鳥篭の夢

青年期/目覚めた者02



───コツリ

足音が近づいて顔を上げる。
装備したリュウの姿。ガーランドさんが瞳を細めた。

「お前が俺を殺す気なら、お前にはその力も、そして恐らくは権利もある。
だがお前は自分を殺そうとした俺にとどめを刺さなかった。500年前のドラゴン達がそうだったように・・・」
「ガーランド・・それは・・・」
「ドラゴン達が本気を出していたら、今頃ゴースト鉱になっていたのは俺達の方だっただろう。
・・・如何してドラゴンは大人しくやられた?如何して俺達の神はドラゴンを殺させたのだ・・!!?」
「ガーランドさん・・」

それは私と旅をしている時にも度々口にしていた言葉。
それ程までにガーランドさんの心を縛り付ける事。

「こんな事とても言えたギリでは無い。だが、俺は真実が知りたいのだ。
・・・・だからそれまで俺の命を預かっておいてくれ」

リュウはしっかりと頷いて、それだけで子供の頃よりも成長しているのが分かる。

「・・・・すまない」

「さて。とりあえずは鉱山から出ましょ?
ガーランドさんも此処から早く出た方が良いみたいだし・・」
「うん、そうだね」

不意にぬるい風が吹いた気がした。
それに足を止めると、2人が不思議そうな顔をする。

「どうかしたのか?
「何かいた?」
「あ、ううん。何でもない」

・・・・・・もしかしたら此処ってリュウが生まれた場所なのかな?って一瞬そう感じただけ。
でも子供の時も“拾われる前の事は分からない”って言ってたし、訊かない方が良いよね?


「・・・って、あれ?此処の入り口って封じられてましたっけ?」

出口が岩で塞がってる。来る時は普通に入ってきた筈だけど・・・道を間違えたとか?似た様な造りなのかも。
そうじゃなきゃ、短時間でガーランドさんでも動かせないような大岩が増える訳無いし。

「いや。・・ふむ、俺の記憶違いか?」
「うーん、私も此処に岩なんて無かったと思うんですけど・・・とにかく、出る方法を考えないと・・」
「姉ちゃん!!これとかどうかな?」

腕を組んで悩んでいると、遠くでリュウが呼ぶ声。
トロッコに乗ってるのって・・爆弾?

「リュウ。本当にこういうの見つけるの得意だね」
「そうかな?」
「うん、そうだと思うよ」

マクニール邸の時も、いち早く壁を見つけたのはリュウだったもんね。

あ、なんだかちょっと懐かしいかも。
ガーランドさんが力一杯にトロッコを押す。それは一直線に進んでいって・・・あの岩に・・・・

───ドォンッ!!

当たった・・けど、うわ・・・岩と一緒にトロッコも粉々に壊れてちゃった。

「これで通れるだろう」
「そうです───」

ゾクリ、と背筋が寒くなって言葉が止まった。
気配に気付いたリュウが剣の柄に手を伸ばす。・・・・何?黒い靄みたいな。

『───勝手なマネはさせんぞ。ガーディアン!
・・・・・何故だ、リュウよ』
「如何してリュウの名前を?」
『───リュウよ、何故この男を生かしておくのだ?・・・我等の敵をっ!!?』

問いに答えず、その黒い靄はリュウに語りかける。
それにガーランドさんがゆっくりと口を開いた。

「ドラゴン・・・か?」

やっぱりその問いには答えない。
と、黒い靄が一度凝縮して、直後に視界一杯に広がった。

「きゃっ!」
「姉ちゃん!!」

庇うようにリュウが私の前に立つ。
今までとは立場が逆転してて・・何だかちょっと変な感じ。
見れば、その黒い靄があった場所から見る見る内に赤い血液が溢れ出て・・・え、何?これ。
血液の中から勢い良くドラゴンの骨が姿を見せる。ゆらりと体内から溢れる光。

『───500年振りだな。見えるか?ガーディアン。我等一族の恨みの血が・・・!?
そんな我等を根絶やしにしようとしたお前が、今度はリュウをどうしようと企むのだ?』
「・・・俺はリュウを連れて、俺達の神に会いに行く」
「え?」

まだ詳しい話をしていなかったからか、リュウが驚く。
少しだけ困惑するような色が混じっている表情。

『───最後のドラゴンを生贄に捧げるとでも?』
「そんな事無いっ!」

私が強く反論しても、ドラゴンはガーランドさんから視線を外さない。
ただガーランドさんはゆっくり首を横に振った。

「確かめる・・・500年前の大戦が正しかったのかどうかを・・・」
『───くだらんっ!
・・・リュウ、そいつを殺せ!我等が一族の恨みをはらせ!!
そいつらガーディアンに一族は滅ぼされたのだ!!』
「・・・嫌だ」
『───何故だ!?そいつが憎くないのか!!?』
「・・・それは───っ!」


『───ウルサイッッ!!!小賢しい真似をするなっ!!

まだリュウは何も答えていないのに、それでもドラゴンは叫んだ。一体、何が・・あったの?
2人を見るけど、やっぱり分からないって顔をしてて・・多分あのドラゴンにだけ何かがあったって事だよね?

・・・と、ドラゴンが急に地団駄を踏んだ。
コツンって頭に何かが当たって・・・白い・・骨?

「って、えぇ!?」
「姉ちゃん危ないっ!」

バラバラと頭上から降ってくる骨に私は思わず唖然。
それから思い切り押し倒されて・・あれ?リュウ?
上から降ってくる骨を私から守って、全部それを受け止める姿。
ちょっと待って、それ結構痛いんじゃない・・・?

「リュウ退いて!私は大丈夫だから・・ね?」
「ううん、へーき・・だか、ら・・・・」

ドサリとそのまま私の上に覆いかぶさるみたいにリュウが倒れ・・・て!それ、全然平気じゃないよ!

『───さぁ、滅ぼすのだ・・リュウ』
「・・・リュウ?」

まるで声に呼応するようにリュウがゆらりと立ち上がる。
ガーランドさんへ向けた視線が不穏というか。
何だか目つきが危ない・・・もしかして操られてる、とか?
ガーランドさんは無事みたいだけどリュウを傷付けて欲しくないし・・・うーんと、どうしたら・・・・あ!

「ガーランドさん、ちょっとリュウをお願いしますね!」
「あ?ああ、分かった」

『───何だ?小娘。一体何をするつもりだ?』

笑うような声に構わず私は精神を集中させる。
7年間、私だって何もしてなかった訳じゃない。
あれから分かったけど実は“聖”属性が私の得意分野。まぁ、代わりに攻撃は全然使えないけどね。
でも、多分これなら効くと思う。このドラゴンが恨みから生まれた可哀想な存在だとすれば───

「───・・・キリエ!」

唱えると同時に虹色の光がドラゴンを包み込む。
それは一瞬の出来事で、断末魔の悲鳴を上げる前にドラゴンの姿は消滅した。

「・・・い・・てて、あれ?」
「あ。リュウ、大丈夫だった?・・・リリフ」

不思議そうな顔。多分、自分が操られてたなんて記憶にないんだと思う。
でも無事で良かった。・・なんて思ってると不意に背後から強い力を感じる。
見れば、背に竜の翼が生えた女性が何時の間にか佇んでいた。


『それは、ドラゴンではない』
「・・・お前は、竜族か?」

ガーランドさんの問いに、女性は酷く悲しげで柔らかい笑みを浮かべる。

『真の竜は───』

その指はリュウへと伸びていた。
と、女性は美しい緑光になってリュウの中へと消えていく。
今のは・・なんだったんだろう?

「リュウ、今のは・・・・?
真の竜・・確かに、そう聞こえた。それは・・・・?」

問いに、困ったような表情でリュウは答えあぐねていた。
自分では分からないと瞳が訴えている。

「んー・・自分の種族でも分からない事って沢山あると思いますよ?ガーランドさん」
「・・・・あぁ、そうだったな。すまなかった」

それにリュウは首を横に振った。
どこか少しだけホッとした表情に私も少しだけ安心・・かな。



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