幼年期/知る為に02
「天使の塔へは、俺とリュウだけで行く」
「え?でも2人だけじゃ流石に危ないですよ」
早朝から思いがけない言葉に私は思わず反論した。
リュウとガーランドさんだけ?どうして急に・・・?
そうする事の意味が分からないしメリットが見えなかった。ニーナも不安そうな瞳を向ける。
「わたし達が一緒じゃ、ダメ?」
「悪いが、竜族に関する事で・・・な」
「そう・・ですか・・・」
何だか妙に胸騒ぎがした。あまり良い予感がしないって言うか・・・不安で仕方ない感じ。
だけどリュウは心配させまいと精一杯の笑顔を見せる。
「大丈夫だよ、姉ちゃん」
「リュウ?」
「ぼくは大丈夫。だから姉ちゃん達は待ってて」
決意が込められた瞳。此処から先は多分、私が踏み込むべきではない領域なんだろう。
不安は・・・まだ残ったままだけど、それでもリュウが行って来るって決意したんだったら見送らないとね。
「分かった。でも、無茶はしたらダメだよ?」
「うん!」
「ちゃんと元気で帰ってきてね?」
「うん!分かってる、大丈夫だよ!!」
そうして私達はリュウとガーランドさんを見送った。
ほんの少しのような、とても長いような時間が過ぎていく。
時が経つのが酷く遅く感じられて、ただボンヤリと地面を眺めた。皆も同じ。喋るような気にはならない。
ペコロスがぼんやりと空を眺めて、それからうとうととしていく姿をじっと見る。何だか凄く気持ち良さそう。
「ぴゅー・・・ぺふー・・」
「もぉ、ペコロスったら暢気なんだから・・」
とうとう完全に寝てしまったペコロスにニーナが不満を漏らす。
それ位、リュウを心配してくれてるって事だよね。
───ドォンッ
「ぷきーっ!?」
「な、何・・?」
何かが壊れるような激しい音と衝撃。それとほぼ同時に一筋の光が空へ飛び上がって空の彼方へと消えてしまった。
ゾワリと、あの光から酷く強い力が感じられたのは気のせいなんだろうか?良く分からない。
「凄かったわねー?今の」
「何かがあったのかな・・・?」
もしかしてリュウに何かが?そう思ったら一気に背筋が凍る。
一瞬だけ頭が真っ白になって気付いたら飛び立っていた。
「ちょっと!ーっ!!」
「さんっ!!」
モモとニーナの呼ぶ声が遠い。とにかく2人に会って確かめないと不安で仕方がなかった。
やっぱり無理にでもついて行けば良かったなんて、今更になって後悔。私、そんなのばっかりだ。
必死に探して、それから漸く大きな巨体が姿を見せる。アレは───
「ガーランドさんっ!!」
「・・・か。どうした?」
よろりと身体をよろめかせ、壁に手を付きながらこちらを見る。何?その酷い傷。
「どうしたじゃないです!この凄い傷・・それに、リュウは??」
「リュウは・・・戻ってこない」
「え?」
モドッテコナイ?
“戻ってこない”って、何それ・・・。
「それ、どういう事なんですかっ!!」
思い切りその身体を叩く。丁度傷の近くを叩いてしまって、私の拳が血に濡れて、それでもガーランドさんは呻く事もしない。
ただ深く黙り込んで・・・・・なんで?意味が分からない。どうしてリュウが戻ってこないの??
「詳しい話は後でしよう」
「あ・・はい。えと、すみません叩いてしまって」
「いや・・・」
謝って、傷を癒す。それでも頭の中はぐちゃぐちゃだった。リュウは、どうなるの・・・??
もう何も分からなかった。ただリュウがいないって事しか今は理解できなかった。
戻ってから、ガーランドさんは皆に“すまない”とだけ謝った。
「え・・何それ?ガーランドさん、リュウは??ねぇ、リュウはっ!?」
「ニーナ、落ち着いてっ!!」
「だってモモさんっ!リュウが・・リュウがいないの・・・リュウ、リュウっ・・───リュウっっ!!!」
「ニーナ・・!!」
ニーナを思い切り抱き締めた。さっきまであんなに取り乱してたのに、今は酷く冷静だった。
目の前に同じように取り乱した人がいるから、逆に・・なのかもしれない。だってまだ頭は混乱してるから。
「さ・・っ!うあぁぁぁぁぁんっ!!」
涙でぐちゃぐちゃの顔。それからニーナはずっと泣いて、泣いて、泣いて、泣いて。
涙が枯れるんじゃないかって思うほど泣いて・・・それで漸く、泣き疲れたように眠ってしまった。