?
思いがけない情報が手に入ったりして。なんて、淡い期待を抱いてしまう。戻ってるなんて事は無いよね?
1人だった頃も何度か戻った事があるけど、一度も出会わなかったし、家もそのままだったもんね。

さん?どうかしたんですか?」
「ん?何でもないよ、大丈夫。ほら、髪の毛濡れたままになってる・・」
「あ・・」

わしわしとタオルで優しく髪の毛を拭いていく。
最初は“自分でやります”って言ってたけど、すぐに任せてくれた。
私と同じ色合いの金髪。ちらりと背から小さな翼が覗く。
適当に放置されたあまり手入れのされてない翼。もしかして届かない?

「ニーナ?翼の手入れってした事ある?」
「え?いえ、自分では無いです・・それに、手が届かないから」
「そっか」

頷いて、一通りタオルドライが終わってから翼の手入れを始める。ふわふわとした柔らかい和毛。
今この大きさって事は、多分成長してもそんなに大きくならないんだろうなー・・・。

さんって何だかお姉さんみたいですね?」
「・・・そう?まぁ、これでもリュウとティーポのお姉さんだしね」

ちょっとだけドキッとする。悟られないように翼の手入れに集中。

「わたし、ずっとお姉さんがいたらなって思ってました」
「あはは。妹ならともかくお姉さんは無理だしねぇ」
「そうなんですよー。侍女がお姉さん代わりみたいな感じだったんです」
「あ、そっか。お城にいれば侍女がつくんだ」

セシルを思い出す。私にとってもセシルは姉のような存在だった。

「でも・・やっぱりさんの方がお姉さんみたいです」
「姉妹じゃ敬語は使わないよ?」
「あ・・そうですね」

くすくすと笑い声。
どうしても突き放すような言葉になってしまう・・・怖いから。

「でもねニーナ。私じゃあくまで“代わり”だよ」
「うーん・・やっぱり翼があるからかなぁ・・・?」
「・・・黒い翼はどうかと思うけど?」
「そんな事無いです!さんがお姉さんだったら良かったのに・・」
「あ・・」

───ズキリ、心が痛む。
私は何を言おうとしてるんだろう?言っても仕方ない事なのに・・・城にはもう戻れない。
と、ニーナが不意に不思議そうな顔で私を見るから、思わずぽんって軽く肩を叩く。

「と、これでお手入れ終了!もうそろそろお休みなさい、ニーナ」
「・・そうですね。おやすみなさい」

少しだけ残念そうな顔。ごめんなさい、なんて心の中で謝罪。
・・・でも、なんて答えるべきか思い浮かばない。
“おやすみなさい”と返して、私はベッドに潜り込んだ。
早く寝てしまおう。船が戻ったら天使の塔に行かなきゃいけないんだから・・・。



inserted by FC2 system