鳥篭の夢

幼年期/知る為に03



「ウインディアに、送らないと・・ですね」

くぅくぅと眠るニーナの髪を撫でながら、ぽつりと呟く。

「そうだな」
「あ、それは私とペコロスで引き受けるわよー?は行きにくいでしょう?」
「うん・・ありがとう、モモ」
「良いのよ~、それ位」

ニッコリとモモは笑う。やっぱりリュウが戻らない事に対する戸惑いがあるのか笑顔はぎこちないけど。
それでも笑っているんだから私も笑顔で返す。ありがたい申し出ではあるんだから。

「でも、近くまでは一緒に行くね」
「えぇ。ありがとう~」
「ぷぃ~」


それから数日。泣いてばかりのニーナを抱きかかえながら、ウインディアの付近へ何とか辿り着いた。
私の頭の中もまだ空っぽのまま。それでも溶けてしまいそうな程泣き続けるニーナの頭を撫でる。

、さ・・・?」

しゃくり上げながら、漸く顔を上げたニーナに私はニッコリと微笑んだ。

「ニーナ、今日でお別れ。今までありがとう」
「・・っぇ・・っく・・・・なん、で?さんも・・・?
さん、も・・・きえて、なく・・なっちゃ・・ぅ・・・・の?」
「違うよ、ニーナ。消えるんじゃなくてお別れ。もう会えない訳じゃないんだよ。
これからも私達は元気で生きているし・・リュウもきっと元気でいるから大丈夫」
「でもっ・・でもっリュウは・・・」
「大丈夫だよ、私はリュウを探しに行くから。
ニーナはいっぱい眠って、いっぱい元気になって?
そうしたらきっとまた会えるから・・・・ね?」

それに、ニーナは何度も何度も頷いた。

「・・・はいっ!はい!!
だから・・絶対に、会いに来て・・?リュウと一緒に・・・」
「うん、絶対に・・約束だよ」
・・・」

モモが小さく名前を呼んだ。
それは私に用があるとかそういうんじゃなくて、きっと今の光景を黙ってみていられなくて・・。
もしかしたらモモはリュウが死んでしまったと思ってるのかもしれない。普通はそうなのかもしれないけど・・・。
だけどそれ以上は何も言わないモモに、私はただ笑みを向けた。

「モモも、ペコロスもまた会おうね。
このままずっとサヨナラなんて淋しいから」
「それは勿論よ~」
「ぷぃー!」
「それじゃあ、申し訳ないけどニーナの事お願いね」
「えぇ。任せて~」

そう笑顔で言って、モモとペコロスがニーナを連れてウインディアへと消えていく。さて・・・・・


「ガーランドさん。約束ですよ?何があったのか、全部教えてもらいます!」
「あぁ・・そうだな」

忘れていなかったのかと、少しだけ驚くような表情。
本当は皆と合流した時、私が詰め寄るものだと思ってたらしい。
確かにニーナがあそこまで取り乱さなかったらそうしていたかもしれない。それはニーナのおかげ。

それからキャンプで一旦落ち着いてからガーランドさんはゆっくりと話し始めてくれた。
“ガーディアン”として今までしてきた事・・・ガーディアンとして邪悪だとされる竜を殺してきた事実。
だけど同時に心の中にあった疑問。それがリュウと戦った事で尚更強い疑問となったらしい。

「リュウは生きている」

その言葉を聞けただけで、空っぽだった私の思考がクリアになったのが分かった。

「俺はリュウを殺せなかった・・・竜族という者はそれだけ強大な力を持っている。
奴等がその気になれば、俺達など束になっても敵わない程の力・・・だが・・・・・」
「リュウも・・今まで戦った竜族も、そうはしなかった・・・」
「ああ、そうだ。竜族がただ邪悪なだけの存在だというのなら・・・俺はずっと昔に死んでいる」

───パチ・・・
ガーランドさんが薪を投げ入れて、炎の爆ぜる音。

「ガーランドさんは、これからどうしますか?」
「そうだな。リュウを探して、俺の神の元へと連れて行く・・・」
「神様?」
「あぁ。そうして何故竜族を殺さなければならなかったのか、本当に竜族は邪悪な存在なのか・・・その真意を問おうと思う」
「だったら・・・」

私の答えはもう出ていた。リュウが生きてるなら、いなくなったならもう一度探せば良い。
レイとティーポだってまだ探してる途中なんだから・・・そう、探し人が1人増えただけ。それだけの事。

「私も・・一緒に行っても良いですか?」
?」
「足手まといだって言うなら無理は言わないですけど・・・。でも私サポートとか回復とか得意ですし。
そこまでガーランドさんにとって不必要にはならないかなって・・・・・ダメでしょうか?」
「いや。・・・そうだな、俺としてもそれは助かるが探し人がいるのだろう?」
「3人一緒に探そうかなーって思ったんです。1人増えちゃったし・・」
「ふむ、そうか」

どこか笑みを含んだ声。それに私もくすくすと笑う。

「私はもう大丈夫ですよ、ガーランドさん」
「ん?」
「リュウが生きてるって分かったから、もう大丈夫。
あんな風に取り乱したりはきっとしないし・・・それに、私は3人を見つける事を絶対に諦めないです」
「あぁ、心強いな」
「そう思っていただけるなら良かった」

小さく笑う声が、静寂に響く。そうして私の探し人の旅は、もう1人探す人が増えるというオマケ付きになった。
でも見つけてみせる。リュウもティーポも・・勿論、レイも。
どれだけ時間がかかっても見つけ出してみせる。
私は一度言い出したら聞かないし、諦めも悪いから。
でも、そうやって探してたらきっと3人に会える気がするの。



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