鳥篭の夢

青年期/人食い虎の報復02



「ガーランドさん、此処から先は2人で行っても良いですか?」
「む?」

シーダの森の奥、私達の隠れ家があった場所の近く。
獣の呻くような声が低く響いているのが聞こえて・・この先にレイがいるんだ。
それから私の出した1つの提案にガーランドさんは真剣な瞳を返した。

「ふむ。あの虎の事を何か知っているのだな?ならば待とう・・」
「ありがとうございます。リュウ、行こう」
「うん」

リュウに一度目線を向けてから焼け落ちた家へと進む。
獣の声が・・大きくなっていって・・・・


「───レイ?」

見れば、あの頃よりももっと大人になったレイの姿。
傷は自分でどうにかしたのか塞がっている。
私達の姿を見て・・否、私の姿を見て瞠目したのが分かった。

・・・それにリュウ、か?」
「うん、そうだよ───・・ゎっ!」

柔らかく微笑めば、急に手を引かれて強く抱き締められた。懐かしい心地良さと、温かさ。
頭上でレイがまるで安堵するように深く息を吐いたのが分かる。
・・・もしかして獣だった時の事、覚えてるの?
見上げれば苦笑するような顔で、それから真剣な表情になると視線をリュウへと向けた。

「オウガー街道で・・会ったな」
「・・・・うん」

リュウが小さく頷く。それにレイが口の端を歪めた。

「く、くくく・・・───そうかよ、やっぱりお前だったのかよ!!?」

片手で顔を塞いで一頻り自嘲する様に笑ってから、視線をリュウに投げ寄越す。

「いやいやいや。愉快だねぇ、リュウにやられるとは!
・・・これでも結構本気で戦ったんだが、なぁ?」
「兄ちゃん・・」
「しかし・・・まぁ、無事で良かったよ、リュウ。俺はてっきり・・・・」

多分“死んでしまったんだと思った”と、続くんだろう言葉をレイは飲み込んだ。
視線がゆっくりと私に落ちて、今はもう無い傷があった箇所で止まる。そこを指で軽くなぞった。

。・・・・あの時、大分深い傷付けたな」
「治してもらったから平気だよ」
「・・・・そうか」

言って、抱き締めていた腕を解いた。そのままふいと視線を遠くへと投げる。

「オウガー街道の向こうに闇市って場所があって・・マクニールとつるんで俺達を殺しに来たのはそこの連中なんだ。
長い事かかったんだが、やっと突き止めて、街道で闇市に出入りする人間を見張ってた。
片っ端から襲って、お前達やティーポの仇をとろうと思ってた。けど、あのザマだ・・・」

軽く肩を竦める。それに私もリュウも何も言えない。

「お前ら2人が生きてて、強くなったのを知って・・・ちっとは気が軽くなったけど・・・」

強く拳を握って、奥歯を噛み締める。気が軽くなったとは思えない仕草。
振り向いた姿を見て私は息を飲んだ。
瞳に映っていたのはまるで闇みたいだった。ただ復讐に燃える濁った瞳。

「・・・いや、違うな。
やっぱり俺は思い知らさないといけねぇ・・俺の家族に手を出した連中にっ!」
「レイ、待・・・っ!!」
「兄ちゃ───っ!!」

名前を呼んだけど遅かった。あっという間に飛び降りて、木々の間を素早く移動して姿を消す。
どうしてそんな事をしようとするのか分からなかった。
それにまだ私はバリオとサントを倒した事も伝えてない・・。
レイが今やってる事はただ暴れてるだけ。
でもそれは多分レイ自身気付いてる・・・そんな事をしても無意味だって事。
あぁ、泣きたい。でも泣いちゃダメだ。
見れば、リュウも同じように唇を引き結んで涙を堪えているようだった。

「・・・行かなくちゃ、姉ちゃん」
「え?」

ぽつり。漏れた言葉に、私は間抜けな返事を返す。

「兄ちゃんを止めなくちゃ!」
「・・・うん!そうだね、急がなくちゃね」

これ以上、誰かを無闇に殺して欲しくない。
私は、レイが誰かを傷付ける事を恐れている事を知ってるから。
レイが本当は優しい人だって事も知ってるから、お願い、これ以上誰かを傷付けないで───。


それからガーランドさんと合流して村に戻れば、フードを頭から被った男―ズルスルが全身から血を流しながら蠢く姿が見えた。
多分、レイだと思う。近くにいたおばさん達も“今のはレイじゃなかったか”ってひそひそ噂話をしてるから間違いない。
放っておくのも何だか気が引けて、リリフをかけてから思いっきり一回だけビンタしてやった。
うん、ちょっとだけスッキリ。
視線を向ければ、リュウの何ともいえないような表情。
でもちょっと嬉しそうに見えるのは気のせいかな?リュウ。



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