鳥篭の夢

青年期/目覚めた者01



あの時・・レイとティーポと離れ離れになって、リュウとも別れてしまったあの時から何年も経った。
ずっとずっと探し回ってるのに、手懸かりらしい情報は少しも入ってこない。
このまま挫けてしまえば楽になるのに・・・なんて、そんな事を何度考えたか分からない。
でも皆は生きてるって信じてるから、私はまだ3人を探している。

そんなある時“ガーディアンと見込んで”とガーランドさんに1つの情報・・というより頼み事。
その内容が───

「ダウナ鉱山・・ですか?」
「ああ。そこでドラゴンが暴れているらしい」
「暴れてる・・・」

ダウナ鉱山で暴れるドラゴン。リュウ・・・なのかな?
確信は無い。あまり“暴れる”っていうイメージが無いから。
とにかく、漸く手に入れた“ドラゴン”の情報を頼りに、私達はダウナ鉱山へと赴いた。


「ドラゴンが暴れているという鉱山は此処か?」
「あぁ、良かった!!アンタがガーディアンかい?本当に助かったよ~・・」
「それで・・ドラゴンは?」
「そうなんだ!!鉱山内で暴れ回るわ、火を吹くわで俺達じゃ手が出せないし・・・今まで何人もの仲間がやられちまった」

迎え入れてくれた工夫は、身振り手振りでそのドラゴンの凄まじさを語る。
・・・それがリュウかもしれないんだよね。
ちらりと見ればガーランドさんは渋い表情を見せた。

「ガーランドさん」
「多分、間違いは無いだろうな・・・」
「ですよね。だったら早く行かないと・・」

「おや?アンタ、珍しいねぇ。翼のある飛翼族なんて」

不意に私の翼に気づいた工夫が意外そうな顔をする。それに私は愛想笑いをして見せた。
旅をしてて分かったけど“黒い翼”を知ってるのは飛翼族かウインディアの人で、それ以外だと本当にごく僅かなんだよね。

「あ、これ先祖返りなんです」
「ほほう。で、お嬢さんも鉱山に行くのかい?」
「あ!こう見えても私強いんですよー!!」

そう言いながらこの鉱山の親方の元へ行き“ドラゴン退治”という依頼を受けて鉱山へ入る許可を貰った。
・・・・・まぁ、間違ってはないよね?
ドラゴンがいなくなれば退治したのと同じ意味合いにはなるだろうし。

暫く埃っぽい鉱山の中を進んでいく。こんな所にもゴキが出てきてちょっと泣きそうなんだけど・・・・。
ガーランドさんがパダーマで一蹴してくれて本当にありがたい。
うぅ・・これだけは何時まで経っても本当に苦手。
───と、小さな羽と緑色の鱗を持った何かが横切った。

「リュウ?」

それは直感。覗いてみれば、小さなドラゴンの姿。今までの戦闘では見かける事のなかったドラゴンの形。
でもそれがリュウだって何故か確信した。
臆病で、傷付く事が怖くて、傷付ける事も怖くて。だから、誰も近付けたくなくて暴れる。
リュウは私を見つけると警戒するような声を上げた。
すぅ・・と大きく息を吸い込む動作。多分、ブレス攻撃だと思う。

「飛べ!!!」

ガーランドさんの声とほぼ同時に私は空へと跳躍する。
その直後リュウが大きく炎を吐いて、ガーランドさんが後退する。
私はそのまま大きく翼を広げてゆっくりとリュウの傍へと降り立って、リュウを抱き締めた。腕の中でもがく小さなドラゴン。
爪が引っ掛かって鮮血が吹き出す。痛いけど・・絶対に離さない。

『グルルルル・・・』

懸命に離れようとする動作。
それでも私はやっぱり離さない。今離しちゃダメな気がした。

「止めておけ、
今のリュウは正気を失っている!!一度気絶させて・・・」
「・・・でも、リュウです。やっぱり攻撃は出来ないし、したくない・・・・・。
ほら、リュウ。大丈夫、姉ちゃんだよ。
もう怖い事なんてないから、誰も怒ってないから・・・大丈夫」
『ルル・・・―ゥ』

ピタリと唸り声が止まる。攻撃されるか、それとも分かってくれたか・・・それは分からない。
ただドラゴンは何かを思い出すようにじぃっと私の顔を見て、それからゆっくりと瞳を閉じて眠った。

「ほらね?ガーランドさん。
これが兄弟愛というものです!!」

ニッコリと笑えば、何とも呆れたような困ったような曖昧な顔をされた。・・・・ちょっと、それ失礼ですよ?
と、腕の中にいるドラゴンが光に包まれてゆっくりと形を変えて・・・えと・・リュウ?だよね。
あの頃よりずっと身体が大きくなってて、多分私よりも身長が高くなって。
眠る姿に面影は残ってるけど、ずっと成長した姿。
そうだよね・・あれからもう何年も経ってるんだもんね、リュウ。
・・・・・・・・・でも

「やっぱり服は着てないんだね」

レイが拾ってきた時は小さかったから良いけど、流石にこの体格で裸はちょっと恥かしいんですが・・・。

「ん・・・うぅ」

「あ。リュウ、起きた?」
「あれ?ねー・・ちゃん?」
「そうだよ、良かった。・・・久しぶりだね」
「ぇ・・と?」

私の腕をどけて、ゆっくりと起き上がる。
恥かしくて顔以外に視線を移せない訳だけど・・・でも、無事で良かった。
それから、リュウは気付いたようにガーランドへと視線を向けた。

「ガーランド・・・」
「お前が天使の塔からいなくなって、と共に何年も行方を捜した。
潰れかけの鉱山にドラゴンが出ると聞いて・・・・・リュウ、此処はお前の・・・・・・」

そこでガーランドさんは言葉を切った。
ゆっくりと何度も首を横に振る。

「リュウ、お前は俺を憎んでいるか?」

それにリュウはただ視線を逸らして沈黙する。
“多くの竜族を殺した”のだとガーランドさんは言っていた。
だから多分、その事を聞いてるんだろうけど・・・それでもリュウは何も言わなかった。憎んでるとも、憎んでないとも。

「俺は沢山のドラゴンを殺してきた。
それが俺の使命だと思っていた・・・だが・・・・・・・いや、まずは此処を出よう」

ぽい、とガーランドさんが袋を投げる。
此処に来るまでに買っておいた装備が入ってる袋。それをリュウはただ眺める。

「装備だ。俺の話を聞いてくれるつもりがあるなら一緒に来てくれ。
此処は何時までも俺がいて良い場所じゃない」
「それは、此処がドラゴンのゴースト鉱がある場所だから・・・ですか?」
「ああ」

肯定するガーランドさんに、私も頷く。
ゴースト鉱とは魔力のあるものが死んで、長い時間をかけて生まれるもの。
つまり此処はドラゴンの墓場・・みたいなものになるんだよね。
確かにガーディアンがいて良い場所じゃないかもしれない。
それからガーランドさんは1人先に行ってしまった。

「・・・・ねぇ、姉ちゃん。あれから、どれ位経った?」
「7年、かな。これでもずっと探してたんだよ?」
「・・・ごめん」
「ううん。私こそ迎えに来るのが遅くなってゴメンね」

そっと両頬に手を添えて、コツリと額を合わせる。
覚えてないって事は、もしかして中身は子供のまま・・・・なのかな?

「それでね?リュウ」
「うん?」
「早く服を着てくれると、姉ちゃんは嬉しいんだけどな?」
「・・・・・え?うわっ!!」

下を向いて、漸く自分が全裸だって事に気付いたのかリュウは真っ赤になって私から離れて袋で身体を隠した。
それが何だか面白くて私はくすくす笑う。
ていうか、今まで気付いてなかったんだね、リュウ。

「じゃあ、私も向こうでいるから・・・決めたらおいで?」
「・・・・・うん」

リュウが頷いたのを確認してガーランドさんの後を追う。
といっても少し先で待っててくれたんだけど。
何も言わずに迎え入れてくれて、腕の怪我を治しながらただ沈黙を守ってリュウを待った。



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